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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

闇の聖女は砂漠の国に売られました

作者: 幻世

 緑豊かな大地、ディート王国。

 この国に双子の姉妹がいました。

 ある時、神託により姉は闇の聖女、妹は光の聖女に選ばれます。

 しかし、同じ聖女でも姉は闇というだけで人々から軽蔑され、妹は光というだけで人々から尊敬されるようになりました。




 冬を越えたある日、闇の聖女は王城に呼び出されました。


「ヤミィ、闇の聖女であるお前をウィーンズ公国に売った」


 ディスラ王太子殿下に呼び出された闇の聖女である私ヤミィ。

 会うなり聖女である私を他国に売ったと伝えてきました。


「ディスラ王太子殿下、今何と仰いましたか?」

「聞こえなかったのか? お前をウィーンズ公国に売ったといったんだ」



 ウィーンズ公国。

 別名、砂漠の国。

 その強烈な日差しは水や土に影響を与え、他国からは不毛な大地と呼ばれています。



「なぜですか? 私はこの国の聖女ですよ?」

「売られた理由か? ウィーンズ公国におられた水の聖女アクアリズが急逝されたそうだ。 それでウィーンズ公国から使者が来て我が国にいる二人の聖女のうち一人を譲ってほしいといわれてな。 そこでヤミィ、お前に白羽の矢が立ったのだ」


