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ふぇいどしゃどう 生来の影の薄さが異能になりました  作者: 夜渡
第一章 自分の影の薄さを呪いたい
3/7

期待は裏切らない(命の保証はない)

 何事もなく俺は醤油と自分用の菓子を買い帰路に着く。


「しっかし、朝の声は何だったのやら。認識阻害を獲得したって言ってたけど使える感じもしないし勝手に発動してる気もない。マジで何だったんだ。」


 愚痴をこぼしながら帰っていると、ふと近くで怒鳴り声が聞こえる。何かあったと思い俺は少し寄り道をしてみることにした。


 怒鳴り声の聞こえる方に行くとそこは人気の少ない空き地だった。


「こんな所あったのか。」


 俺はそう呟き、空き地を見ると人がいた。少し猫背の黒いパーカーを着たひょろい男で地団太を突きながら怒鳴っているようだった。耳を澄ましてみると...


「なんで俺ばっかり...他の奴もいるじゃねえかよ...くそ!くそ!」


 どうやら何かあったらしいがその程度のことしか聞き取れない。そしてまた男が地団太を突くと地面が途端にへこんだ。


「は?」


 俺には何も分からなかった。筋肉もない俺でも倒せそうな男が一瞬にして地面に大きなクレーターを作ったことに。だが、声を出したのがいけなかった。男は俺に気づく。


「っ!誰だ!なんだガキかよ。いや、でもこの場を見られたか。誰かにチクられる前に殺すしかないな。」


 男はそう言い俺に向かって走ってくる。俺は咄嗟に抱えていた荷物を投げ出し、逃げる。もとの道に逃げればよかったのだが焦っていたため正常な判断が出来ず、俺は全く知らない道に逃げ出していた。


 そして、着いたのが一つの廃ビルだった。どこに逃げても行き止まりであったため俺は廃ビルに逃げ込むしかなかった。


「っち!あいつはこの中か面倒だが探すしかねえか。まあだがここは入り口は一つしかねえからな逆に言えばあいつをここまで追い詰めたんだ逃げ道はねえぞ。」


 男も廃ビルに入ってくる。俺は咄嗟にこのビルに入ってしまったが少し早まったかもしれない。男の言う通りここはあの入り口一つしかなく逃げ出そうにも二階から飛び降りる必要があるのだが二階から飛び降りようものなら確実に着地音でばれまた追いかけっこが始まってしまう。その場合確実に俺の方が足に着地のダメージがある分不利になってしまう。


「さて、まじでどうやって逃げたらええんやこれ?」


 俺は今最上階の五階に居る。このビルは五階建ての構造であり階段が一つしかない。そのため階段で逃げようとしたら確実に鉢合わせする。しかも、このビル中々に音が響くため急いで逃げようものなら確実に音が出てしまう。


 ぶっちゃけかなり絶体絶命の状況である。音を出したら確実にばれる状況で、絶対に音の出る階段を歩かなくてはならないのだから。命乞いも考えたが通じる相手ではない。あのクレーターを作ったところを見られて速攻で殺しにかかってくるのだ正気ではない。それにあのクレーターをどうやって作ったのかもわかっていないのに無策で突っ込んでもただ死ぬだけだろう。


「はあ。」


 溜め息をつくしかなかった。朝のあの声を聴いて何か起きないかなと期待はした、漫画で見たようなシチュエーションにもなった。だけどそれ以上に怖い。男がクレーターを作った時俺は少し興奮していたんだ。だって目の前で日常が壊れたら誰だって自分の物語が始まると思うだろ、でもあの男から出された殺気は興奮を塗りつぶし恐怖の色に染め変えるには十分だった。

 俺の体は恐怖で少しづつ動かなくなりそうになる。体は縮こませ隠れようとするが俺の頭は、心が叫ぶ。生きたいと。俺は恐怖を非日常の興奮に変え鼓舞する。


(ここで死んでたまるか!殺気がなんだ、殺気程度でビビるようじゃ目立てねぇ!絶対に逃げ切ってやる。いや違うここであいつに勝つ!)


 心は立て直した後は男に勝つプランを考えるだけだ。生き残るためそして勝つため、俺は自分に有利な材料や状況を集めることにした。


(俺に有利な点はまず位置を特定されていないこと。そのためあいつは一回一回隈なく探すことになるためここにはまだ来ない。次に廃ビルに機材などがまだ少し残っていること。これらを障害物として利用すれば接近するぐらいならできそうだ。んで、最後体格差。幸いあの男は俺でも勝てそうなぐらい細い。近づいたらどうなるかは分からないが接近戦ならば勝てるはず。)


 一つ作戦を思いついたが少し躊躇する。


(この作戦なら、どうにか出来そうだが。失敗したときのリスクが大きすぎるし何より度胸が必要すぎる。いやでも、ああ、くそっ!やるしかないか。男は度胸やってやろうじゃねえか!)


 俺は頭の中で騒がしくしながらも覚悟を決めた。失敗したら確実な死が待つがやるしかない。一通り準備をし、男の到着を待つことにした。


 一世一代の大勝負、賭けるは己が命、死ぬか生きるか賽は投げられた。

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