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49 セイラの動揺

莉央を助け出したあと、ロザリオは書館へと向かっていた。


書館に行く途中の二階の廊下で、数人の衛兵たちと出会ったが、みな慌てて一階に向かうところで、廊下を歩いているロザリオを怪しむ者はいなかった。


書館の入口は庭園とは反対側の二階の一番奥にあり、二階と三階をらせん階段でつなげた造りになっている。


窓には少し厚めのレースのカーテンがかけられており、窓から差し込む光は、薄いベールをまとっているような憂いある優しさを帯びていた。

そして本の香りと相まって、書館全体には独特の空気が流れていた。


ロザリオは、室内のらせん階段をのぼり、三階一番奥の窓際のテーブル席に座った。

そのテーブルには、数冊の本とノートが置いてあり、ノートの上には鉛筆がころがっていて、たった今までなにかを書いていた途中のようだ。


「セイラ」

ロザリオが声をかけると、書棚のかげからセイラがすっと現れる。


「うまくいったようですね。莉央さまはお部屋に戻られましたでしょうか」


「ええ。大丈夫よ。鏡の間の様子はどう?」

ロザリオがノートに文字を書くふりをしながら小声で聞く。


「先ほど廊下を歩き、衛兵が話しているのを聞いただけですが、やはり今回も異常なエネルギーが感知されたようです。それと、鏡の間周辺で少し大きな揺れがあったようで、そちらはすぐに原因を探る部隊が組まれたようです」


「そう……。揺れを感じた時間、セイラはどこにいたの?」


「私はこの書館にいましたが、揺れは全く感じませんでした。ここにいたほかの方も、揺れは感じていなかったと思います。誰も慌てる様子はありませんでした」


「では、やはり揺れたのは、鏡の間周辺、というか、鏡の間と壁の中の空間周辺らしいわね。わたしくしは、あの階段の前にいたの。階段自体が揺れていたわ」


ロザリオは、サイラスとオルビスの歌詞を合わせ言ったら、階段と空間がつながったことをセイラに話した。


「今日のこのあとどうするか、追ってセイラを通して伝えると言ってあるの」


「今日は、なにかと宮殿内も市中も慌ただしいかと。もしかしたら、警備も厳しくなるかもしれませんね」


「そうよね……。あまり動かないほうがいいかもしれない。わたくしたちも三人も」


「では、おりかさまたちにそうお伝えしてきます」


「わたくしは、もう少しここにいるわ」


書館には、調べものをしていたり、二階のソファで読書をする人、三階のテーブル席で書きものをしている人など、数名が静かに過ごしている。

鏡の間が大騒動になっていることなど微塵も感じさせない。


ロザリオは、目の前の本をパラパラめくりながら、今後どう動けばいいのかを考えていた。



セイラが群青の間の扉をノックする。

扉が開けられると、そこにいたのは花音だけだった。


「花音さま、本日はいろいろ大変でしたね。ロザリオさまからご伝言を預かってきました。……ほかのみなさまは?」


「セイラさんっ。ロザリオさまには莉央を無事救出いただきありがとうございました。壁の中だと、魔法もなにもかもが使えなかったんです。私、もう、ダメかと思いました……」


いつもは三人の中で一番冷静で、この任務に関してもどこか冷めていた印象の花音が、セイラを見て泣いた。


セイラはそんな花音の背中を優しくさする。


「ロザリオも書館に戻ってきて、私を見た時少し涙ぐんでおられました」


花音は、その言葉にうなずきながら涙を拭いた。


「それで、莉央さまとおりかさまは、どちらへ?」


花音がまだ涙声でこたえる。

「二人は、食料庫へ赤いギャロファーを回収しに行きました」


「………………」


セイラは無言で花音の背中に当てていた手を放したあと、少し遠い目をして言った。


「お二人の件をロザリオさまにお伝えしてきますので、このお部屋でお待ちください。くれぐれもくれぐれも勝手な行動をなさらないよう。私が戻ってくるまでは、宮殿からお出にならないようお願いします」

そう言うと、額に手を当てながら、部屋から出ていった。



セイラは急ぎ書館に戻った。

冷静沈着であるセイラだが、今は顔色が少し青ざめ、表情に動揺の色が見てとれた。

まさか、莉央とおりかがそんな行動をとっていたなんて……。


書館に着くと階段を早足で駆けあがり、ロザリオの前で乱れた息を整えた。

そしてロザリオの耳元で、莉央とおりかが、地下の食料庫へ赤いギャロファーを回収しに行ったことを伝えた。


ガタッ。

ロザリオが思わずイスから立ち上がる。


下のフロアにいる数人が、その音でロザリオがいるほうを見上げた。

ロザリオはその視線を避けるように、イスに座り直す。


「どういうこと……」


「詳しいことはまだ聞いておりません。回収しに行ったことを聞いたので、そのことを急ぎ知らせに戻ってきました。……私も驚きでなにも言えなかったです……。本当にあの方たちは……なにを……」

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