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61 国王の判断

「よいではないですか。時計櫓にのぼらせるぐらい。宝石などを褒美に欲しがるより、よっぽど好感が持てるじゃないですか」


サイラスがいきなり立ち上がり、声をあげた。


予想外の言動にラウール王は、なにを言ってるんだ? という顔でサイラスを見た。


「ですから。ですから……、時計櫓にのぼらせるぐらいよいのではと言っているんです。料理長の顔もたつだろうし……。オルビスも顔がたつだろうし……」


クラリスがぷっと小さく笑う。


それを見たローランドが

「どうしたクラリス? なにがおかしいのだ?」

と不思議そうに聞いた。


「いえ。ちょっと、サイラスさまがいきなり話し出したものですから……。ふふ……。あなたはどう思うの?」


クラリスがローランドに聞いた。


「俺は……。なんでもいいと思う。のぼりたければ、時計櫓だろうが、屋上の秘密の石園だろうが、どこでも行きたいこところに行かせてあげればいいと」


「それなら、そうおっしゃってあげれば。サイラスさま、いっしょうけんめいで顔が真っ赤よ」


ローランドはクラリスの言葉に軽くうなずくと、言った。


「父上、私が許可を出してもよろしいでしょうか。料理長の威信もあるでしょうし、なにより、私からもこのようなおいしい朝食を提案してくれたお礼をさせていただきたい」


ローランドの言葉に、料理長は胸の前で手を合わせる。


「兄上っ」

サイラスから声があがる。


「おいおい。これではまるで私が、時計櫓にのぼらせることを反対しているようではないか。反対などとはひと言も言ってないぞ」


「では……」


念を押すような料理長の問いに、ラウール王はゆっくりとうなずいた。


そして、ローランドを見て言った。


「案内人は、ランドルフで。よいな」


「はい。ではそのように申し伝えておきましょう」


その後の朝食も、王族たちは初めて食べる「アルデウス風出汁茶漬け」の話題でひとしきり盛り上がり、いつもより少し長い朝食となった。




料理長は厨房に戻ると、そこで待っていた花音のもとに駆け寄り、花音の両手を自分の両手でぎゅっと握り言った。


「花音さん、ご希望のご褒美を差し上げられることになりました! 時計櫓にのぼれますよ!」


花音は、一歩さがり、深い礼をした。


「ありがとうございます。夢がひとつ叶います。……それでいつのぼれるのですか?」

そう言いながら、料理長をじっと見つめる。


「いつでも! 私に希望の日を言っていただければ、明日以降であればいつでものぼれます」




サイラスの執務室では、ロザリオがソファに座り、サイラスの帰りを待っていた。


勢いよくドアが開く。


「時計櫓にのぼる許可がおりたぞ!」


サイラスのその言葉に、ロザリオはにっこり微笑み立ち上がった。


「さすがですわ。これで、料理長やオルビスの面目も保たれましたね。花音さまもよろこんでくださるわ。ありがとうございます」


そう言うと、サイラスの胸にそっと顔をうずめた。


サイラスは顔を真っ赤にして、そんなロザリオの背中に右腕をまわし遠慮気味に抱きしめようとしたその瞬間、ロザリオはすっと離れ、そしてサイラスの瞳を見つめて言った。


「みなさまの新しい料理への反応はいかがでした? サイラスの感想も聞かせていただきたいわ」


サイラスは行き場を失った右腕を軽くぐるぐると回し、ロザリオから目をそらして言葉を返す。


「あ。ああ。料理へのみなの反応はすばらしくよかった。兄も絶賛していたし。クラリスさまも、最初はためらっておられたが、兄上のすすめでひと口召し上がったら、顔がぱっと明るくなっておられた。俺の感想としては」


「まあ。クラリスさまもよろこんでおられたのですね! 花音に報告しなくては。セイラ、群青の間に行くわ。サイラス、本当にありがとう。今度ゆっくりお話をお聞きしたいわ」


そう言うとロザリオは、急ぎ群青の間へと向かっていった。



「……オルビス。ロザリオは、俺の感想も聞きたいと言ってたよな」


オルビスは答えない。代わりにサイラスに質問をした。


「国王は時計櫓の案内役に『ランドルフ』という方のお名前をあげていらっしゃいましたが、オルビスさまはこの方をご存知で?」


「いや。『ランドルフ』か……。軍の衛兵部隊ではないな。警備部にそのような者は……。なぜこの者が案内係なのか……。少し気になるな」


「はい。まさかとは思うのですが、花音さまたちを捕らえることも考えていらっしゃるわけではないですよね」


オルビスのその言葉を聞いて、サイラスの表情がさっと変わる。


「外交のカードか……。すぐに『ランドルフ』という者の所在を調べてくれ」


「かしこまりました」

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