#8
文風がやってきたのは、ミヅカキが逃げた僅か1分後だった。
「恵鞠ちゃん! どうしたのその怪我!」
彼女はすぐさま倒れている恵鞠の元へと駆け寄る。
「え、エンネイティアの輩にやられました……」
「そ、そんな……恵鞠ちゃぁぁぁん!!!」
彼女は恵鞠を抱き抱え、天を仰いで叫んだ。
「……いや、生きてるぞソイツ」
「恵鞠ちゃぁん!?」
「あ、バレました?」
恵鞠はひょろっと起き上がる。
さっき、足から大量の出血をしていたのに、今や元気に飛び回っている。
というか、太ももの出血ってほぼ致命傷なんじゃなかっただろうか?
「恵鞠はもう元気ですよ! それじゃあ戻りましょうか!」
彼女はピンピンとしていて、その場で何度もジャンプした。
「お、おう」
「恵鞠ちゃん……わたしおんぶしよっか?」
「お願いします!」
夕方、恵鞠は治療室から出てきた。
貧血は間違いないと思われていた出血量だってのに、その診断結果はただの軽い怪我だった。
それどころか、治療室から出る時にはもう怪我は跡形もなくなっていた。
「それじゃ、帰りましょうか」
「……あぁ」
彼女の異常な回復力は一体何なのか。
その疑問がひたすら頭を回り続けるうちに、家へと戻ってきた。
「あ、おかえりなさーい」
夕方ともなると、言須の姿がくっきりと見える。
「それじゃ、恵鞠は料理の準備を……」
「ちょっと2人とも! わたしを置いてくだなんて酷くない!?」
突然、リビングの窓を勢いよく開いて入ってきたのは、私服姿の文風だった。
落ち着いた色合いの服を着ていて、地面スレスレの長いスカートを履いている。
「あ、すまん。色々とあって忘れてた」
「そういえば文ちゃん先輩一緒に住むんだったね」
「誰ですこの人?」
言須だけはよく状況がわかっていないみたいだ。
「文ちゃん先輩、紹介しますね。この人は言須ちゃんで幽霊です」
「幽霊?」
文風は疑いながら言須に手を伸ばす。
そして触れようとすると、その手は彼女の胴を透け、空振りした。
「!?!?!?」
文風は驚いた表情で自身の手を見て目を疑っている。
「それじゃ、恵鞠は料理の準備をしてきま〜す」
「あ、わたしもっ……!」
文風はその場から逃げるようにキッチンへと向かっていった。
その場には、俺と言須だけ残される。
俺は、言須に声をかけた。
「なぁ、お前と恵鞠って長い付き合いだったりするのか?」
「はい。彼女が10歳くらいの頃から一緒に暮らしてます。その頃はまだお風呂も倒壊してなかったんですよ」
そういえば、まだお風呂入ってなかった。
近いうちに銭湯に行こう。
「恵鞠って……他の人と違うよな?」
「ん? それはどういう……」
「今日、彼女の異常な回復を見た。とても人間のものには見えない」
「……いつか教えてあげますよ。だから、今は仲良くしてやってあげてください」
「……」
「……」
その場に沈黙が走る。
やっぱり、彼女との会話はあんまり長続きしない。
恵鞠が不在の間、賑やかしがいないから余計に時間が長く感じる。
「……あの、文ちゃん先輩って人、監視役みたいですけど、手駒に取ることは容易そうです」
「文ちゃ……あぁ、文風の事か。栗ヶ楽文風。てか、なんて事考えてるんだよ」
「栗ヶ楽さんですね。そういえば、あなたの名前も聞いてなかったです」
「……俺は三津怜太郎だ」
「よろしくお願いします、怜太郎さん」
そこからしばらくすると、リビングの扉が開かれ、料理が運ばれてきた。
昨日はとにかく米、味噌汁、もやしだったが、今回は鮭の塩焼きに漬物、味噌汁に米と、少しだけ豪華になった。
「いや〜! お金があるって幸せ!」
「恵鞠ちゃん、普段はどんな生活してたの……?」
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