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第2話 ローセデンスの花畑

セリアはセデンスと言う街に来ていた。

セデンスは街中に花が咲き乱れ、とても綺麗だ。

その中でもローセデンスの花畑は群を抜いて綺麗なのだとか。

セリアは少し疲れたようで、ローセデンスの花畑の近くの木の下で少しだけ眠ることにした。


雨。それは嫌いだ。雑音が激しくて怖いから。自分が一人だと実感するから。

私はひとりぼっちだから。


「はっ!!」

セリアが飛び起きて周囲を見渡す。

「…昔の夢、ですね。私には母から貰った名があると言うのに…。もう、夜ですね。暗いですし、一度、本体に戻って…」

「お嬢ちゃん こぉんなところに1人なんて危ないぜ?」

突然、知らない男が現れる。

「!?」

セリアが急いで、世界樹の枝を男に向ける。

「なんだ?そんな棒っきれで一体何をするんだ?」

セリアが閃光の魔術を放つ。

眩い光に男は顔をしかめる。

「ううぅぅ、眩しいぃぃぃ」

眩い光が収まった後、思わず目を瞑ってしまっていたセリアが目を開ける。

「え?」

セリアの目の前に立っていた男は跡形もなく消えていた。

目の前には何も無かった。

勿論、セリアの閃光は只の眩しい光で人体に害を及ぼすようなものではない。

セリアが辺りを見回しても、どこにも男は見当たらなかった。

その後、セリアは一度本体の世界樹の元へと戻った。


——翌朝。

「それでは、そろそろセデンスの街へ行きますか」

今日もセデンスの街はきらきらと輝き、風で揺れる花々が咲き乱れていた。

そして、いつものようにセリアが街行く人々のそのうちの一人に声をかける。

「こんにちは。私は、セリア・フローレンスです。最近何かお困、り…の……」

セリアは途中まで言いかけたところで止める。

(普通なら皆さん途中で私に視線を向けてくれるのですが、何かおかしいですね)

その後、セリアは街の人たちに声をかけてまわった。

「あの、こんにちは、私…」

「こんにちは~、あの~」

「こんにちは、あの…」

色々な人に声をかけて周ったセリアは息切れしてしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ。誰も私に気づきません、ね…」

セリアが疲れて、近くにあったベンチに座って言う。

「そりゃあ、そうだろうな」

「!?」

突然の声にセリアが振り返る。

「そんなに警戒するものじゃあないよ」

(昨晩から突然現れる方ばかり、一体全体どういうことなのですか!?)

「あなたは誰ですか?」

セリアの声に声の主は頭を掻きながらセリアの隣に座った。

「失敬。紹介がまだだったね。儂の名前はスノールだ」

セリアの横に座ったのは、綺麗な銀髪に水色に近い銀色の瞳。背の高い、五,六十代程の男性だった。低く落ち着いた声が少し心地良い。

「私は、セリア・フローレンスです」

「最近どうやら街の様子がおかしくてね。皆、自分以外が見えていないんだよ」

突然の言葉にセリアが目を瞬く。

「自分以外が見えていないとはどういうことですか?」

「そのままの意味さ。何らかの魔術だろうが、何やら、皆最近ぼーとして、儂が話しかけても上の空でな。本で昔こんな話を何処かで聞いた気がするんだが、どうにも思い出せない。原因は何かの花だったとか」

「人を操る花ですか?聞いたことがありませんね」

「操る?なんでそう思ったんだ?」

「昨晩、怪しい男性に声をかけられたので、閃光魔術を使ったら消えてしまったんです」

「閃光魔術って眩しい光を放つ魔術だろ?なんで消えたんだ?」

スノールが考え込む。

「私は、昨晩ローセデンスの花畑の近くに居たんです。人の気配もなかったですし、何というか、彼、あんまり普通の人間っぽくなかったんです」

(私は世界樹なので、ある程度人か人ではないか見わけがつくのですが、人ではないということしかわかりませんし…それを言うわけにもいきませんし…)

「なるほど、魔力を感じたのか?」

「そうですね、思い返してみれば体中がほのかに光っていて魔力の塊のような感じだったかもしれません」

「魔力の塊か… わかった、儂も街の図書館で調べてみよう。何かわかったら儂の専用精霊で知らせるから、君も何か出来る範囲で調べてみてくれ」

「わかりました」

専用精霊とは、その人だけに仕える精霊の総称で。何があってもその人を裏切らない、その人以外の言うことを絶対に聞かないと主人と契約している精霊のことである。

専用精霊は主従がはっきりしており、主人には敬語で話す。

良隣精霊(りょうりんせいれい)は、掛け持ちが許されたりする場合もある。主従があまりはっきりしておらず、友人または平等なパートナーのような関係の精霊のことを言う。

もう一つ、愛用精霊は、その名の通り愛玩動物のように主人が愛でる為に契約している精霊のことをいい。可愛がるために動物の姿の精霊などが選ばれやすい。


セリアは取りあえず、ローセデンスの花畑へ向かった。

初めて来たローセデンスの花畑はとにかく綺麗で素敵な場所だった。

「君、こんなところに1人でなにしているの?」

「!?」

セリアが驚いて振り返ると、14、5歳の少年が真後ろに立っていた。

(全く気配がなく、今突然現れたみたい)

