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66 時計櫓の案内人

莉央はなんだか緊迫してきた場面が怖くなり、隣のロザリオの腕をぎゅっとつかんだ。


オルビスがあたりに人がいないかを確認し、サイラスの目を見てうなずく。


サイラスはロザリオに背を向け、資料を探しながら言った。


「ランドルフという者が、時計櫓の案内人になった」


「ランドルフ? ……貴族の方では……ないわ。その方がなにか?」


ロザリオの質問に、サイラスの代わりにオルビスが答える。


「王族のごく限られた方のお世話係。というのは表向きで、外交に関わり諜報員的な役割を担っているのでないかという噂を聞きました。確かではありませんが」


「諜報員。……なぜそのような者が、時計櫓の案内人に?」


「分からないんだよ。オルビスに調べさせても、ランドルフの情報はほとんど出てこない。王族に深く関わっていることは分かったんだが……」


「…………でも……」


ロザリオのその言葉を遮るように、サイラスが話を続ける。


「そうなんだよ。俺も王族の一員だ。しかも第二王子。なのに、俺がその人物についてなにも知らないって、どういうことだと。ロザリオもそう思っただろう。そこなんだよ。重要なのは」


「そこはあまり重要ではないわ」


今度はロザリオがサイラスに背を向けて、人差し指をあごに当てながら、話し出した。


「王族を守り、影で政治に関わっているような人物が、なぜ花音の案内役を務めるのか。ただ時計櫓にのぼるだけなのに……。確かに不自然よね。オルビス」


「はい。こちらの内偵捜査の部署の者に調べさせたのですが、詳しい情報はどこにも……」


「サイラスには知らされていないのは、分かるわ。あなたは王族であってもちょっと、なんていうか、部外者というか」


「部外者っ?」


「そうよ。第二王子は、いざとなったら外交カードとして利用される立場だし。王族の心臓部にはなれない立場ですもの。もちろん、大事なカードではあるけれど」


ロザリオの言葉に、オルビスが口元を隠して笑っていた。


「多分、花音たちが怪しまれているわけではないと思うわ。ましてや、ランドルフという方に始末されるわけでもない。だって、そんなことをしたら、わたくしや、サイラス、オルビスが黙ってはいないわ。ねえオルビス」


オルビスは、ロザリオには視線を合わせずに、床を見ながら低い声で言った。


「友人である花音さまたちになにかあった場合は、この国にとって由々しき事態。黙ってはいないでしょう。そのためにも、今回の時計櫓のご見学の際は、身を挺してお守りいたします」


二人の会話を聞いていたサイラスが書棚から離れ、ロザリオの正面に立つ。


「なぜランドルフが、今回の案内役になったのか、理由を確かめる術はない。ただ、あらゆる理由を考える必要はあると思ってる。花音たちの身の安全も含めてだ。あの時の王の表情からは、花音たちを怪しんでいるとは見受けられなかったが、時計櫓に関して、なんらかの秘密というか、あそこが特別な場所だということは伝わった。ただ、そうであるなら、花音に見学の許可は出さないと思うんだが……」


「そこには危険はないし、観光客が見学にいっても、問題はない場所。そんな場場所なのに下手に見学に行くことを禁ずれば、それこそなにかあるのかと勘ぐ繰られてしまう。だから、なにかしら秘密があるから、ランドルフという特別な任務を担っている者を案内役につけた、ということよね」


「そうだ。そのなんらかの秘密を探ろうと、こうやって、時計櫓の詳細が分かるような資料や書籍を探しているんだ」



ガタン。



その時、二階でなにかが倒れる大きな音がした。

その音が静かな書館に響き渡った。


係の者が、慌てて二階にあがっていく。


ロザリオと莉央は、一瞬目線を合わせた。

でもここで二人が動じてしまえば、おりかと花音が上にいることが分かってしまう。


「なんだ。今の音は?」


サイラスが不審そうに二階を見上げる。


「なにかしら……」


ロザリオそう言いかけた時、莉央がロザリオの言葉に被せるように大きな声で言った。


「おりかさんたちが、なにか落としたのかもしれない」


 ロザリオは、はっとした顔で、莉央を見る。

(莉央、あなた、なにを言ってるの?)


「おりかは上にいるのか?」


「はい。花音さんもいます」


「花音も?」

サイラスが、「なぜいるんだ?」という表情で、莉央に話しかける。


「二階の天井がおもしろい模様になっているようで、それをいつものように、おりかさんがスケッチしているんです。二階にあった脚立を使っていたので、花音さんはそれを支えるって。その脚立をしまう時かなにかの拍子で、脚立が倒れたのかも」


「倒れた? 危険ではないか。オルビスっ」


サイラスがその言葉を言い終わらないうちに、オルビスはすでに二階へと駆けあがっていっていた。

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