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48 二つの歌詞を合わせれば

莉央は、壁の中で必死に花音に気持ちを飛ばしていた。


群青の間の景色を心に描き、花音を想い、リップのカタチをできるだけはっきりと頭で想像した。


しかし、訓練の時に見えた、花音の意識はまったく見えないし、伝わってもこない。


(そうだ。魔法の糸!)


莉央は、花音の腰に巻き付けた魔法の糸をぎゅっと引っ張ってみる。


確かに魔法の糸は莉央の手にある。

しかし、それを引っ張ってみても、なんの手ごたえもなく、ただ光っている糸がたるんと目の前にあるだけだった。


壁の中からは、莉央と花音はお互いにアクセスできなかったのだ。


二人ともそれぞれの場所で焦りは募っていたが、それにうろたえている時間はない。


(そうなると次だわ。莉央、がんばるのよ)




ロザリオは、階段の下で誰かが来るのを待っていた。


しかし、計画が完了するはずの十分が過ぎても、誰もやってこなかった。


無事莉央が戻ってきたら、莉央か花音がすぐにロザリオがいる王族専用の階段の所に来ることになっていたのだ。


(壁の中から莉央は飛べなかったのね)


ロザリオは、さっとあたりを見回し誰もいないことを確認する。


階段の上からも人がおりてくる気配はない。


手にしていたメモに書いてある歌詞を確認し、大きく息を吸い込んだ。

そして、あの言葉を口にした。


つきのしずくは いずこより。

ほしのこたえは だれにあり。

きえるひかりを つなぐとき。

もどらぬものが あらわれる。


すると、昨日と同じように三段目と四段目の間の側板が微動し始めた。

それと同時にうっすらと光を帯びた自分の右手をそこに当てる。


サッー。


微動していた板が横にスライドして、奥に暗い空間が見えた。


ロザリオは、その空間をのぞき込むようにして、

「莉央、莉央、莉央」

と、その名前を呼んだ。


奥のほうで小さな光が揺れている気がした。


「莉央っ」

ロザリオは、その光に向かって莉央の名前を呼んだ。


すると、その光がずんずんとこちらに近づいてきた。


「ロザリオさまっ」


そこには莉央がいた。

光はライフの画面の光だった。


でも、このままでは莉央は外に出ることはできない。

階段の側面の開いた幅では、人が出入りすることはできなかった。


どうすれば……。どうすれば……。


莉央が助けを求めるような瞳で、ロザリオを見つめる。


あの言葉……。


「莉央、サイラスの歌っていた歌詞をそこから言って」


莉央は、ポケットから紙を取り出し、歌詞を読み上げた。


ひとふしきいて ねむりはさめる。

ふたふしよめば ひがまたのぼる。

みふしめぐれば かたちはきえる。

おもいのさきに みちはかすむ。


すると、暗闇の奥から階段までの全体がグラグラと数回大きく揺れた。

そして揺れが止まると、階段の四段目から下がすべてが壁のほうへスライドし、人がかがんで通れるくらいの空間ができた。


「莉央っ。莉央っ。こちらへ」


驚きで体がかたまっていた莉央が、ロザリオの声で我に返り、階段の中から急いで出てきた。


「このままだとまずいわ。階段をもとに戻さないと」


この状態を誰かに見られてしまったら、とんでもないことになってしまう。


焦りの表情のロザリオに、莉央が言った。

「サイラスさまが、あの歌は一番と二番だって言ってました。それぞれの歌詞を私たちが言って、外側と内側が開いたってってことは、一番と二番を一緒に言ったら両方が開くってことはないでしょうか」


莉央のこの言葉を聞いてロザリオは大きくうなずく。


「そうね。やってみましょう。いい。莉央」


二人は同時に歌詞を読み上げた。


すると、壁のほうにスライドしていた部分が、すっと戻り、階段はもとの状態に戻った。


「やったー」

莉央がよろこびの声をあげたが、それを制するようにロザリオが言った。


「さっきの揺れに、きっと軍部が動き出すわ。莉央は急ぎ群青の間へ。わたくしは書館へ行くわ。今後のことは、またのちほどセイラを通して」


そう言うとロザリオは身をひるがえし、書館へのほうへと向かっていった。


莉央もまわりの様子をそっとうかがいながら、群青の間へと急いだ。


途中、鏡の間のほうへ数人の衛兵が走って向かうのが見えた。

しかし廊下ですれ違う観光客の表情には特段変化はない。


まだ鏡の間は大騒ぎにはなってはいないのだろうか。


群青の間の前にたどりつく。


莉央は大きく息を吸い、扉をノックしさっと部屋の中に入る。


そこには莉央のリップを手に握り、涙を流している花音がいた。

そして、扉の前に肩で息をしている莉央を見ると、花音は大きく目を開き、驚きと安堵が混じった笑顔で莉央に駆け寄り、ぐっと抱きしめる。


「莉央っ。莉央っ。どこに……どこにいってしまったのか心配で心配で……。よかった……。よかったっ」


「はい。よかったです。詳しいことは、あとでゆっくり話します」


ガタッ。


扉がノックもされずに、突然開いた。


入ってきたのはおりかだった。


おりかも莉央を見ると走って近寄りぎゅっと抱きしめた。


「今、鏡の間は大変なことになっているわ。多分、また異常なエネルギーが感知されたんだと思う。衛兵がいっぱい来たし、立ち入り禁止になってる。その時、広間にいた人は、今はまだ広間の中。これから事情聴取が始まるみたい」

おりかが鏡の間の状況を説明する。


「おりかはギリギリ大丈夫だったみたいね。よかった。つくった壁はどうしたの?」


「花音が出ていったあと、すぐに消した。それで庭園にまわって観光客の団体に紛れこんで、その人たちと一緒に玄関近くまできて、ここに戻ってきた。ドキドキだったわ」


おりかの話を花音と莉央は、うんうんと何度もうなずき、涙ぐみながら聞いていた。


「どうしよう。このあとは。もう宿に帰ったほうがいいのかな」


「ロザリオさまが、あとでセイラさんを通して連絡するって言ってました。だからここで待っていたほうがいいと思います。……ロザリオさまは、怪しまれずに書館へたどりつけたのかな。ちょっと心配です。あの時、階段周辺には誰もいなかったし、大丈夫かとは思うんですが……」

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