第3話 クメラクの大木 1
今度のセリアは、カルディナーレと言う大きな街に来ていた。
「情報収集、情報収集っと、」
セリアは素敵なワンピースに身を包んだ少女に声をかける。
「こんにちは。素敵なワンピースですね。私はセリア・フローレンスです」
少女は背中辺りまで伸びたクリーム色の髪を揺らして振り向いた。
ピンクゴールドの様な瞳が驚いたようにパチパチと瞬かれる。
少女はそのふわふわとしたスカートの端を摘んで、優雅なカーテシーをし、セリアに自己紹介をする。
「こんにちは。セリア、私はルナ。このワンピースは母から頂いた大切な物なの。褒めてくれてありがとう」
(大きな街には、こんなに優雅な挨拶ができる方がいるのですね)
セリアが、ルナに見惚れているとルナの背後からおどおどしているが可愛らしい少女が出てくる。
「そして、こちらがミラよ。私の幼馴染なの」
おどおどした少女は薄いラベンダーの様な色の髪に、濃い紫色の瞳をしている。
少女はセリアと目が合うと、緊張で手がカクカク震えながら、セリアに挨拶をした。
「ルナのとも、友達です!ミラです!!」
見た目に反して大きな声で挨拶をした少女、ミラは挨拶が出来たことによって緊張から解放された為12歳の年相応な満面の笑顔を見せた。
(わぁ…。とても可愛らしい。ハッ! 危うく声に出るところでした)
因みに、セリアは何百年も生きている世界樹なのだが、分け身の年齢は15~16歳位に見える。
だからか、ルナとミラはセリアと2、3歳差位と思ったのかキラキラとした瞳を向けてくる。
「?、?」
セリアが困惑する中、キラキラとした目をする二人に圧倒されつつ、キラキラオーラに当てられセリアが、ハッと目的を思い出した。
「そういえば、最近おかしな噂とか困っていることとかはありませんか?」
ルナとミラは顔を見合わせ考え込むと、ルナの方が口を開いた。
「そういえば、最近隣街のクメラクで伝説の世界樹が見つかった、と。伯爵令息のグラルドと言う方が枝を伐採する任を任された、と吹聴してらっしゃったとか」
伯爵令息のグラルド・コフィニオンは、
セリアは真っ青になると、敬語も忘れ走り出す。
「わたし、ちょっと用事を思い出した!! じゃあね!!!」
「え?セリア~~!?」
突然走って行ったセリアに困惑するルナとミラを残しセリアは人が居ない場所まで走った。
「はぁ、はぁ、はぁ。まさか本体が見つかるなんて…バレない様に色々と手は回したはずなのに、なんで…」
(それに枝を伐採するなんて、世界樹の効力を知っているとしか…)
そこでセリアはクメメック通りでの出来事を思い返してみる。
——————
「そうでした。ルアくん、これを」
ルアがセリアから受け取ったのは、世界樹の葉だった。
「これは?」
「それは世界樹の葉です。持っていれば、そうそうは強い魔力を感じても体調を崩すことはないはずです」
「セリアさん、ありがとう」
「はい、どういたしまして」
世界樹の葉です。と言う言葉がセリアの頭で何度も繰り返される。
あの会話をしたのは外だった。もし、世界樹を探している組織があったとする。それがもし、街で世界樹。なんて単語を聞いたらもしかしたら街中を探そうとするかもしれない。
それで、それらしい木を見つけたら研究だのなんだのと言って世界樹を傷つけるかもしれない。
セリアは小さく囁くように言った。
「すぐに戻るからね…」
セリアはそれとほぼ同時に数少ないセリアが使える魔術、瞬間移動を使い世界樹の近くへ転移した。
世界樹の周りには怪しげな騎士たちが立っており、セリア一人ではこの人数をどうにかできないということを物語っていた。
(どうしよう。どうしよう。世界樹が、母さん。どうすればいいの)
セリアが涙目になってただ世界樹を見つめている。
「セリア」
「セリア」
「セリア」
(私を呼ぶ声が聞こえる。誰?)
