#2
「どうか! 恵鞠を弟子にしてください!」
彼女は俺の手を強く握りしめた。
え? は? え?
「この”笹羅 恵鞠”、日々襲いかかる怪獣を倒すために訓練を積んでいるんですが、未だ一匹たりとも倒せた事ないんです!」
そう言いながら彼女は手を離し、ジャンプして抱きつく!
頭半分くらいの身長差があったのに、彼女の顔はもう目と鼻の先だ!
「だ か ら ! 恵鞠を弟子に取って欲しいんです! お願いします!」
俺に張り付く彼女の服を掴み、コックピットの座席に彼女ごと投げ飛ばした!
「きゃあっ! 先輩ったら大胆〜!」
「何がだよ! あと、俺は弟子は取らないし、そんな教えられるような事もない!」
彼女は座席の上にかわいらしく座り込み、不満げに口を尖らせた。
「あんな強さしておいて、先輩ったらケチ〜」
「別にそんな秀でたものじゃない。むしろ、この程度ができずに勇者なんてやってられるか」
「勇者? 頭おかしいんじゃないですか?」
「急にドライになるな! 悲しくなるだろ!」
イラつきを抑えながら、彼女をその場に置き立ち去ろうとする。
「えー待ってください〜! 恵鞠の師匠になってくださいよ〜!」
彼女はコックピットから飛び出し、足にしがみついてくる。
「はーなーれーろー! お前を弟子にする気はないし、やるべき事もあるんだよ!」
軽く振り払い、すぐさま跳躍して場を離れた。
「うえ〜ん! 先輩のケチ! あんぽんたん!」
そんな言葉を無視し、そのまま遠くへ去っていった。
数時間後、俺は東京の街を練り歩いていた。
まず俺、今一文無しだし、頼れる人もいないし、とりあえず彷徨う事以外にやる事がない。
当然、この世界には目的があって戻ってきた。
しかしその目的を達するには、まずある程度安定した生活を得られないとスタートラインに立つ前に飢えてしまう。
「つっても、どうしよっかねぇ……」
そんな訳で、何か出会いがないかと街を練り歩いていた。
「誰か! 捕まえて!」
突然、女性の大声が聞こえると、前方から上下黒服でマスクとサングラスを掛けた男が走ってきた!
唖然としていると、男はすぐに横を通り去る。
「あぁ、アレを捕まえればいいんだ。”クイッカブル”」
魔法を唱え、右手を黒服の男に向ける。
そして、人差し指を親指で押さえ、そこから力一杯に人差し指を弾くと、そこから透明な空気弾のようなものが飛んでいく。
それが男の背中に命中すると、男の背中に激しい衝撃が走り、その場で気絶し、倒れ込んだ。
倒れた男から、その見た目に相応しくないブランド物の女性用バッグを奪い、先ほど声を上げていたピンクのサイドテールをした少女に手渡した。
「あ、ありがとうございます」
「この程度構わない」
そう言って彼女の横を通り過ぎ、去っていった。
俺の能力、”クイッカブル”は触れている物や自身を起因として発生した物のスピードと破壊力をあげる事ができる。
先ほどは人差し指を弾いた風圧を加速、強化した事によって、弾丸のように飛ばす事ができた。
このクイッカブルの唯一の弱点は、自身を加速させても頭の回転や反応速度は速くならないという事だ。
おかげで、転生したばかりの頃はよく壁に衝突していた。
あと、このクイッカブルは異世界にいる間にインフレを極めてしまい、先ほどのように気絶程度に威力を落とすにはかなり骨を折る。
さて、怪獣を倒したり、盗人を捕まえるために力加減をしたりと、少々疲れた。
近くのベンチに腰掛ける。
「流石ですね、先輩」
「そりゃどうも……え?」
ふと、隣に座っている人物を見ると……いた。
先ほど巻いたはずだった、恵鞠を名乗る少女だ。
「もうっ! こんなレディーを置いてくだなんてひどいじゃないですか。 いい加減先輩は恵鞠を弟子に取ってくださいよ」
「一生弟子にはとらん。面倒だし」
「なら、一生ついて行きます」
「それなら地の果てまで逃げてやる」
「なら恵鞠は地獄の底まで追いかけます」
「勝手に地獄に落とすな!」
なんなんだコイツは! 調子が崩れる!
「い〜かげんあきらめましょ〜よ〜」
「いーやーだー!」
そんな終わりのない攻防を繰り広げる。
すると突然、後方から巨大な爆発音が鳴り響いた!
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