 そこで一旦言葉を区切ってからディスラは私を見ます。


「それに聖女は聖女でも闇の聖女などこの国にはいらないだろう。 お前の双子の妹で光の聖女であるシャリィさえいればこの国は安泰なんだよ」


 ディスラの言う通り、闇の聖女である私は民衆から疎まれており、逆に光の聖女であるシャリィは神の使いとして崇められています。

 私はやるせない気持ちがこみ上げてきましたが、深呼吸して一度落ち着くとディスラに問いかけました。


「国王陛下はこの事をご存じなんですか?」

「父上も了承している。 ちゃんと書類もあるぞ」


 ディスラは机の上にある書類を私に渡しました。

 そこには私をウィーンズ公国に売却する旨が書かれており、それぞれの国の王印が押されています。

 一通り目を通すと私は書類をディスラに返しました。


「納得できたか?」

「・・・はい」


 正式な書類がある以上、私にはどうすることもできません。


「そういう訳でウィーンズ公国に今すぐ向かえ。 送迎用の馬車はすでに用意してあるからそれに乗っていけ」

「わかりました」


 私はディスラに一礼すると部屋を退室しました。

 部屋の外にはすでにディスラ配下の従者がいて、私を馬車止めまで案内してくれます。

 到着するとそこには一台の馬車がおり、その前に妹のシャリィがいました。


「ヤミィ、ディスラ王太子殿下から聞いたわよ。 あなたウィーンズ公国に行くんですってね」

「その通りですよ」


 前に立つと勝ち誇った顔で私を見ます。


「可哀想に。 よりにもよってあんな何にもない砂漠の国に追いやられるなんてね」

「ウィーンズ公国が聖女である私を求めてきたのです。 その気持ちに私は全力で応えるだけです」

「ふん、せいぜい頑張ることね」


 それだけいうとシャリィはその場を去りました。

 それから近くにいた従者が無言で馬車の扉を開くと私に乗るよう目配せします。

 私はそれに従い馬車に乗ると御者(ぎょしゃ)は発車しました。




 私がディート王国を出発して1ヵ月後───

 いくつかの国を経由して私はウィーンズ公国の国境前に到着しました。


「───」

「───」


 外で何か話し声が聞こえたあと扉が開きます。

 私が馬車から降りると御者は何もいわずに去っていきました。

 国境の前にいる警備兵たちは私に道を譲ります。

 先ほどのやり取りから私がウィーンズ公国へやってきた聖女だと話したのでしょう。

 私は警備兵たちに一礼して国境を越えると左右には多くの兵がおり、目の前には単発黒髪に褐色肌の美男子が笑顔を向けて立っていました。


「初めまして聖女ヤミィ様、ウィーンズ公国にようこそ。 僕はウィーンズ公国第三王子リファードといいます」

「ディート王国から参りました闇の聖女ヤミィです」


 私はカーテシーをしてリファード様に挨拶します。

 普通なら闇の聖女と聞くと皆嫌な顔をしますが、リファード様は顔色一つ変えずに私に対応します。


「そう固くならずに僕のことはリファードと呼び捨てでいいですよ」

「そういう訳には・・・私のほうこそヤミィと呼び捨てで構いません」

「そうですか? では、親しみを込めてヤミィと呼ばせていただきます」

「はい。 リファード様」

「はははははっ、できれば打ち解けて呼び捨てにしてほしいところですが、来て早々それは酷というもの。 いずれ打ち解けてくれると信じて待ちましょう。 ここで長話も何ですし王都にご案内します。 こちらへ」


 私はリファード様が用意した馬車に乗ってウィーンズ公国の王都へと移動することになりました。

 王城に到着するとリファード様が改めて私を労います。


「長旅、お疲れ様です。 王城に部屋を用意しましたので、まずはゆっくりと休んでください」

「ありがとうございます」

「それから今日の夕刻よりヤミィの歓迎会を開きます」


 歓迎会と聞いて私は少し戸惑います。


「私にそこまでしなくても・・・」

「この国に来てくださった聖女様を蔑ろにはできません。 どうかご理解ください」

「わかりました」


 用意された部屋で寛ぐ私。

 夕刻になりリファード様の使いの者に案内されて会場へと向かいます。

 到着するとすでに多くの人たちが会場にいました。

 私の姿を見ると皆襟を正し頭を下げます。

 場違いからか戸惑っているとリファード様がやってきて私の前に手を差し出しました。


「ヤミィ、どうぞお手を」

「はい・・・」


 リファード様の手を取ると会場の中央までやってきました。

 その先には玉座に座った老齢の男性がいます。


「陛下、本日ディート王国からお越しいただいた聖女ヤミィ様です」


 リファード様の紹介に私はすぐにカーテシーをして挨拶します。


「初めまして、ディート王国から参りました闇の聖女ヤミィです」


 陛下は椅子から立ち上がり、私のところまで来ると頭を下げました。


「聖女ヤミィ様、よくぞ来てくださいました。 この国を代表して心より歓迎いたします」

「そ、そんな畏まらなくても・・・」


 私が弱腰になっていると陛下は顔を上げて優しい顔で話しかけてきました。


「この国の都合で呼んでおいて無下にするなど、それこそ神への冒涜に等しい行為です」

「私は()の聖女であって、()の聖女ではないのですよ?」

「たしかに貴女様は水の聖女様ではありません。 ですが、私たちは貴女様ならばこの地を救ってくれる。 そう信じているのです」


 陛下の言葉に周りにいる貴族たちが同意するように頷きます。


「その期待に応えられるよう尽力いたします」


 私はそれだけいうと陛下に対して再びカーテシーをしました。

 それからしばらく会場にいましたが、少し疲れたので席を外すことにします。


「ふぅ、疲れた・・・」


 バルコニーに出るとそこに先客がいました。


「ヤミィ? いかがなされましたか?」


 そこにいたのはリファード様でした。


「少し外の空気を吸いたくて席を外しただけです」

「そうでしたか」


 しばらく私とリファード様は夜空の月を眺めます。


「リファード様、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「僕に答えらえることであればなんなりと」

