51 執務室で待つロザリオ
ロザリオたちが到着したサイラスの執務室には、誰もいなかった。
「サイラスさまは、先ほどまでローランドさまとクラリスさまとご一緒でいらして、今は急ぎ鏡の間で軍部ともに検証にあたっておられます。しばしここでお待ちください。私も合流してきます」
ダヴィッドはそう言うと部屋をあとにした。
部屋に誰もいなくなったことを確認すると、ロザリオがセイラに行った。
「今はここにいるのがよさそうね。でも、おりかたちが心配だわ。赤いギャロファーは無事回収できたのかしら。ダヴィッドが地下倉庫のことはなにも言っていなかったから、連行されたりはしていないはず。もし、事情聴取されたとしても、サイラスの印が押してあるパスをも持っているから、わたくしにもすぐに連絡がくるはずだから……」
「そうだと思います。みなさんはご無事かと思います。もう少ししたら、私が群青の間へ様子を見にいってきます」
鏡の間は足止めされた大勢の見学者と、衛兵たちでごったがえしていた。
「ここにいる者全員、今から別の場所に移り、揺れがあった時の状況の聞き取りが行われます」
誘導する兵が、鏡の間にいる人々のパスを確認し、名前を記載していく。
パスチェックが終わった者は、ほかの広間へと誘導されていった。
三十分ほど経つと、鏡の間に残っているのは、衛兵と宮殿関係者だけになった。
「揺れはどれぐらいの時間だったんだ?」
サイラスがひとりの衛兵に聞いた。
「十秒から十五秒ほどだったかと思います。私は警備で出入口の所に立っていたのですが、はじめはカタカタと軽い揺れで、そのあとガタガタと少し大きい揺れがきました。それで少しするとすっと揺れはおさまりました」
サイラスは警備の兵の話を聞くと、隣にいるオルビスに目を合わせた。
「みな言うことは同じだな」
「はい。特に外部から侵入があった形跡はありませんし、鏡の間や宮殿に破損した場所もなさそうです」
「そうだな。よし一度執務室に戻って、今度は軍の担当者から異常エネルギー発生の件についての報告を受けよう」
「かしこまりました。そのように手配します」
サイラスたちが執務室に戻ろうと廊下を歩いていると、うしろから大声でサイラスの名を呼ぶ声がした。
「サイラスさまー。サイラスさまっ」
振り返ると、警備の責任者のダヴィッドが走ってきていた。
「おーダヴィッド。いろいろ世話をかけるな」
「いえ。事故や事件が起こったわけではないので、とりあえずは安心ですが。お声をかけたのは、この件の報告でなく、ロザリオさまのことで……」
「ロザリオがどうかしたのかっ。おいっ。ロザリオの身になにか起こったのかっ」
ロザリオの名前を聞いただけで、サイラスの表情ががらりと変わった。
鬼のような形相になる。
「いえいえ。違います。ロザリオさまはお元気です。落ち着いてください。揺れがあった時、書館にいらしたので、先ほどサイラスさまの執務室へとご移動していただきました。そのことをお伝えしようと思って」
サイラスは思わず握ってしまった右手のこぶしを、照れ笑いとともにゆっくりとほどく。
「そうか。ダヴィッドがロザリオに声をかけてくれたのか」
「はい。たまたま書館にいる者たちへ退避の連絡をしにいった際、そこにロザリオさまとセイラさまがおりましたので、念のためご移動をお願いしたのです」
「……で、ロザリオが俺の執務室へ来たいと?」
「来たいというか……。まあそうですね。執務室へ行くとおっしゃいました」
「そうか。ロザリオが自ら俺の執務室へ、か」
遠くを見ながら、サイラスは満足そうに笑っていた。
ダヴィッドはもうなにを言っても無駄だと察し、隣にいたオルビスに苦笑いを送った。
「では、サイラスさま、急ぎ執務室へと戻りましょう。ダヴィッド知らせてくれてありがとう」
サイラスが執務室へと戻る。
そこにはソファに座り、優雅にお茶を飲むロザリオがいた。
「サイラス。あなたがいないのに勝手に入ってしまいごめんなさい」
「全然かまわない。ダヴィッドから詳細は聞いている。謎の揺れに巻き込まれないでよかった。俺がいると思ってここへ?」
「…………」
「まあ。いい。言わずとも分かっているから」
と、扉をノックする音がした。
オルビスが対応に出る。
「異常エネルギーについての報告にあがりました」
軍の幹部の者が来たようだ。
「入れ」
サイラスの言葉を聞き、中に入ってきた幹部兵は、部屋の奥にロザリオがいるのを見てとまどいを見せる。
「また後ほど出直したほうがよろしそうですね」
「お気になさらずに。わたくしは避難してここでお茶をいただいているだけですので」
「そうは言っても……」
幹部兵は困ったような表情でサイラスを見る。
「ロザリオの言う通りだ。気にするな。ロザリオは情報は漏らさんし、お前もたいした情報はないのだろう。おおよそはダヴィッドから聞いている」
「そうですが……。では完結に報告いたします」
幹部兵は、ちらっとロザリオのいるほうを見て肩をすぼめ、サイラスの前に進み報告を始めた。