セリアが目を開けるととても時間が経っていた。昼頃に着いたのにもう夕方だ。
目の前のセリアを呼ぶ人物に目を向けるとそれはトキだった。
後ろにはルアもいる。
「トキ、様…どうしてここに?」
「街中で最近騎士が出入りしているから何事かと思い、世界樹を見に来たら世界樹が騎士たちに囲まれていてここ数日ルアと二人で時々見に来ていたんだ。そしたらセリアがここで倒れているから、声をかけたんだ。大丈夫なのか?」
「セリアさん、お久しぶりです」
数週間前位の出来事なのにその数週間でルアは少し大きくなったようで、トキとも仲良くやっているようだった。
「ルアくん、元気になったんだね!」
セリアはそれだけ言い残すと気を失ってしまった。
「セリアは恐らく心労で気を失ったようだ。ルア、部屋を借りられないか?」
「お母さんに聞いてみるよ」
夫婦から、ルアの命の恩人であるセリアにベッドを貸す許可が下り、トキが人型の姿でセリアをベッドに寝かせる。
トキは毎日、変化の訓練をし、結界の中でも変化を使えるようになったのだ。
「トキ。特訓の成果だね」
ルアがにっこりとトキに向かってグッドマークをする。
「あぁ、そうだな。ルア」
セリアが目を覚ますと、そこは以前ルアを助けた鍵屋の客間にあるベッドの上だった。
「狭くて、すみませんね」
ルアの母である、マレナがセリアの看病をしてくれていたようだ。
「すみません、看病までして頂いて」
本来、世界樹は風邪など引かないと思っていたが、どうやら世界樹も心労で熱が出ることがあるようだ。
「いいんですよ。息子の命の恩人ですから」
マレナはにこにこと優しい笑みを浮かべる。
「息子の他にもう一人、娘が出来たみたいで嬉しかったです」
「こ、光栄です…」
セリアが娘のように思ってくれたことが嬉しくて少し顔を赤くして照れる。
マレナとセリアがニコニコと笑顔で談笑し、そこに少しの間だけとても幸せな空間だった。
セリアはマレナと話したことで気が紛れたのか、マレナが部屋を出て行った後また少し眠った。
「お母さん、セリアさんは?」
マレナはセリアのいる部屋の方を横目で見ながら言った。
「今は眠っているわ。その、色々と心労があるのでしょうね…」
ルアはトキからセリアについての話は一通り聞いているが母親のマレナには話さなかった。だが、マレナもマレナで何か唯事ではないことは悟っていた。
「また、明日にでもルアとトキもセリアさんと話してみるといいわ」
「わかったよ。ありがとう、お母さん」
「母殿。かたじけない。古くからの旧ゆっ、んんっ長い付き合いだった故助かりました」
トキは古くからの旧友と言いかけて途中で止め、セリアが見た目14、5歳だったことを思い出して言い直した。
「トキもルアと接する時のように楽にしていいのですよ」
「わかりました。では、母上と呼ばせてもらおう」
マレナの言葉にトキが元気良く言った。
「ルア、トキ。私たちは夕食にしましょう」
「「はい!!」」
マレナにルアとトキが元気良く返事をする。
食後、またルアとトキは世界樹の元へと向かった。
「トキ、見つからないように隠れ蓑術をかけるよ」
「あぁ、頼む」
トキがルアに跪くと、ルアが呪文を唱え始める。すると、彼らの姿は他の者には認識できなくなる。
セリアが去った後、ルアはトキと二人で魔術の練習に励んでいた。その為、姿を隠すような魔術も使えるようになったのだ。
「毎度、すまんな」
「いいよ。ずっと思っていたんだけど。トキのその冒険譚か何かに出てくる昔の武人のみたいな話し方はなんなの?」
「え?」
トキは考えた。なんといえばいいのか、といや別に、トキが長く生きていると言っても問題はないはず、しかし、そんなに年が離れていると知ってルアの態度は変わらないだろうか。というか何故、自分がこんな話し方なのか全くわからない。
はて、何と言うのが正解なのかと、トキは悩んだ。
そう、トキは忘れていた。昔のトキは、街の図書館に通って本をこっそり読むのが日課だった。
ので、時間の神足る支配者の任を任された時、嬉しくて嬉しくて当時ハマっていた冒険譚の主人公の話し方に似てしまったということを。そして、その本を巡り巡ってルアも読んでいたことを。トキは知らない。
「うん、なんとなく察しがついたから言わなくてもいいよ」
ルアの言葉にトキはホッと胸をなでおろした。
「そ、そうか」
いつの間にか、世界樹の近くまで来ていたようだ。
「よし、着いたようだな。ルア、どうだ?見張りはいるか?」
トキの前を歩いていたルアが立ち止まる。
ルアは驚愕の表情で世界樹を見ている。
「っあ、あっっ。っ、…っ、」