「なぜ、私なのですか? 私はディート王国では闇の聖女として人々から軽蔑される存在なのですよ?」


 闇の聖女というだけで王侯貴族だけでなく民衆からも忌み嫌われていた私。

 彼ら彼女らにとって、私は厄介者でしかないのですから。


「聖女なら誰でもいいという訳ではありません。 少なくともヤミィの妹君である光の聖女シャリィ様ではこの地を救うことはできません」


 リファード様は姿勢を正すと私の瞳を見て答えました。


「それに父王も申し上げていましたが、僕は闇の聖女ヤミィ様ならばこの地を救ってくださると信じていますから」


 陛下と同じ言葉。

 されど、その言葉は私の心をより大きく揺さぶります。


(私は・・・この国に求められているのですね)


 その心温かさに私の目からは自然と涙が溢れてきました。


「ヤミィ、何か失礼な発言をしましたか?」


 私が急に涙を流した事にリファード様はおろおろしていました。


「いえ・・・いえ、その言葉が嬉しくつい・・・」


 私は涙を拭うとリファード様に宣言します。


「リファード様、私を頼ってくれた恩に報いたいです」

「それは頼もしい。 ヤミィをこの国に招いて正解でした」


 リファード様は私に頭を下げます。


「ヤミィ、これからよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」


 私はリファード様にカーテシーすると会場へと戻っていきました。




 歓迎会の翌日───

 朝食を終えた私はリファード様に案内されて神殿に到着しました。


「これから祈りを捧げますが、闇の力といっても私ができるのはせいぜい暗雲で日光を遮るくらいですよ?」

「それだけでも十分です。 お願いします」

「わかりました」


 私は神殿の中央にある神像に近づき、その場で祈りを捧げます。


「闇よ。 この地を少しだけ闇で遮りたまえ」


 すると私の魔力が空へと放たれます。

 しばらくするとどこからともなく薄い暗雲が現れてウィーンズ公国の空全体を覆い始めました。


「おい! 見ろ! 暗雲で日光が遮られたぞ!」

「体感温度が下がったわ!」

「涼しい!」


 様子を見ていたリファード様の従者たちが歓喜の声を上げます。

 祈りを捧げ終えた私はリファード様のほうへと歩み寄ります。


「闇なのに何か落ち着きます」

「多くの人が勘違いしていますが闇は悪ではありません。 闇とは人々に安らぎを与えるものなのです」

「そうなのですか? ・・・そういわれると理解できます」


 私の説明にリファード様は納得していました。

 現にリファード様は心穏やかな気持ちになっているのですから。

 その日は穏やかな天候に国は久々の安寧に包まれました。


 翌朝、祈りを捧げに神殿に向かうとそこで一人の女性司祭が私に質問してきました。


「ヤミィ様、あの暗雲から雨を降らすことはできますか?」

「できることはできますが、理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「はい。 実は急逝された水の聖女アクアリズ様は毎日祈りを捧げ、ウィーンズ公国全体に雨のように水を降らせていたのです。 ですが、あの空に浮かぶ太陽が水をすべて蒸発させてしまい大地にはほとんど恩恵が届かなかったのです。 なので、ヤミィ様のお力でどうか大地に恵みをお与えください」

