#30
旅館の中に入ると、まず目の前に現れたのはエネリアだった。
「やぁやぁ久しぶり」
腕時計から言須が出て来た。
「エネリア! もうやめて!」
「茶番だね。結局わたしたちはアンタの外装にしか興味がないんだ」
言須はしょんぼりして時計に戻っていった。
バンボヤの時はどうにかなったけど、人望なかったのか?
「で、君とわたしの実力の差は歴然だよね?」
「あぁ、そうだな」
「だからさ、少し趣向を変えてみることにしたの」
「何?」
彼女は振り返り、旅館の奥へと進んでいく。
「ついて来なよ。面白いものを見せてあげるからさ」
「そんな余裕、ないんだが?」
「別にもういいじゃない? だって、わたし達の方は準備が全部済んでるの。アンタらの味方だった筈の人たちが車を壊しちゃったせいで時間はたっぷりあったの」
そうか……何をしていたのかは分からないが手遅れだったか……
「話ぐらいは聞いてやる。何をする気だ?」
彼女はゆっくりと息を吸ってから答えた。
「……これからの未来の話をしよう」
……は?
「唐突だな。それでいて訳がわからない」
「ま、そうだよね。でも考えてもみなよ? この先でわたし達が勝っても、あなた達が勝っても、この先の未来には特殊能力を持った存在が残る。だから、その先の話をしようって言ってるんだよ」
その先……
「それで、お話をしたいんだよ。交渉でもある」
「……話だけ聞こう」
「それは何より。さ、そこに座りなよ。罠を疑うなら、わたしが先にあなたの指定した席に座る」
彼女は右前方にある対面式の机と椅子を指差した。
「なら、下座に座れ」
「ふーん、いいよ」
そう言って、彼女は手前側の椅子にちょこんと座った。
次に、俺はその正面にある奥側の椅子に座った。
「改めてこの先、この世界はどうなると思う?」
「どうって……変わらないだろ」
彼女は机を指でトントンと軽く叩く。
「しばらくはそうだろうね。でも、数100年先、人間の世代の移り変わりが何度も行われた頃、どうなると思う?」
「……恵鞠やバンボヤがもし、遺伝を残していれば、その特殊遺伝が広がる……人間の新しい在り方が生まれる?」
彼女はニヤッと笑顔を浮かべた。
「その通り。もうこういう体になってしまった以上、わたし達特殊な人々はもう遺伝を残さないようにするか、それとも世界が新しくなるか、それしかない」
「だからなんだ?」
「あと数十年もすれば、また同じ事の繰り返しになるかもって話」
「……あっそ。そういう事は、そういう時に考えればいい」
俺が立ち上がろうとすると、彼女は慌てて止めようとする。
「ま、待って! まだ話があるの! わたしさ、夢があって、その一歩としてコレを渡したかっただけなの!」
彼女は一枚のQRコードの書かれた小さな紙を取り出した。
「全部終わったら読みなよ、どちらが勝っても、仮にわたしが死んでも、これは必要だと思うし、わたしの夢なの」
無言で紙をポケットにしまった。
「そ、それで終わりならもう行くさ」
「……先に言っておく。その紙は数年か数十年後、なくてはならないモノになるって」
そう言う彼女を背に、建物の奥へと進んでいった。
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