ルアは声にならない声を出した。
「ん?どうしたんだ、ルア?」
トキがルアよりも前に出る。
その時、トキの目に映ったのは。
神々しい光に包まれた、トキ達、世を統べる神々のその頂点に君臨する存在。トキ達のリーダーである者だった。
神たちは全部で8人。時の神、空の神、水の神、地の神、和の神、風の神、闇の神、光の神である。そして、その中の、そう光の神、ライトである。
「我らがリーダーであらせられるライト様ではありませんか?なぜこんな場所にいるんです?それに、あなたの管轄は昼、今は夜であなたの管轄外ですよね?」
「お前は、時の神のトキではないか!? お前は神の座から除名したはず、何故ここに居る!?」
「え?ちょっと待て?除名とはどういうことだ!?」
突然の事実にトキは困惑気味に聞く。
「トキ、お前、この街で問題を起こしただろ!!だから、前回の会議でお前は神の座を返上したことになっている。それに、風の神、フウに伝言を頼んだはずだ」
「なに?会議、参加するのを忘れていたな。そして、フウにもあっていないな」
「また、フウはサボったのか。トキ、お前は神の重圧に縛られることなく自由に生きろよ」
言いたいことは言ったとライトはクルッと向きを変えて去って行こうとする。
「いやいやいや、8人しかいないのになんで私を外さないといけないんですか?八神は?」
「いや、他の全員が何か7がラッキーセブンだから7人の方がいいって意見が何故か合致して… すまんがもう決定事項なのだ。わかってくれ」
そのまま、ライトは姿を消した。
「… 今あったことは見なかったことにしようか… きっと夢だ」
遠くを見つめ、黄昏た顔をするトキにルアが慌てて声をかける。
「いやいや、その、除名の話は衝撃的だし、悲しいことだとは思うけど、現実を見ようよ」
ルアの言葉にトキはボンッと音を立てて元の姿に戻った。
「せっかく、私の力が認められて、八神に、入れて貰ったのに…いつの間にか除名されていたなんて…」
トキはボロボロと涙を流した。当時、トキは八神に憧れておりそれは、それは血の滲む様な努力をたくさんした。
でも、だからこそ今のトキは前のトキとは違った。
ルアと出会い、何者にも代えがたいそんな大切なものが出来た。トキは変わったのだ。
あの頃から…。
当時のトキは、八神ではなく精霊と呼ばれるものであった。
それは100年ほど前の話だ。その頃のトキは森で暮らしていた。その頃は木の姿ではなく、小さな小動物のような姿だった。
リス、そう呼ばれる小動物の姿に似ており、毛の色が珍しくも真っ白な毛並みに青色の瞳を持っていた。
仲間は皆、茶色の毛並みで、自分だけ違う色、仲間たちからはそれを理由に何度も意地悪をされたりした。精霊は通常の動物よりも知能が非常に高い為、ずる賢い者が多かった。三対一で戦ったこともあったが数の不利でとても敵わなかった。
そんなある日、先代の光の神である、サンダー様に助けられた。
昔から時間を操る能力に長けていたトキはサンダー様に才能を見出され、時の神として、トキという名を貰った。
「その姿で生き辛いのならば、私が新しい姿を与えよう。だが、私は其方のまっすぐに私を見据えるそのラピスラズリの様な瑠璃色の瞳も、体中を覆うその白銀の毛並みもとても美しいと思うよ」
サンダー様の言葉にトキは泣き崩れた。その後、木の姿を貰った。変化を使えば人型にもなれる素晴らしい体を。
サンダー様、率いる八神のその末席加えてもらった恩返しがしたかった。
それから、トキはこっそり街の図書館に通って本をこっそり読むのが日課だった。
毎日、毎日、本を読み、とある冒険譚にとてもハマっていた。タイトルを『ブレイブスサンダーの冒険譚』と言った。
ブレイブスサンダーの冒険譚は20冊もある長編の小説で、サンダー様を主役とした物語だった。
サンダー様の一生を簡単に示した物だったという。
トキたちが、ブレイブスサンダーの冒険譚の本の中に入りこんでしまうのだが、それはまた別のお話。
そう、トキの憧れた冒険譚の主人公はサンダー様だった。
そして、その本を巡り巡ってルアも読んでいたのだった。
サンダー様の落ち着いていてそれでいてとても優しい声色を思い出して、トキは満面の笑顔を作る。
トキの後ろに立っていたルアはトキが除名されて泣いているのかと勘違いして声をかける。
「トキ、大丈夫?」
「あぁ、あんなところ辞められて清々したっ!!私はサンダー様に仕えていたのだから」
「そっか」
晴れやかな笑顔のトキにルアは笑顔を返した。
「そろそろ、遅くなったし戻ろうか」
「あぁ」




