#24
栗ヶ楽文風は怜太郎を家へと運んだ後、特装隊本部へと戻っていた。
医務室ではなく家へと運んだのは、最悪の想定をした上での、ある種の保険だ。
「さて、報告を聞こうか」
長官の男が、険しい顔で尋ねた。
「はい。本日午前8時23分にエンネイティアの者が一名出現。そこから5文後、三箇所の異なる地点にて1人ずつエンネイティアの者が現れました。被害は軽症が260名、重傷が37名、死者が13名です。また、周辺の建物も多くが被害に遭っており、ショッピングモールが丸々一つ潰れています。また、唯一の戦力であった巨大ロボも破損し、修復も不可能な状態となっています」
「そうか……」
男は両肘を卓上に乗せ、組んだ手の上に顎を乗せている。
「……一応、観察対象の三津怜太郎がエンネイティアを一名撃破したと思われております。もう、彼しか頼れる者がなさそうです」
その言葉を聞いて、長官は重い口を動かした。
「……ならば、彼を解剖し、その強さの理由を解き明かそう。どうせ、彼は戸籍がなかった。秘密裏に行えば、誰からも気づかれることはない」
栗ヶ楽文風は、その言葉が来ることを予見していた。
怜太郎は今、法律によって守られてはいない。それに、彼の存在自体が秘匿的なものだ。その上、彼には知り合いがいない。
彼が消えても、その事に気づける人がいないのだ。
それに、長官はやる時は本当にやる人だ。
今回の同時襲撃を受け、彼に頼るだけではもう助からない。賭けに出るしかない。と、彼は気づいたのだろう。
唯一の助かる道は、より多くの人が怜太郎と同格の力を持つ事、その為には彼の力の原理を理解する必要がある。
もう、藁にもすがる思いだった。
なりふり構ってられなかった。
長官のそのような考えを、文風はあらかじめ見抜いていたのだ。
だからこそ、医務室ではなく家へと送った。
せめてもの時間稼ぎの為に……と。
「……本気で言ってます?」
「当然本気だ。人類の未来がかかっているのだ。大義のための犠牲となれるなら、むしろ羨ましいくらいだ」
彼の目は覚悟に満ちている。
ただ、命令をするだけだというのに。
「まさか、彼を監視する内に情でも湧いたか?」
「……まさかそんな、大丈夫ですよ。わたしはいつだって仕事優先ですから」
当然、上っ面だけの言葉だ。
ただ、今はやり過ごすしかない。
「ついでに、だ。正体不明の回復能力を持つ笹羅隊員も一緒に解剖しよう。彼女だって、彼と同じ出どころ不明だ。何か関連性があるかもしれない」
「……わたしの方で、準備しておきます」
「任せた。迅速に頼む」
文風は静かに長官室を離れた。
夕方と夜の合間くらいの時間、文風が帰ってきた。
「あぁ、おかえり」
彼女は靴を脱ぎ捨て、リビングに入った瞬間、俺に向かって抱きかかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女の目から涙が溢れる。
「ど、どうしたんだ?」
「4人で…一緒に逃げよう……? 罪は…わたしがいくらでも被るから……もう…仕事とか…人類とか…もうどうだっていいから……」
「だからどうしたんだって?」
「……あのね…怜太郎君も…恵鞠ちゃんも…解剖されちゃうの……その力を奪う為に…わたし…そんなの嫌だ……だから…逃げよう……?」
……そうか。遂に懸念してた事態が起きてしまった。
SFで超能力とかに目覚めた主人公はどこに送られる?
答えは研究施設。さらに、今回は時間もないせいで解剖だ。
いつか……そういう危機が来る気はしてた。
「……大丈夫。俺は戦うよ。勇者が逃げちゃ、みんな絶望しちゃうからな。俺は魔王だって倒したんだ。ババ抜きでだけど」
「怜太郎君……」
「心配すんな。特装隊のヤツらに捕まる前に決着つけてやる。そうすればもう安泰だ。そしたら、約束通りフランス旅行行こうな」
「……うん……ありがとう」
彼女は再び勢いよく抱きついた。
終わりの日が、もう近い。
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