「わかりました。 やってみます」


 私は神殿の中央にある神像に近づき、その場で祈りを捧げます。


「闇よ。 この地を闇で遮りたまえ」


 昨日よりも多くの魔力が空へと放たれます。

 しばらくするとどこからともなく暗雲が現れてウィーンズ公国の空全体を覆い、雨がぽつらぽつらと降ってきました。

 やがてウィーンズ公国全体に広がり、地上は久しぶりの歓声に満たされていきます。


「雨だ! 雨だぞ!」

「久しぶりの水だわ!」

「早く(かめ)を用意しろ!」


 突如降ってきた恵みの雨に民たちはあやかろうと瓶や布で雨水を集めました。


 それから3時間ほど私は祈り続けました。

 その間は雨が降り続いていましたが、祈りを終えると同時に雨もまた止みました。

 祈りを捧げ終えた私に女性司祭が話しかけます。


「これくらいでよろしいでしょうか?」

「ありがとうございます! 久々の雨にこの国に住む者たちも大いに喜んでいることでしょう!」

「それは良かったです」


 女性司祭と話しているとそこにリファード様がやってきました。


「ヤミィ、あの雨は貴女が降らせたのですか?」

「はい。 何か問題でも?」

「とんでもない。 日差しを遮るだけでなく雨も降らすとは想像以上です。 できれば毎日雨を降らせてもらいたいくらいです」


 リファード様の言葉に私は首を横に振ります


「それは危険なのでやめておきましょう。 もし、雨を降らすとしても3日に1度がよろしいかと」

「たしかに連日雨が降り続くことで地盤が緩み、災害が起きてからでは遅いでしょうから」

「・・・すまない、気が逸りすぎてしまったようです」


 私と女性司祭の指摘に納得したのか、リファード様は素直に謝りました。

 それからは3日に1度雨を降らすことになりました。




 私がウィーンズ公国に来て1ヵ月後───

 国中に新たな変化が起きました。

 その日、一人の少年がいつもの道を歩いているとある違和感を感じました。

 いつもの風景、だけどいつもとは違う風景。

 そして、少年は違和感の正体に気づきます。

 地面に一本の草が生えていると・・・


 一報を受けたリファード様はすぐに国全体を調査するために配下の者たちを国中に派遣します。

 その結果、至る所で草が生えていると報告を受けました。


「おお、何てことだ。 砂で覆われたこの国に草が生えてくるとは・・・」

「奇跡だ」

「これも聖女ヤミィ様のおかげだ」


 新たな生命の誕生に国中が大喜びしていました。






★★★★★ ディスラ視点 ★★★★★


「ヤミィがいなくなってからはディート王国は平和そのものだな」

「ええ、あの辛気臭いヤミィがいなくなってスカッとしておりますわ」


 王城にある俺の部屋。

 そこでは椅子に座る俺と身体を預けているシャリィがいた。


「この俺自ら扇動した甲斐があるというものだ。 ヤミィがいたらこの国は腐ってしまう」

「闇なんてこの国には不要ですわ」


 シャリィの言葉に俺は頷いた。


「まったくその通りだ。 ヤミィも闇以外ならもう少し可愛がってやったものを運がない奴だ」

「あら、それではわたくしが闇の聖女だったら可愛がってくださらなかったのですか?」

「そんな訳ないだろ。 俺はお前の事を愛しているんだから」


 俺はシャリィの顎に手を添えるとそのまま唇にキスをした。

 しばらくして離すとシャリィは俺の胸に顔を埋める。


「殿下、好きですわ」

「俺もだ」


 俺たちが愛を語っていると窓の外は暗雲に満ちていた。


「・・・はぁ、まったく俺たちが愛を育んでいる時に・・・不快だな」

「それならわたくしがすぐに消して差し上げますわ」


