62 リフォアナへの報告
その日の夜、おりかたちはロザリオの住むグロスター邸に招待されていた。
夕食後、いつものように無限の間で、リフォアナを交えて時計櫓にのぼる件について話し合いが行われた。
「花音。よくやったわ。あなたがそこまで考えて行動していたなんて」
花音の褒美のことを聞いたホログラフィのリフォアナが、拍手をするしぐさをしながら、驚きとよろこびの表情を花音に向ける。
「時計櫓にのぼることを目的にしていたわけじゃなかったんだけど、ご褒美をくれるという流れになって、それならイチかバチかで言ってみたら、こうなっただけ。計画性なんてゼロ」
ちらりと莉央を見て舌を出し、そうにこたえる花音。
「だから、のぼったところでなにをすればいいのかまでは、考えてなかったです」
そう少しバツが悪そうに言う花音に、ロザリオが笑顔で言葉をかける。
「時計櫓にのぼれるというご褒美を勝ち取ったことがすばらしいのよ。どうするかは、ここで今から考えればよいのであって。わたくし、セイラから時計櫓に行った時のことを細かく聞いて簡単に櫓の中の見取り図を作ってみたの。セイラ、みなさまに見取り図を」
セイラは持ってきた見取り図をテーブルの上に広げ、そして説明を始めた。
「まず、この真ん中にあるというか、浮いているのが、時計の歯車部分です。透明なガラスのボックスのようなものの中に、歯車や機械が浮いていて、その下を歩くことができるようになっています」
「時計の文字盤部分は、外に見えているあれですよね?」
おりかがセイラに確認する。
「そうです。みなさんがいつもご覧になっている時計櫓の外に見えているものです」
「時計の歯車が浮いてるって、どういうことなんでしょうか。本当に浮いていたんですか?」
莉央がセイラの顔をのぞきこむようにして質問した。
「そこが、だいぶ前のことなので、どういう仕組みで浮いていたのかまでは分かりかねるのです。私も幼かったので、説明されるまま『浮いている』ことを信じてしまいまして。ただ、歯車が入っていた透明な箱は浮いているように見えました。それしか申しあげることはできません。あいまいな記憶で申し訳ありません」
セイラの申し訳なさそうな言葉に、莉央は慌てて胸の前で両手を左右に振りながら
「そのようなっ。セイラさんがあやまることではありませんっ。私こそ変な質問をしてしまってすみません。ただ、ちょっと、あの、どんなふうに浮いていたのか気になっただけで。あの、あの、ごめんなさいっ」
そんな莉央を見て、リフォアナがふふっと笑いながら話を進めた。
「まあまあ、セイラさまも莉央もそのあたりで。本当に宙に浮いていたかどうかは、それほど大きな問題ではなく、この機械の下は通れるということが重要で。そして、おりかから聞いたのですが、セイラさまは、その浮いている機械の下の床に、丸か四角のふたのようなものを見た記憶があるのですよね?」
「はい。なにか、模様のような記号のようなものが描かれていて、そこは、開け閉めできるふたような、今考えれば、出入りできるような小さな扉のようなものだったかもしれません。でも、そのようなものがあったことは、はっきり覚えています」
「それについて、櫓の見張り人のような男性は『この時計は普通の時計じゃない。魔法の時計だ。ここは不思議な世界とつながっている』と言っていたそうです」
そのロザリオの言葉にセイラが大きくうなずいた。
ロザリオがはさらに話を続ける。
「そして、その男性は子どもたちに言ったそうです。『歯車は宙に浮いている。ここに魔法の石が』と」
リフォアナは人さし指を顎に当て、なにかを考えるような表情で何度もうなずいていた。
そしてセイラがロザリオの言葉に続けるように言った。
「その男性……おじいさんは、魔法の石の場所を指さしていた記憶はあるのですが、どこをさしていたのかは、覚えておりません」
おりかが、話し終わったセイラの目を見てうなずいてから言う。
「その指さしていた場所が、今回私のギャロファーを格納する場所だと思うんです。そして、床にあった“ふた”のようなもの。それは、下の書館の天井とつながっているんだと思うのです」
「それでおりか。今日あなたは書館の天井を調べたのでしょう。どうだった?」
リフォアナがそう言うと、その姿が一瞬ふわりと揺れ一気に姿が薄くなる。思わずおりかがリフォアナの姿を支えようと手を伸ばしたが、その手はリフォアナの姿を通り抜けてしまう。
「リフォアナ、姿が……」
「まだ大丈夫。消えないわ。でも、だいぶそちらに姿を現していられる時間が少なくなってきているわ。ギャロファーへのエネルギーの補給を急がないといけないかもしれない」
リフォアナのその言葉に、おりか、花音、莉央が顔を見合わせてうなずき合った。
おりかが話を続ける。
「書館の天井には、格子のデザインの装飾が施されていました。多分、時計櫓の床にある“ふた”の部分の格子は外れるようになっていて、そこから時計櫓にのぼれるんじゃないかと思ってる。ただどこが外れるか、どうやったら格子が外れるのかが分からない。でも、どこが外れるのかを知る方法はあると思ってて」
「どうやって?」
「花音に、格子を触って視てもらう」
リフォアナはその言葉を聞いてにやりと笑うと、その姿はすっと消えていった。




