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第5話 クメラクの大木 3

世界樹の元に行くと、それぞれの定位置に着いた。

セリアは世界樹の、いや、クメラクの大木の周りにいる人だかりの中へ。

トキは、外見を変えて何故か変装用に買った眼鏡をかけ、貴族のお忍び風を装っておしゃれなカフェへ。ルアは、変化の魔術を使った。顔は別人になり、外見は二十歳程の若い魔術師に変えて人だかりの中へ消えて行った。

「今日は一段と騎士様が多いねぇ」

人だかりと騎士たちとを隔てる柵があり、その一番先頭にいる一人の高齢の女性が周りを見渡してそう告げた。

両手で杖を握り締めて立っている。

男が人を押しのけ、軽く謝りながら先頭までやって来た。

「なんだ?なんだ?」

突然やって来た男に周りが抗議の声を上げている。

「騎士様! 騎士様たちはなにをしてるの?」

小さな少年が騎士に声をかけた。

2人の騎士が少年の近くまで歩いて来て、少年の目線に合わせて屈む。

「あぁ、それはこの木が世界樹だという話が出て、王宮魔術師団からこの木の枝を持ち帰るように指示が出たんだ」

「その木が世界樹なの?」

子供が不思議そうにクメラクの大木を見上げる。

「あぁ、そうだよ」

「それにしては随分と小さい木ですね。世界樹は天を支え、天界と地上、さらに根や幹を通して地下世界にまで繋がっていると聞いたことがありますが、本当にその木は世界樹なんでしょうか? 根拠はあるのですか?」

セリアは、変化を使って外見を変え眼鏡におさげの物知りな少女と言った風貌に姿を変えている。

「なっ! 王宮魔術師のアンジェリカ様がおっしゃられたのだ!間違いなはずがないだろ!!」

他の騎士も集まってくる。

「持ち帰って調べればわかることだ」

「そんな確たる証拠もなく、長い間クメラクを見守ってきたあの大木を簡単に切ってしまって良いのでしょうか? せっかく今まで枝を切られることなく綺麗な状態であったあの木を…。そんな曖昧な理由で枝を切られてしまって皆さんはそれでもいいのですか?」

セリアが周りの人々に語り掛ける。

セリアも世界樹のことが、かかっており真剣だ。

セリアの真剣な面持ちに周りも頷いた。

「騎士様が一体何をしているのかと来てみれば、我が街の象徴である大木に傷をつけるなどあってはならない!」

「そんなこと許されないっ!」

周りもそうだそうだ、と声を上げ始めた。

「…っ!」

騎士達に人々の抗議の声で焦りが広がっていく。

「何か、あったのですか?」

そこへやってきたのは、今朝セリアが会った二人組のサティウスとクロッカスだった。

「あっ、サティウス様っ!」

どうやらサティウスはこの騎士達の中では立場が一番高いようで、この中ではリーダー的な立ち位置だった。

「すみません」

騎士の一人がサティウスに事の経緯を説明した。

「それで、クメラクの大木を切るのはいけないことだという話になってしまって」

騎士がサティウスに事情を告げると、サティウスが一瞬だけセリアの方を見てまた視線を他へ逸らした。

「わかりました、あなた達はクメラクの大木の見張りを行いなさい」

「はっ!!」

サティウスの命令に素早く返事をし、周辺にいた騎士達はクメラクの大木の方へ走って行った。

「話はお聞きました。クメラクの大木がもし世界樹なのであれば、それを調査するのが我々騎士の役目であると考えております。枝を切った後は回復薬で…」

セリアがサティウスの声を遮った。

「世界樹は、枯れない」

「え?」

サティウスがセリアの方を向いたと同時にセリアがはっきりと言った。

「世界樹、枯れることなかれ。人の優しさに触れ育ち、分かち合って行くものである。ココアガラ帝国聖典、12章 世界樹より 世界樹は何があろうと枯れません」

「何が言いたい?」

後ろで黙って見ていたクロッカスが、サティウスより前に出る。

「なるほど、木枯れ術を使って、木が本物か確かめればいいんですね」

若い魔術師に変化したルアが興味深そうに頷いた。

「木枯れ術?」

「木枯れ術は基本的に育ち過ぎた植物を枯らして程良い状態に戻したい時などに使われます。その応用です。要は、世界樹は絶対枯れないのだから木枯れ術に反応するのか確かめようということでしょう」

「なるほど。我々もこの木が本当に世界樹なのか、半信半疑だったのです。では、それをそちらの魔術師様にお願いしましょうか」

サティウスがルアを指しどうぞとでも言うように、執事のような動作で丁寧に柵をどけた。

ルアは緊張しつつ、それを出さないようにクメラクの大木に向かって歩き出した。

「では、お願いします」

サティウスの言葉にルアが木枯れ術を使った。

「……」

全員がクメラクの大木を静かに見つめる。

「…………たね」

クメラクの大木はみるみると枯れていった。

「枯れましたね」

サティウスの言葉に騎士達が静かに頷く。

「では、我々が持ってきていた回復薬を使いましょう」

サティウスがクロッカスに回復薬の瓶を渡した。

クロッカスが、回復薬の瓶を開けてクメラクの大木の根元を一周して全体にかけた。

すると、そこから光が広がっていき全体を覆うと光は消えて木は元通りの状態に戻った。

「お騒がせしました。クメラクの大木は世界樹ではなかった、と王宮魔術師のアンジェリカ様には報告致します」

騎士達は、すべての柵を撤去して一時的に預けていた馬を銅貨を渡して受け取りそのまま街を出て行った。


セリア達は人気のない所で変化を解いてから、別々に鍵屋に帰った。



――――――――

それから、作業部屋に集まった。

「これは、成功なんじゃないか」

「良かった。これで危機は去ったよね!?」

セリアが食い気味言う。

「そうだね、作戦が上手くいって良かったよ」

セリア達は、考えていた。

世界樹は枯れないという、聖典に書かれている文章を元にルアが比較的簡単な木枯れ術を使ってセリアが作った偽物の木を枯らすのだ。

最上級魔術、入れ替え術を使い、世界樹と偽物の木を入れ替える。まず、偽物の木をプラントドームに入れる。プラントドームとは、植物の時間を止めて水晶の中に保管できる魔術具のことだ。そして、プラントドームに入っている偽物の木と世界樹をセリアの魔力で包み繋げるイメージを。


そして、入れ替える。


皆がクメラクの大木と思っていたのはセリアが作った別の木だったのだ。

入れ替え術は最上級魔術であり、使える者は少ないが、昨晩セリアは世界樹の為に必死に練習し、どうにか習得するに至った。

本物はセリアのガラス玉の中である。


「でも、ここは見つかってしまったから世界樹を別の場所に移さないと、プラントドームに入れてずっと時間を止めているわけにもいかないし」

困った顔をするセリアにトキが優しく言った。

「そうだな、しばらくは持つだろうからその間に何処か別の良い場所を探せばいい」

「そう!私、カルディナーレに行っていたの!もう一度そこに行く!そこで、世界樹の事をルナに教えてもらったの」

キラキラと目を輝かせて話すセリアに、ルアとトキが笑顔で手を振る。

「「良い旅を、セリア」」

「ありがとう。行ってくるね」

そしてセリアはまたカルディナーレへと向かうのだった。

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