65 木の模様。暗号のような模様
花音が指さす部分の数本の木のところに、よく見ないと見落としてしまいそうな、薄い模様のような、暗号のようなものがいくつも記されていた。
「この模様みたいなところをスケッチしてほしい。順番も含めてできるだけ正確に」
花音はそう言うと、座っている位置をずらし、おりかがそこに移動した。
そしておりかはその模様をじっと見て無言で、持っていたスケッチブックに、それを描きとめていく。
その様子を見ていたセイラが花音に声をかけた。
「花音さま。花音さま。花音さま」
セイラの声に気づいた花音は、下を見た。
「花音さま。今ここの一階に、サイラスさまとオルビスさまがいらしています」
「オルビスが?」
花音は急いで下におりていく。
「はい。莉央さまとロザリオさまが、下でお二人と話をされていて、二階にあがってこないよう足止めをされています。しかし、どこまで止めていられるか……。お二人はなにか書物か資料をお探しのようなのですが、それらが二階にあるとなると……」
「分かりました。私が視ることは終わったので、あとはおりかがスケッチするのを待つだけです。ただ、そのスケッチに少し時間がかかりそうで。でも急がしてこのスケッチがうまくいかないと、すべてが失敗に終わってしまう可能性があるので、なんとか二階にあがってくることを阻止してほしいのだけれど……」
花音がそう言いながら上を見ると、おりかは天井を見上げながらえんぴつを走らせていた。
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一階にいる四人はソファから立ち上がり、奥の資料が並ぶ場所に移動し始めた。
二階から下の様子をうかがっていたセイラは身をかがめ、急ぎ花音たちがいる場所に戻ってくる。
「ロザリオさまたちが、一階の奥へ移動しました。まだ二階へはいらっしゃらないご様子です」
そう花音の耳元で伝える。
「今、私があそこへ行くのは怪しまれると思います。なぜ二階にいたか聞かれたら……。だからここに隠れているのがよいと思うのですが、セイラ、どう思います?」
花音はセイラを見つめ聞いた。
セイラはその言葉に深くうなずく。
「私たちは、ここで身を潜めていることが賢明かと思います。ロザリオさまがなんとか時間稼ぎをしてくださると思います。思いますが……。探しているものが一階になければ、二階に……。それを止めることは、ロザリオさまでも難しいかと思います。そんなことをすれば逆に怪しまれることになりますし」
今度は花音がその言葉にうなずいた。
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おりかは「できるだけ正確に」模様を写し取っていた。
(私、空間に描くほうが得意で、平面はそんなにうまくないんだよね。でも、今はそんなこと言ってられない。急がないと。でも、急ごうとすると、手が震える)
模様は全部で十種類。
デザインはそれほど複雑ではないが、薄くて線が見えづらいところがあり、じっくり見ないと写し取るのが難しい。
(この模様が、時計櫓とここが繋がる重要ななにかなんだよね。花音、そういうことだよね。待っててね。ロザリオさま、莉央、どうか時間を稼いで)
おりかは、手を休めることなく、スケッチし続けた。
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「時計櫓の資料。資料……。アルデウス王国の歴史や、この宮殿に関する書籍や資料は、このあたりに格納しているのですが。時計櫓の詳細となると……私も見た記憶が……。少々お待ちください」
書館の担当者が、一階の奥の資料室に置かれている資料や書籍を一冊一冊確認しながら、時計櫓の文献を探している。
「申し訳ないな。この棚だな。俺たちも探すぞ。オルビス」
サイラス自らも棚の文献を確認していく。
「宮殿の設計図的なものは、王族が保管しているのでは? わたくし以前、王族の歴史を学ぶ講義で、宮殿の設計図と、宮殿内の施設の役割などの詳細を学んだことがあるわ。……でもその時、時計櫓について説明を受けた記憶はない……」
一緒に資料を探していたロザリオが、ひとり言のようにつぶやいた。
「俺もだ。時計櫓はただの時計の設備が置いてある場所だから、説明などは不要だろう。目的は時刻の表示だしな。機密にする必要もないし。だから詳細を記した資料などないんだろう。と俺は思う」
「じゃあ、なぜ、あなたは今その機密にする必要などない場所の資料を探しているの?」
ロザリオの問いに、サイラスは言葉を返さない。
「花音が時計櫓にのぼることになって、あなたも同行することになった。それで一応は時計櫓がどんなところか調べてみようということになった。なんて単純なことではないわよね。あなたは、安易に物事を考えるところがあるけれど、無駄なことはしない方だと、わたくしは知っているわ」
サイラスは黙っている。
オルビスが慌てるようにして、ロザリオの顔とサイラスの背中を交互に見る。
書館の担当者は、なにも聞こえてないそぶりで、資料を探し続けている。
するとサイラスが棚のほうを向いたまま担当者に声をかけた。
「ここからは自分たちで探す。手間をかけたな」
担当者は、一礼をすると、すっとその場を去っていった。