 シャリィは窓に向けて手を翳した。


「光よ。 この地を大いなる光で覆いたまえ」


 シャリィが祈った瞬間、とてつもない魔力が強い光となって空へと放たれる。

 光が輝くと暗雲はなくなり晴れ晴れとした。


「さすがだ。 やはり光の聖女であるシャリィさえいればこの国は安泰だ」

「もぅ、殿下ったら・・・本当のことをいわないでくださいよ」


 俺たちは再びお互いを抱きしめた。

 だが、この時俺たちはこの国が滅びに向かっていることに気づいてなかった。




 ヤミィがディート王国を出て2ヵ月後───

 それは突然起こった。

 今日も今日とて暗雲が空を覆う。


「ちっ! 今日もか・・・」

「殿下、ちょっと待ってくださいね。 光よ。 この地を大いなる光で覆いたまえ」


 するととてつもない強い光が空の暗雲を消滅させた。


「わたくしと殿下の逢瀬の時間を邪魔しないでほしいですわね」

「まったくだ」


 本来であればこれで終わるところだ。

 しかし、今日はこれで終わらなかった。


「ん? シャリィ、お前の肌やたらと乾燥しているな」

「え?」


 ここ3ヵ月の間にシャリィの肌から潤いが徐々に失っていたが、今日は特にそう感じた。

 それだけではない。

 周りの空気も乾燥している。


 カンカンカンカンカンカン・・・


 そこに突然鐘の音が鳴り響く。


『火事だあああああぁーーーーーっ!!』


 その言葉に俺とシャリィはビクッとした。

 俺たちは慌てて服を着て外に出る。

 するとあちこちで衛兵たちが対応に追われていた。

 俺は近くにいた衛兵に話しかける。


「何事だっ!!」

「殿下っ! 大変ですっ! 王城内にある木々が次々と発火して燃えていますっ!!」

「なんだとっ?! 今すぐ消せっ!!」

「それが城内の水が不足していまして、今すぐに全部を消火するのは無理ですっ!!」


 衛兵の言葉に俺は自分の命の危機を感じた。


「報告は以上ですっ! 我々はすぐに消火活動にあたりますっ!!」


 それだけいうと衛兵は消火活動に戻った。


「で、殿下・・・」

「ここにいては危険だ。 今すぐ離れるぞ」


 俺はシャリィを連れて城の入り口を目指した。

 多くの兵が移動する中、避けながら進む。

 何とか城外に出るもそこで目にした光景に俺たちは絶句する。

 王城だけではない。

 城下町も燃えていた。

 そこに衛兵の一人が俺に気づいて声をかけてきた。


「殿下っ! 何をしているのですっ! 早くお戻りをっ!!」

「馬鹿なことをいうなっ! 俺に焼け死ねというのかっ! 早く俺たちを王都から逃がせっ!!」

「何をいっておられるのですかっ! 王都の外は今や大量の火に包まれておりますっ! そんなところに逃げるなど正気の沙汰ではありませんっ!!」

「なん・・・だと・・・」


 衛兵の言葉に俺は目を見開いた。

 報告を聞くと王都周辺の草原は突如自然発火して瞬く間に大火災になったそうだ。

 それから俺たちは城内に戻るもこのままでは助からないと判断したのか、王家に伝わる隠し通路を通って王都からの脱出を試みる。

 暗い通路を歩くこと1時間、進んだ先に光が見えてきた。


「もうすぐ出口だ」


 俺たちは喜び出口を目指そうとした。

 だが、そこで出口のほうから焦げた臭いがする。


「ま、まさか・・・」


 近づくと出口の先が燃えていた。


「うそ・・・だろ・・・」


 出口の先は森になっており、森が盛大に燃えていた。


「ふ、ふざけるなっ! このままだと俺たちが焼死してしまうではないかっ!!」

「殿下・・・」

「なぜだ・・・なぜこんなことに・・・」



 なぜ、突然火災が起きたのか?

