01.
ひとつめー
「活気のあるいいところですね、ここは。他の国ではこうはいきませんからね」
そうマキナはとなりの弟に話しかけるが、ノルンは答えずもくもくと歩く。
マキナはもとから返答は期待せずに声をかけたのだろう。微笑みながらノルンのとなりを歩く。
二人がいるのは季凪の首都、名前はそのまま季凪市の街路。
ここにある季凪学園の学生寮に向かっている。
学園に通うことになり、学生寮で兄弟二人暮らしになるため買い出しに出ていたのだ。
ここで一応、周りの様子を伝えよう。
なぜわざそんな事をするか?
と、思うだろうが、まあ、見てくれ。
ヨーロッパを日本で再現してさらに違和感がないようにしたら、という建物と水路がある。水路は小舟がすれ違っても余裕があり、深さも立てないぐらいの大きさ。それが広い石畳の道の左右にあり、通行用の橋がかかっている。街路樹も多く、車道と歩行者を分けるように植えてある。
ここまではいい。なんとなく外国にはこんな町もあるだろう、思うような光景だ。
人が空を飛んでいなければ
というか、水路の中を歩いているのもいる。
それどころかここにいる人の半分以上が人間ではないのだ。
鱗があったり角があったり、犬耳猫耳とかは当たり前。空に飛んでいるのは翼のあるやつだったり、手のひらサイズの翅の生えた奴だったり。
決してコスプレとか仮装とかではない。
きちんとした生物で、今現在地球の人口約3分の2が彼等なのだ!
数年前に起きたとある災害によって人間の数は激減し、正確にはわからないが、今では20億にいくかどうかといった感じだ。
そんな中彼らは突然現れ、今ではこうして人とともに生活している。
詳しいことはここではやめて、いったん戻ろう。
ノルンとマキナはその奇妙な街中を歩いて、都市の中心へと向かっている。学校も寮もそちらにあるのだ。
しばらく歩くと二人は一つのアパートに入っていく。かなり大きく、広い庭付きの5階建てのアパート。なかなかに清潔感が漂ういい外観だ。
部屋に入った二人はそれぞれの行動に移る。
マキナは買ってきたものを整理して納める作業へ。ノルンはソファーにふんぞり返って目をつぶっている。
「少しは手伝うとかしないのですか、ノルン?」
と、マキナが聞くがノルンは
「めんどくせぇ」
の一言でそれ以降何も言わない。
マキナはため息をつき、しかし文句は言わない。二人にとってこのようなやり取りは日常茶飯事なのだろう。マキナは注意するのよりも作業を優先した。
明日は入学式。今日中に部屋を整えておかなければいけない、とマキナは考えていた。
一方ノルンはぼうっとしている。
そもそもこの学園に入学するのもノルンにはどうでもいいことで、単に保護者に入っていたほうがいいだろうと入れられただけ。
ノルン自体は一人放浪でもしようと思っていたのだが、保護者とマキナに止められ強引に連れてこられた。
なので目標とか目的があってここにいるのではないので、考えることがないのだ。
保護者やマキナはどうせあのことで俺をここに入れたんだろうがな。
と顔をしかめながらつぶやく。
「よし、これでおわりですね」
整理し終わったようだ。マキナが洗面所の方から出てくる。
「ノルンは明日の用意はできているのですか?」
「んなもん、明日でいいだろ。全部鞄にまとめて入ってんだから」
と返すノルンはいまだにソファーで横になっている。
「……まあ、いいですけどね」
こうして、新生活1日目が終わる。