52 軍の情報
「今回異常なエネルギーが感知された場所は、鏡の間周辺と算出されました。我々は機械がエネルギーを感知した後すぐに疑わしい場所に向かったのですが、特に怪しいものや危険物は見つからず。外部からの侵入者も確認できませんでした」
「先日の揺れとの関連性は?」
「今の段階では、関連性は認められておりません。また今回の揺れの発生時刻とエネルギーが感知された時刻には時差があります。エネルギー発生のほうが、五~十分ほど早いようです」
ロザリオは、聞いていないふうを装いながら幹部の報告に耳をそばだてていた。
(今日のところは、エネルギーの発生と揺れには関連性はないという判断なのね。よかったわ。ただこのあと、軍がどう動くかよね)
「今後の方針と行動予定は?」
サイラスがロザリオの心を読んだかのような質問を投げる。
「先日のエネルギーの感知の件といい本日の出来事といい、原因は機械の故障か、もしくはなにかをエネルギーと間違えて感知した可能性があるという意見が出ています。そのため、至急軍のすべての機械の総点検を行う予定です。ただ機械点検を行っている期間は、エネルギー感知や不審者侵入感知の機能が停止するため、宮殿内の警備をいつもより厳重に行う予定です」
「点検に何日かかる予定だ?」
「一週間ほどかと」
「よし。分かった。それで進めてくれ」
「はっ」
(一週間。これはチャンスだわ。この一週間で、おりかのギャロファーのエネルギーの補給を完了できれば……)
「ロザリオ。ロザリオ。なにをぼーっとしているんだ。もう幹部兵は帰ったぞ。緊張しているのか?」
今後について思いをめぐらせていたロザリオは、サイラスの存在を忘れて、考えに没頭してしまっていた。
「あ。ごめんなさい。今日はすごくバタバタとしていたからちょっと疲れが。そうだわ。セイラ、おりかさまたちが大丈夫だったか見てきてちょうだい」
「かしこまりました」
「あと。そうね。パスタの意見交換会の話を聞きたいから、今日の夜はわたくしの家で夕食を、と伝えて」
「はい。そのように」
セイラが出ていくと、ロザリオがサイラスに話しかける。
「揺れがあった時間、あなたはどこにいたの?」
「俺は、兄とクラリスさまとたわいもないおしゃべりをしていた」
「おしゃべり?」
「ああ。まあ、おしゃべりといっても、最近の市中の様子や、宮殿内の出来事とかを報告するという感じだ。もちろん、ロザリオのことも、おりかたちのことも話したぞ。今日のパスタの件やオルビスのこともな……」
「ローランドさまはそんなことにご興味がおありかしら」
「笑っていたぞ。クラリスさまとご一緒に」
「……『わらべうた』のことも話されたのですか……?」
「いや、それは話し忘れた。それより、兄もパスタを食べてみたいと言ってたんだ。そうだった。オルビス! 兄がパスタを食べてみたいと言っている。今日の意見交換会で出た改良点を取り入れたパスタはいつ完成する?」
サイラスの言葉に、オルビスはこたえたられないでいた。
肩が震え、手で口を押えている。
「ローランドさまが……ローランドさまがですか……」
「そうだ」
オルビスはうれしさのあまり泣いていた。
今まで皇太子ローランドが、オルビスやシェフが考えた料理に興味を示したことなど一度もなかったのだ。
ましてや食べてみたいなど、これまでのローランドからは考えられない言葉だ。
「花音さまのおかげだ……。花音さま、ありがとうございます。花音さまは幸福の女神だ……」
オルビスは、感動で震え声にならない涙声で花音への感謝を呟いた。
群青の間では、おりか、花音、莉央、セイラの四人が、困惑の表情で顔を見合わせていた。
「そのようなメモは、ロザリオさまも私もこちらへお渡ししていません」
「でも、私と莉央が部屋にいた時に、確かにドアの隙間からメモが差し込まれたのです。そのメモに、赤いギャロファーを今すぐ回収するようにって書いてあって……」
花音がセイラにすがり迫るように話す。
「そのメモは?」
「どこかに消えてしまいました」
花音の返事に、セイラが肩を大きく落とす。
「……確かに私もそのメモを見ました。本当です」
莉央も訴えかえるような切実な目でセイラを見る。
「分かりました。詳しいことは、お屋敷に戻ってからお聞きします。ただ、そのメモはロザリオさまのものではありません」
おりかたちは、釈然としない顔でお互いを見合った。
「じゃああのメモは誰が……」
おりかの言葉が、夕暮れの薄い茜色の陽ざしが差し込む部屋に、静かに溶けていった。