 それはシャリィが強大な光の力を使いすぎたのが原因だ。

 本来、気候や現状を基に力を制御して行使するところ、ディスラとシャリィは暗雲を嫌うがために光の力を乱発した。

 その強すぎる光は水を干上がらせ、大気や大地を乾燥させた。

 その結果、草木が自然発火したのだ。

 シャリィの強大な光の力はディート王国全体を包んでいた。

 水は涸れ、草木は燃え続けている中、なんとか国から逃げようとする民たち。

 しかし、燃え盛る火が道を遮り、行く手を阻む。

 強引に進もうとする者はその業火で焼き尽くされ、引き返そうとする者には黒煙が襲い掛かった。



「こ、ここはダメだ。 来た道を戻るぞ」

「し、しかし、今、城は燃えているのでは・・・」

「それでもここにいたら俺たちは焼け死ぬぞ。 さぁ、戻ろう」

「・・・はい」


 俺たちは通路を引き返し、城へと戻ろうとする。

 だが、そこで俺たちの身体はぐらりとした。

 そして・・・


 ドサッ・・・


 俺たちはその場に倒れこんだ。


「・・・え? いったい何が・・・」

「殿下・・・身体が・・・」


 俺たちは原因もわからぬまま喉に手を当てる。


「く、苦しい・・・」

「い、息ができない・・・」



 ディスラとシャリィは気づいていなかった。

 暗い隠し通路には大量の黒煙が立ち込めており、知らず知らずのうちに二人を襲っていたことを。

 そして、大量に吸い込んだ煙により二人は酸欠になり倒れた。

 二人は意識が朦朧とする中、藻掻き苦しみ、やがて動かなくなった。



 大火災から数日後、ディート王国に隣接する国々は調査団を送り視察した。

 そこには多くの民たちが白骨化した状態で見つかった。

 死骸は皆天に手を挙げて救いを求めているということだ。

 それから調査団は国王を始め多くの遺体を見つけた。

 中でもディスラとシャリィは他と違い、白骨化はしていなかったがその顔は酷く、壮絶な死を連想させるものであった。


 調査が終わり本来であれば領土拡大に乗り出すところだが、ディート王国全体が砂漠化していた。

 試しに水の聖女が祈りを捧げるも水は蒸発し、緑の聖女が祈りを捧げるも草木は生えず、土の聖女が祈りを捧げるも砂は土に変わることはなかった。

 人が住めない土地を手に入れたい物好きな隣国はなく、やがてどの国からも見向きもされなくなった。



 強大な光によりディート王国は地図から消失した。






☆☆☆☆☆ ヤミィ視点 ☆☆☆☆☆☆


 ウィーンズ公国に自然と草が生えてから1ヵ月後───

 定期的に雨を降らしたことで一部の砂漠が土化したという報告を受けました。


「素晴らしいです。 まさか砂漠が土化するとは想像を遥かに超えた出来事です」

「私の力でこの国が救われる未来に向かっているのであれば、これ以上の喜びはありません」

「ヤミィ、本当にすごいです。 このままいけばほかの国と同じように緑豊かな土地になるのも夢ではありません」


 リファード様が私を評価していただけることに嬉しさを感じます。

 そこで話が終わればよかったのですが、リファード様が真剣な表情で私に話しを切り出しました。


「ヤミィ、もし・・・もし、ウィーンズ公国が緑豊かな土地に生まれ変わった暁には僕と結婚してくれませんか?」

「え?」


 リファード様の突然のプロポーズに私は固まってしまいました。


「急な事で申し訳ございません。 最初は貴女の事を儚い女性だと思いました。 ですが、貴女の献身的な心に段々と惹かれていったのです」

「あの・・・えっと・・・」

「もしかして、すでに未来を共にするお方がいるのですか? でしたら、僕は潔く身を引きます」

「いえ、そういう人は今のところいませんので」


 私に相手がいないと知るとリファード様は明らかに安堵した様子を見せていました。


「では、何か問題でもありますか?」

「リファード様はこのウィーンズ公国の第三王子です。 そのようなお方が私と結婚するなど問題ではないでしょうか」


 私が政治的な部分を指摘するとリファード様は苦笑いしながら答えます。


「たしかに政治や身分による問題はあるでしょう。 それでも僕は貴女と結婚したいのです」

「国王陛下が許さないと思いますよ。 それにウィーンズ公国が緑化するまで何年かかるかわかりません」

「父王は説得します。 それと例え緑化するのに何年、何十年かかっても構いません。 僕は貴女と人生を歩んでいきたいのです」


 リファード様から強い意志を感じた私は条件を口にします。


「陛下を説得し、ウィーンズ公国が緑化できた時には考えさせてもらいます」

「わかりました。 その時がきたらもう一度貴女に告白します」


 そういうとリファード様は私に笑顔を見せました。




 それからウィーンズ公国が緑化するのに5年の歳月がかかりました。

 今では大陸屈指の緑豊かな国として注目されています。

 そして、私は5年越しにリファード様から再びプロポーズを受けることになりました。


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