60 静寂が広がる王族家の朝食
「本日の朝食は、いつもと少し趣向を変えまして、食前のひと品に新しい料理をご用意しました」
料理長が、朝食の席についている王族に説明をした。
この席にいるのは、国王のラウール王、第一王子のローランドとその妃クラリス、第二王子のサイラス、ほか国王の兄弟姉妹や親族たちの二十名ほどだった。
「新しい料理か。おもしろそうだな。料理長がここに出すほどの料理だ。どんなものか楽しみだ。では用意してくれ」
「はっ」
料理長は深々と礼をすると、給仕係たちに、朝食の用意をうながした。
まず各自の前にライスと、なにかが入った深めの器が置かれる。
「これだけか?」
ラウール王が不審そうな声で料理長にたずねる。
「いえ。まだ完成ではありません。少々お待ちください」
料理長がパンと手を叩くと、手にポットを持った給仕係たちが、ライスが入っている器にスープらしきものを注ぎ始めた。
ラウール王へは料理長自らが注ぐ。
「では、みなさま。このライスとスープのようなものをよく混ぜていただき、そしてライスと一緒にお召し上がりください。スープはとても熱いですので、どうぞお気をつけてください」
料理長の説明を聞きながら、王族たちはおそるおそるといった感じで、スプーンでライスとスープをすくって、口に運ぶ。
その場に静寂が広がる。
壁際に下がっていた料理長は、不安げな顔で王を見ている。
すると、その場の静けさを破るように、一人の声が響いた。
「おいしいっ。こんな料理、食べたことがないぞ。ものすごくおいしいぞ。料理長!」
そう言葉を発したのは、サイラスだった。
すると、次々と「おいしい!」、「こんな料理初めて食べた」という声が、あちらこちらであがり始まった。
サイラスの兄ローランドも、ひと口食べると目を大きく開き、
「おう。こんな料理食べたことないな。この白い身は、魚? なのか? 生臭さがなくて、おいしい。いくらでもライスを食べてしまうな」
そう言って、隣に座るクラリスを見る。
クラリスは、また料理を口にしておらず、器の中をじっと見ていた。
「クラリス、大丈夫だ。味も食感も変ではない。おいしいからひと口食べてみてはどうかな」
ローランドにそう言われて、はっとして顔をあげるクラリス。
「ええ。ええ……。そうね。食べてみるわ」
そう言って、料理を口に運んだ。
「……おいしいわ。とても……」
そう言ってローランドに微笑みを返した。
料理長がそっとラウール王のほうへ目をやると、王と目が合った。
「料理長。ここへ」
王から呼ばれ、料理長が席へと近づく。
王からは「おいしい」という言葉は出ていない。
王の口には合わなかったのだろうか。
「……いかがでしょうか。お口に合わなければ、通常のスープと交換いたします」
申し訳なさそうな表情を浮かべる料理長を王はじっと見て言った。
「うまいな」
「…………」
「うまいぞ。こんなうまいスープ料理は始めて食べた。なんという料理だ?」
王のこの言葉に、料理長は安堵とよろこび溢れる顔でこたえる。
「お気に召していただき感無量です。ほっとしました。あ。料理名は『アルデウス風出汁茶漬け』というものです」
「お前が考えたのか?」
「あ。いえ。私だけではなく、遠方の料理に詳しい知り合いから提案を受けともに作りました」
「遠方の料理か……。なるほど、めずらしい味だ。次の貴族の食事会のメニューにもぜひ加えてくれ」
「かしこまりました。……ということは、この料理はお気に召していただけたということでしょうか」
料理長が念を押すように王に聞いた。
「ああ。気に入ったぞ。なぜ、それを聞く?」
料理長は咳払いを一つして、サイラスのほうをちらりと見た。
目が合うサイラス。
すると、料理長が少し声ををはって、まわりにも聞こえるように話し出した。
「実は、この料理を提案してくれたのは、オルビスの知り合いの女性で、この料理のほかにも、いろいろな遠方の料理を我々に教えてくれているのです」
「そうなのか。ありがたい話ではないか」
「はい。そうなのです。そこで今回、その方とある約束をしたのです。私が食べたことがない料理を提案してくれて、それが絶賛するおいしさだったら、褒美をとらす、と」
「これがその料理か」
「さようで。それでその女性に、褒美はなにがいいと聞いたら……時計櫓にのぼってみたいと……」
「時計櫓に、か?」
「はい。ほかになにか欲しいものはないかと聞いたのですが、できるなら時計櫓にのぼってみたいと言っていて」
「なぜ、時計櫓なのだ?」
「あ、いや。その、女性はロザリオさまと懇意にしていて、ロザリオさまの侍女が、子どもの頃にのぼった時計櫓の話をしたところ、大変興味を持ったようで。それで、一度見てみたいと……」
料理長の言葉を聞いて、王は黙って考えていた。




