64 時計櫓の情報は
(まずいわ。なぜここにサイラスが……。どうすれば……)
ロザリオは親指をかみながら必死に考えをめぐらす。
すると、隣にいた莉央がすっと動いて一階へおりていった。
「サイラスさまー。オルビスさまー。こんにちは」
受付にいる二人に声をかける。
「莉央さま。こちらにいらしたんですね
オルビスが莉央に笑顔で話しかけながら、あたりを見回すように首を左右に振った。
そんなオルビスの様子になど全然おかまいなしに、莉央は話を続ける。
「サイラスさまとオルビスさまは、なにをしにこちらへ?」
「おお。莉央。俺たちは、時計櫓のことでちょっと調べたいことがあって、書館に来たんだ。莉央は一人か?」
サイラスの質問には答えずに、莉央は話を続けた。
「花音さんから時計櫓の件は、聞きました。私もぜひ一緒にのぼりたいです」
「もちろんだ。莉央とおりかも一緒に見学にのぼってくれてかまわない」
「わたくしもご一緒させていただきたいわ」
ロザリオも二階からおりてきていた。
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おりてくる直前、ロザリオは壁際に控えていたセイラに言った。
「二人の状況の確認を。もし話せるようだったら、オルビスたちがここへ来ていることを伝えて。莉央とわたくしは、下で二人を足止めするわ。もしもの時は……セイラ、おりかたちを書館の奥へ」
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ロザリオの声に、サイラスが驚いて階段のほうを見る。
「ロザリオ! 書館へ来ていたのか。偶然だな」
「わたくしは、よくここへは来ていますわ。王族の資料も多いし、静かに勉強をする場としても最適。サイラスのほうが書館に来るなんてめずらしいわ」
ロザリオはそう言いながら、サイラスの視線が二階に向かないよう、一階の奥にあるソファの席に移動する。
「今日はその質問を何度も聞かれるな。時計櫓の資料を探しにきたんだ。花音が見学に行くとなって、警備の者と打ち合わせをするのだが、事前になんの情報も待たずに話しても、相手に失礼だし……」
「バカにされないためにも、ですね」
「まあ。そういうことだ」
サイラスは自然にロザリオをエスコートしながら、自分もソファへと腰をかける。
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莉央は、オルビスに話かける。
「時計櫓ってそんなに危険な場所なのですか?」
「いやいや。危険ではないですよ。ただなんの情報もないと、警備や見学経路の打合せができないので、事前に情報をと思っての資料探しですよ。ところで」
「そうなんですね。その資料って書館にあるということは、私たちのような一般人でも見れるのでしょうか」
「ええ、まあ……。見れますよ」
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ソファ席では、ロザリオの質問が続いていた。
「それにしてもだわ。わざわざ書館に来て資料を探すということは……、王族や軍が保管している時計櫓の資料に、不明な点や怪しい部分がおありになったのですか?」
「…………」
ロザリオは無言のサイラスに、さらに質問を続ける。
「まさか、時計櫓の情報が全く残っていないとか?」
サイラスは首を横に振りながら答えた。
「お前は、いろいろ鋭すぎる」
「わたくしは、第二王子の婚約者ですもの」
サイラスは、ソファの背もたれに体をあずけて、あきれたような表情でロザリオに微笑みかける。
「知っている」
そう言うと、オルビスに向かって右手をあげて、こちらに来るようにと合図を送った。
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二階では。
セイラは、一階からは姿が見えないよう、低い姿勢で壁づたいにおりかたちのもとへと進んでいった。
おりかは、新たに描きつくった台の下で、花音を見上げていた。
そこへセイラがやってきて、声をかける。
「おりかさま。……おりかさま」
セイラの声に気づくと、おりかは慌ててセイラに近づいた。
「どうしたのですか。なにか?」
「ここへサイラスさまと、オルビスさまがいらしています」
「え……」
「花音さまはまだ?」
「はい。今、少し場所を移動して、重要な部分を視ているようなのです」
セイラもおりかの見る方を一緒に見上げた。
そして視線を上に向けたまま、状況の報告をする。
「ロザリオさまと莉央さまが、今一階でサイラスさまたちの足止めをしています。急な展開だったため、私もロザリオさまとは打合せはできていません。ロザリオさまのことですから、サイラスさまたちが二階にあがってくるようなことがないよう、なにかしら策は練ってくださるとは思うのですが、万が一ということも……」
その時、上から花音の声が聞こえた。
「おりか、視えたわ。分かったわ。この格子の天井の秘密が」
その声におりかとセイラは顔を見合わせる。
「おりか、お願いがある。この部分の格子に描かれている模様を写しとってほしい」
セイラは警戒しながら一階が見える場所に移動し、下の様子を伺って戻ってくる。
「まだ大丈夫のようです。サイラスさまとロザリオはソファ席で話をされています。今なら」
セイラの言葉におりかはうなずき、描いた階段を走ってのぼっていった。
「おりか、ここ。ここの模様をスケッチして」
そう言って花音がある部分を指さしていた。




