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63 花音。視る

翌日、書館には、おりか、花音、莉央、ロザリオがいた。


館内の一階には、調べものをしている人や本を読んでいる人が数名。

二階はいるのはおりかたちだけだった。


「花音、こっちよ」

おりかがそう言って、時計櫓の真下あたりだと思われる奥の書棚へ花音を呼ぶ。

そこから上を見上げる花音。


「書館の専用のはしごがあるんだけど、それだと天井に手が触れるまでは届かない。だから、私が『ぶるーとす』で小さな階段を作るから、それを使って天井近くまで行って。ロザリオさまと莉央は、この奥に人が来ないように見張っていてください」


おりかの手にある『ぶるーとす』が、ぶるっと振動するとうっすらと光を放った。


おりかはその『ぶるーとす』で、空間に階段を描き始める。


そして描き終わった階段は、その場で天井まで届く立体的な階段になった。


「立ったままだと危ないと思って、座って天井に手が届く高さになってるから。さ、花音。行って」


花音はうなずくと、その階段をのぼっていった。


天井に手が届くところで、階段に座る花音。


大きく深呼吸をして、目を閉じる。

そして、天井の格子に手をつけた。


 

視えてきた景色は、男性が木片を組みわせてなにかを作っているところだった。

その木片のいくつかに、なにか模様のようなものを彫っている? 

薄い模様だ。

よく見ないと分からないような薄い模様を彫っている。


次の瞬間、場面が変わる。ここは……。


「時計櫓の中だわ」

花音がつぶやく。


先ほどの男性が床を見ながら誰かと話をしている。


男性は、両手で持てるぎりぎりの大きさの格子でできた作品のようなものを床の上に置いた。

その格子の柄を別の男性が床に鉛筆のようなものでかたどっていく。


また場面が変わる。


「ここは……。書館の……。この場所だわ」


花音の言葉は、下にいるおりかにもかすかに届いていた。


大勢の人の手によって、格子でできた作品のようなものが天井に取り付けられている。

それは、書館の二階の天井すべてに取り付けられていた。


そして、今すぐ目の前で花音に視えているそれは、最初に視た、薄い模様が彫られているものだった。


「この模様がある格子が取り付けられているのは……。あ、今私がいる場所周辺だわ。でも、ここの模様の部分はなにを意味するのか……」



ガシャ。


書館の入口の扉が開く音がした。


すると、サイラスとオルビスが入ってきた。


二人の姿を確かめたロザリオが、驚いた表情で莉央の目を見る。


(なぜ? なぜあの二人がここへ? スケジュールでは今日は、軍の会議だとあったはず)


書館の受付の者が、サイラスに言葉をかけた。


「サイラスさま。ごきげんよう。こちらへ足を運ばれるなんてめずらしいですね。なにか書籍か資料をお探しでしょうか」


「そうなんだ。宮殿の時計櫓の資料がこちらに保管されていると聞いて、それを探しにきたんだ」



花音はまだ視ている世界からもどってきていない。


おりかもサイラスたちがここに来たことに気づいておらず、描いた階段の下で花音をじっと見上げていた。


(この模様がなにを意味するのか知りたい。そこを知りたい。それがなにを意味するのか分かる場面を視せて)


花音は一度目を開けて、天井の格子を見た。

そして、あの模様がある木片を探した。


(あった! あれだわ)


「おりかっ、おりかっ」


花音がおりかに声をかける。


「もう終わったの?」


「違うの。この階段をもう少し左の方に動かしてほしいの。今すぐに」


「動かす?」


この階段は、動かすことを想定していなかったため、固定の階段だった。


「すぐにと言われても。ちょっと待ってて」


花音の急なリクエストに、おりかは焦りで手が震える。


「……ここは冷静に冷静に。落ち着いて考えるのよ。どうすれば階段を動かせるか。考えるの。冷静に冷静に」


おりかは、大きく息をすって『ぶるーとす』に話しかけた。


「『ぶるーとす』、この階段を動かすために必要なものを描きたいの。階段を載せる台車? 階段を押すなにか? 思いつかない。お願い。どうすれば動かせるか教えてほしい」


すると『ぶるーとす』がぱっと光り、おりかの右手を引っ張るように動きだした。

そして描きだしたのは……。


「ん? ん? なに? なに? この長方形。積み木……? ん? ああ! そうか! 分かったわ『ぶるーとす』! 階段と同じ高さの台を作ろうとしているのね。それを花音がいる階段の横につけて花音が移動すればいいんだ! 階段を動かさずに花音が動けばいいのかっ。ありがとうっ『ぶるーとす』」


おりかはそう言って、急ぎ台を完成させた。


「花音! 花音! 今、花音の左横に台をつけたから、それでそっちの台に移動できるから。それで大丈夫かな」


おりかの言葉を聞いて、さっと左の台に移る花音。

模様がある格子に手が届いた。

そして、目を閉じて、再び視ることを始めた。

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