Part Ⅰ
──ここはとある世界。
『猫族』の住む大陸の火属性・長、火の国の皇女イブリース。
今、彼女に…ある危機が迫っていた。
今朝未明。何者かが城に侵入し、命を狙われているからだ。
現在はある部屋に身を隠しているが…そう長くは持たないだろう。
イブリースの他に、地下に身を潜める者がいた。
妹のイフリート。彼女も姉のイブリース同様に狙われている。
騎士軍隊長であるレイズと魔術師のフレア。主を守る為、共に身を隠している。
「姉上…あの者は一体…」
「…我にも分からん。何故、我等を狙うのか…」
イフリートが怯えた声で尋ねる。イブリースが困惑気味に言う。
「…御姉様」
暫く外を見ていたフレアが、レイズを呼ぶ。
「…どうした」
「…あれを…」
フレアが城下町の方を指さす。その先を見ると…なんと。
人々が、異形の姿に変えられていた。
「民が…!?」
「あれは、『呪い』の一種です」
「『呪い』…?」
「はい。人々を黄泉の者の姿に変える。
しかし、高度な魔術を…あれほどの人数で一度に…」
「敵は相当な魔力を持っているとい………皇女!!」
その瞬間、部屋の扉が破壊された。
レイズは鞘から剣を散り出すと、フレアに向かって言う。
「フレア。あの術を使って、皇女達を」
「あの術って…あれは不安定で…」
「それしかないんだ。私が時間を稼ぐ、その間に」
「御姉様……分かりました…」
フレアは、ある魔法を唱え始める。
イブリースとイフリートの周りに、光が溢れる。
「フレア…!? 貴方いったい何を…!?」
「今から異世界への扉を開きます。御二人はそこからお逃げください」
「なっ…馬鹿、止めろ…!!」
「いいえ。止めません」
フレアは意地でも二人を逃がすつもりらしい。
二人の姿は、徐々に消えてきている。
「この魔法は、不安定なもので、『仮の姿』に変化させられてしまう可能性があります…
ですが、御二人ならきっと…乗り越えられると信じております…」
──どうか、ご無事で…
二人を異世界へ飛ばした後、扉は消滅した。
それまで抵抗していたレイズは剣を下し、フレアのいるところまで後退する。
「我等の使命は主を守ること。目的は果たせた」
「そうですわね…これで良いのですね」
「…のわああああ!!!!」
イブリースとイフリートは、転送された場所が空中であるため、
落下する形で異世界に入ることになった。
「イテテテ…ん?」
「痛ったー…ん?」
二人は自分達の言葉に、違和感を感じた。
「…なあ、イブリース…俺ら…」
「ちょ、姉さん…」
「「………はいっ!?」」
二人は声をそろえて驚きの声を上げた。
何故かというと──
「「──なんで猫ぉおおおおおおお!?」」