#15
俺たちは家に戻ってきた。
「ただいま、恵鞠ちゃん」
「あ、文ちゃん先輩に師匠先輩! お帰りです!」
師匠先輩……あ、俺か。
俺か? ……俺か。
「てっきり、帰りは日付が変わる頃だと思ってたので、晩御飯は用意してないですよ?」
「大丈夫。今日は怜太郎君と飲みに行くから」
「え? 飲みに?」
彼女はリビングに荷物を置くと、すぐリビングを後にした。
「ほら、怜太郎君も行くよ。帰りは朝くらいになるから」
彼女は俺の手を無理に引っ張る。
「先輩〜! 夜遅くは痴漢されやすいので気をつけてくださいね〜!」
今のは文風に言ってたよな?
でも、文風のときは文ちゃん先輩だし……あ、俺に言ったの!?
俺たちは朝までやっている居酒屋へとやってきた。
「わたしは生と枝豆、それとイカの唐揚げで」
「あ、俺はノンアルビールとフライドポテト、あと唐揚げで」
各々の酒とおつまみを頼んだ。
というか、年齢確認されなかったな。
戸籍ないからどうしようかと思った。
「さて、改めて怜太郎君、久しぶりだね」
「あぁ……その……久しぶり」
こうやって改まって話しかけられるとペースが崩れる。
でも、生前を踏まえての三津怜太郎として彼女と話すのは確かに初めてだ。
「どうだったの異世界は?」
「なんというか……危険な場所だったよ。だからこそなのかはわからないけど、みんな生き生きしてた」
彼女の顔から目を逸らし、話し続ける。
「インドに行けば人生観が変わるってよく言われるけど、そういうのってまやかしじゃなくて本当なんだって思ったよ」
「そっか。楽しそうだね」
「それなりに」
机の上に生ビールとノンアルビール、枝豆が置かれた。
「今日は飲もうよ。色々あったし」
「今から8時間もすれば仕事が始まってるってのに、よく飲めるな」
「飲まずにはいられないよこの仕事。毎日のように人が亡くなるんだからさ」
互いに一口ビールを飲んだ。
「俺がいない3年の間に、この世界には何が起きたんだ?」
「3年……3年ねぇ……」
彼女は枝豆をひとつ食べてから話し始める。
「実はもっと直近の話なんだよ。2ヶ月前の事、急に日本に怪獣やエンネイティアみたいな連中が現れたの」
2ヶ月……本当に最近の話だ。
「初めの頃は怪獣が出ても何もできなかった。これを終末と捉えて変な宗教にハマる人も多かったよ。そこで特装隊が作られた。怪獣への対処のための組織なんだけど、怪獣には手も足も出ないからね。避難誘導と怪獣を起因としてデモやパニックが起きた時の対処がメインの仕事なの」
彼女は一口グビっと生ビールを飲む。
「怪獣の撃破例が出たのも、怜太郎君が倒してくれたのが初めてなんだよ。天才博士が巨大ロボを作ってくれたけど、役に立ったことは今回が初めてだね。正直な話、税金の無駄遣いだよ」
「その、エンネイティアって奴は何者なんだ?」
彼女はジョッキから手を離さずに、度々飲みながら答える。
「わからない。怪獣が発生する5分くらい前に東京中のモニターをジャックして突然現れたの。『人は堕ちた。だからこそ自然の世界に戻さなくてはいけない』って眼鏡をかけた和装のフードを被った人が……ミヅカキって人か。その人が演説してたの。その演説が終わったあたりで怪獣が発生し始めた」
「……とんだ理想主義だな。いや、破滅主義?」
「何も考えずに言い出さないでよ。ま、超極端な自然共生なのかな」
「そこに人はいないけどな」
互いにビールを一口飲む。
すると、ポテトとイカ、鳥の唐揚げが運ばれてきた。
俺はポテトをひとつまみして、食べる。
「怜太郎君は高校の頃から変わらないね」
「見た目は別人だがな」
「あはは! そうだね!」
一緒にツマミを食べ始める。
彼女も、高校の頃からその幸せそうな食べぶりは変わらない。
「……こうやって、一緒に飲めてるのが夢みたいだ。文風は有名大学を卒業して、政府の期待の新人になってさ。俺は高卒で一般企業勤めだったから」
「仕事に優劣はないよ。どれも必要で素晴らしい仕事なんだから。無理は禁物だけどね」
また一口、ビールを口へ運ぶ。
もう彼女のジョッキは半分を切る。
「……私は、ずっと一緒に飲みたかったな。忙しくて誘えなかったけど」
「俺も、住んでる世界が違いすぎるように感じて誘えなかった」
「お互い様だね」
「な訳」
夜は更けていく。
そして、朝日が昇ってくる。
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