「突然、現れた、み…た…い……?」

セリアは少年を見たまま、言う。

「なるほど。あなたはっ」

セリアは小さな水弾を生み出すと、少年にぶつけた。

水弾が当たった少年は水面が揺らぐようにぐにゃりと歪んで、消えてしまった。

「幻影だったのですねっ!」

幻影とは、感覚の錯誤によって、実際には存在しないのに、存在するかのように見えるもののことをいう。

「昨晩の彼も幻影ですね。おかしいと思ったんです。突然目の前から消えるなんてありえないんです」

「術者の方が近くにいるのでしょう? 出てきてください」

「セリア」

突然の声にセリアは声の方を見る。

「スノールさん!? どうしてここに!?」

「儂も調べていたんだよ。図書館で、これがまさかの大当たり、話していたことが書いてある本を見つけたんだ」

「でも…」

「いいから、読んでみてくれ」

「わかりました…」

セリアが渋々頷き、読み始める。


ある時、このセデンスの街で、私のことを皆が無視することがあった。

何度話しかけても、無視されるから一体何事かと、友人の家へ行った。すると、先程私を無視した友人がベッドで寝ていたのだ。私は友人の家の窓から家の前を見ると、彼と全く同じ顔の人間が同じ場所を行ったり来たりしていた。全員そうだった。彼の奥さんもおかしな動きをしていた。

どこか踊っているいるような、回っているような不思議な動きだ。

それから一週間毎日友人の家へ通ったが特に収穫はなく、友人は寝たきりだった。

そんなある日、私はローセデンスの花畑へ行ってみることにした。

ローセデンスの花畑は綺麗でそこにいる時間は癒される気がした。突然声をかけられ振り返るとそこには子供の頃に亡くなった古い友人が立っていた。私は何かがおかしいということを確信した。友人は私の知っている14、5歳の姿のままだったから。

今の私は20歳。彼はあの時のまま。

その時、声がした。

微かだが、確かに聞こえた。寂しい、と。

「どうして、さみしいんだ?」私は必死に語りかけた。

その時、ローセデンスの花畑に強い風が吹き花々が揺れた。

「だって、誰も、私のところにこないから…」

声の方を向くと、何もなく花が咲き乱れているだけだった。

そうか、ローセデンスの花畑が、昔ここによく遊びに来ていた私と彼をここに呼びたかったのだ。だから、亡くなった友人の幻影を作ったり、私をここに呼び寄せたりしたのか。

そう、すべては寂しがり屋のローセデンスの花畑のいたずらだったのだ。

それから、私が何度もローセデンスの花畑へ足を運ぶようになってからはこのいたずらは一度も起こらなかった。


「ローセデンスの花畑のいたずら!? ローセデンスの花畑が幻影を操っているのですか!?」

セリアが思わず声を上げると同時に風が吹いた。

そして、微かに聞こえた。

「寂しい…」

セリアがホッとしたようにふぅっと息を吐いてから言う。

「それなら、良隣精霊を呼べばいいではないですか。私、の知る木は、良隣精霊に良く遊びに来てもらっていました あなたもそうすれば良い」

(うっ、危うく私、と言ってしまうところでした、気を付けないと…)

「良隣、精霊…」


———

ローセデンスの花畑には良隣精霊がたくさん集まった。

良隣精霊たちは小さな妖精のような姿をしており、羽をパタパタと羽ばたかせて遊んでいる。

ローセデンスの花畑は良隣精霊たちが居てくれて嬉しいのか花々が揺れて、花弁(はなびら)が舞っている。

セリアは、ローセデンスの花畑が良隣精霊たちと楽しそうに談笑しているところを見届けた後、街を出ることにした。

「セリア、もう行くのかい?」

「えぇ、私は旅の者ですから」

また、風が吹きセリアの髪を揺らす。

「私、セリア・フローレンスは世界をより良くする為に旅をしています!」

セリアが満面の笑みで言うと、スノールがセリアの頭を優しく撫でた。

「それはいいな」

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