#3
突然、後方から巨大な爆発音が鳴り響いた!
「なんだ!?」
すぐさま振り返り、爆発地点の様子を見る。
かなり離れた高層ビルの中層階で爆発が起きていたようだ。
「まさか、またアイツらが!?」
恵鞠はすぐさまベンチから離れ、爆破地点へと走って向かっていった。
……俺も向かうか。
クイッカブルで全身を加速させ、ひと跳びでその爆破地点まで辿り着いた。
その場には何人も負傷した人々が倒れている。
「あら、貴方は特装隊じゃないのね」
数々の負傷者がいる中、ただひとり無傷で立ち、余裕の表情を浮かべる女性がいた。
長い赤と黒の髪で、服といえないほどに布面積の少ない黒いスーツを着ていた。
異世界にも結構いるんだよな。こういう変態ファッション野郎。
「この爆破、お前が原因か?」
「いかにも、私の力によるものよ」
彼女は指をパチンと鳴らすと、周囲に再び大爆発が起こった!
幸い、クイッカブルで体のスピードを上げていたため、余裕を持って避ける事ができたが、周囲の多くの人々が巻き込まれた。
「お前……平然と人の命を……!」
「私たちの理想実現のために、人類は間引かないといけないの。だから、死んで」
再び、彼女は指を鳴らし、爆発を巻き起こす!
加速した身体によって、その幾つもの爆発を、壁や天井を蹴りながら稲妻のように素早く、針の穴を通すように正確に避け続け、少しづつ彼女の元へと近づいていく。
そこから彼女へ一気に迫り、その顎を左手でクイっと触る。
「グッバーイ」
そこから右手で、彼女の顔面を殴り抜ける!
ほの体は何百キロものスピードで吹き飛ばされ、ビルの中層階からすぐに地上へと叩きつける!
逃さぬよう、コンマ一秒で女の元へと追いつく!
稲妻のような素早い2発目のパンチを放とうと腕を振り上げた瞬間、彼女は何かを取り出し、パンチを妨げるかのように掲げた。
それは、ひとつの卵のようだった。
「貴方、特装隊の誰よりも強いわね。特別に、怪獣が生まれるところ見せてあげる」
彼女はその卵を地面に叩きつけると、中から肉片が溢れ、肥大化し、段々と形取っていった!
僅か10秒後! 風船が膨らむかのように、その場に怪人が完成した!
「グッバーイ。お強い人」
俺が呆気に取られている隙に、彼女はその場から脱兎の如く離れた!
「あ! おい待……」
次の瞬間、イカのような怪人の足が周囲を薙ぎ払い、幾つもの建物を倒壊させた!
……今はこっちが先だ!
そう思って、強化魔法をかけ直そうとすると、少し離れたところから何人もの人がやって来た。
「特装隊です! もう安全です! 民間人の皆様はすぐに離れてください!」
やって来た人々は皆テロ鎮圧隊のような重装備に銃を持っていて、非常に見た目に圧がある。
だが、今はそんな事よりも、最前に立つ女性が目に強く映った。
マロン色のショートヘアに平均以下の身長、そして可愛らしい声。
前世の頃の知り合いに瓜二つだ。
「総員! 発砲!」
最前に立つ女性がそう言い放つと、兵たちは次々にイカに向かって銃を放ち続ける!
しかし、身長100メートルにも及ぶイカは近いようでありながらもその距離は凄まじく、ライフルの弾など当たろうはずがない!
すぐさま、天高くからイカの足が叩きつけられようとしていた!
「危ないッ!」
すぐさま自身に強化を掛け直し、そのスピードで兵たちの前へと一瞬にして移動する!
「”クイッカブル”!」
右手のスピードを超強化し、腕が外れそうになるほどのスピードで振り下ろされるイカの足を殴った!
質量×加速度=パワー!
質量は無けれど、超常的なスピードで殴ったその一撃は多大なるエネルギーを帯び、イカの足をいとも容易く粉砕した!
イカの足には超巨大な穴が空き、兵たちの誰にもその足は届かなかった。
兵たちの安全を確認すると、すぐさま跳び上がり、イカよりも遥か高い位置へと上昇する。
「これでトドメだ! “クイッカブル”!」
天から降るその拳はたったの一撃での風圧で暗雲を晴らし、強風を起こして、イカの体を跡形もなく消滅させた!
「”スローアブル”」
体の落下を減速させ、ふわりと地上に舞い戻った。
マロン髪の女性が近づいてくる。
「例には及ばない。別に当然の事をしただけだ」
「そう……ですか。いや、あの、詳しくは署で聞きます」
「え?」
この日、俺は初めて手錠をつけられたのだった。
……え?
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