#16
俺は気付けば、高級ホテルの1番豪華な部屋みたいな場所にいた。
「……ここは?」
周囲を見渡すと、扉から1人の少女が出てきた。
長い金髪に、黒く小さな翼と申し訳程度の牙を持った少女だ。
「……久しぶりだな。魔王の娘」
「お久しいですわね。怜太郎」
転生前、俺は魔王を倒すために旅をしていた。
しかし、その終着点にいたのは魔王ではなくその娘だった。
魔王は老衰で亡くなっていたらしい。
魔王の娘が持ちかけてきたのは簡単な双六のボードゲームによる戦いだった。
俺はただの遊戯だと思っていたが、彼女にとっては本当にそれで決着をつけるつもりだったらしく、彼女が敗北すると永遠の忠誠を誓ってきた。流石に断った。
魔王との戦いは、呆気なく終わっていたのだ。
「ここは一体……?」
「夢の中に介入したのですわ。怜太郎、貴方はワタクシにとって最高とも言える好敵手でしたが、いつの間にか前世の世界に戻ってしまって……ワタクシは悲しかったのですわよ。一声かけて欲しかったですわ」
彼女は双六のボードを机の上に置いた。
「勝負しながら話しましょう。今の貴方じゃ、この先の戦いにはついていけない」
彼女は赤と青の二つの駒をスタートらしきマスに置き、サイコロを振った。
4マス、赤い駒を進める。
ゴールらしきマスまでの累計マス数はスタートを除いて21マスだ。
「このままじゃエンネイティアに勝てないと?」
「えぇ、いかにも」
俺もサイコロを振る。
6マス、自身の青い駒を進めた。
「貴方は、加速の魔法であるクイッカブルに全てを頼りきってます。でももう、それだけじゃ通用しなくなっていきますわ」
「減速の魔法、スローアブルを使えってか? 残念ながらアレは落下の減速にしか使えない」
5、赤い駒を進める。
「貴方の加速は1度に全ての魔力をかければ、時の停止と同程度の加速が得られます。でも、出来ることはせいぜいそれだけですわ」
4、青い駒を進める。
「成長、したかしら?」
5、赤い駒を進める。
「……チッ」
2、青い駒を進める。
「あら、もう追いつきましたわね。今の出目はまさに貴方みたい」
……実際、旅の中盤あたりから成長は感じなくなっていた。
もうこれ以上、力に関して何も望むことはないと思った。
「どう? ここらで発想を変えてみたらいかがかしら?」
6、赤い駒を進める。
発想の転換……
「それもそうだな」
サイコロを振る。
6、だが、ここで進めても追いつけない。
「発想の転換も大事だよな」
俺は駒を6マス後ろへと戻した。
「随分と面白い事をするんですね?」
「あぁ、だってゴールはこの先にあるとは限らないからな」
スタート地点は大きい白のマスだった。
ゴールも同じ、何も書いてない白のマス。
「そうですわね。このゲーム、駒を進めても位置関係以外には何も変わらない」
彼女はボードをと駒を投げ飛ばした。
「成長に終着点はありません。例えゴールが見えたとしても、後ろに戻ればきっと新しい道があるものです」
「要は初心に戻れって事か。回りくどいな」
「本当はインディアンポーカーをしたかったのに、成長を促すためわざわざこんなしょうもない真似をしたのです。感謝してください」
彼女はポッケからトランプを取り出して、それもボードの方へと投げ飛ばす。
「そりゃどうも」
「では、次の夢でまた会いましょう。次は何か花札でも用意しておきましょう」
「なら、それまでにルールを学んでおくよ」
視界が掠れていき、やがて暗転した。
目が覚めると、昨日文風と訪れた居酒屋だった。
文風はというと、もう酔い潰れて寝ている。
伝票を手に取り、彼女をおんぶした。
「……すみません、会計お願いします」
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