44 扉が開く
板は半分まではスライドしたが、そこからは動かない。
しかし、ロザリオが手を放すと……。
今度は、三段目の階段の天板部分が左横へとずれ、半分までしか動いていなかった部分の板も全開になった。
ロザリオはその部分を見つめながら一歩一歩階段から後ずさる。
階段下にいた莉央はセイラの腕にしがみついている。
おりかはロザリオと入れ替わるように隙間があいている部分に近づき、おそるおそる中をのぞきこもうとした。
だがその時、三段目と四段目の間の板と天板がすっと元の位置へと戻った。
その場にいた全員が驚きで誰も声を出せない。
しばらく間その場に沈黙が流れる。
そこへ花音がやってきた。
「ど、どうしたの? みんな立ちすくんじゃって」
その声におりかがはっとした表情になり、止めていた息を一気に吐きだすような勢いある声で言った。
「秘密の通路あったかもしれない!」
「え? どういうこと? どこに?」
花音がおりかのそばに近づくために、階段を急ぎ足でのぼってくる。
「ここ」
「ただの階段だけど」
「そう。今、元に戻っちゃった。ここがすっと開いて、階段の下に空間があった」
「えっ。空間? おりか入ったの? そこに」
花音がおりかの腕をつかんで興奮気味に確認する。
「入ってない。奥までよく見てもいない。だって、見ようと思ったら閉まっちゃったんだもん」
「おりかさま、花音さま。人が来ます」
セイラが小声で二人の話を制する。
「あら。ごきげんよう。ロザリオさま」
「ごきげんようアヴィさま」
ブラウンのウェーブしたポニーテールを揺らしながら女性がロザリオに挨拶をしてきた。
侯爵令嬢のアヴィだ。
おりかたちは、急ぎ階段からおり、廊下の隅へとさがる。
「こんなところでなにをなさっているの?」
「ふふ。内緒でございます」
「まあ。では秘密は聞かないことにします。わたくしは今日は、お父さまに呼ばれて政治の講義を受けにきたの。また今度のお茶会で」
ロザリオは、完璧な令嬢スマイルでアヴィを見送った。
そして、おりかたち三人に言った。
「あなたたちのお部屋に行きましょう。ここで話すのは危険だわ」
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群青の間に着くと、外から人が入ってこないようにセイラにはドアの近くで見張ってもらい、ロザリオたち四人は部屋のソファに座り、先ほどの階段で起った出来事を花音に報告した。
話を聞き終わった花音は、両手をあげてソファの背もたれに体を倒した。
「じゃあ、オルビスの言った歌詞で隠し扉みたいになっている、階段の板が開くってことですね。そして多分……」
そのあとの言葉をロザリオが続けた。
「そうね。サイラスが言った歌詞で、鏡の間のあの壁の中のなにかが、反応する」
「あのお昼の時の鏡の間の地震は、きっとそういうことなんですね」
そう言ったおりかの顔が少し険しい。
「あら。おりか、なぜそんな顔をするの? この事実は、あなたたちの任務にはよい情報ではなくて? 花音が壁の中に閉じ込められることはなくなったということでしょう」
「でも……。歌詞を言ってあんな地震が起きてしまったら……。衛兵が動きます……」
確かにおりかの言う通りだ。
ギャロファーを置いてまた異常なエネルギーが発生してしまえば、すぐに軍が動き出す。
さらに鏡の間周辺だけに地震が起きるとしたら、より鏡の間には衛兵たちが集まるだろう。
鏡の間が閉鎖になる恐れもある。
「あー、そうか。だから好都合なんですね。ロザリオさま」
花音が笑顔でうなずきながらソファから立ち上がる。
「どういうこと?」
隣に座っていたおりかが、花音のスカートを引っ張りながら聞く。
「だから、鏡の間でトラブルが起これば、衛兵たちはそちらにかり出される。ということは、階段付近は警備が手薄、人もほとんど来なくなる」
莉央が「あっ」という顔でロザリオのほうを見た。
「そうよ。莉央。鏡の間でなにか起こって騒ぎが大きくなったほうが、莉央が安全に階段から出られるということよ」
ロザリオのその言葉に、莉央は引きつった笑顔になった。
「そうか。私が壁の中に残るんですよね……」
「そうね。もし階段の抜け道から出られなかったことを考えると、最初の計画通り、ギャロファーを置いたら花音は壁から出て、莉央が残る。莉央は、その魔法の力でこの群青の部屋に戻ってくる。大丈夫?」
莉央は無言でうなずく。
両手はぎゅっと握られていた。
「大丈夫よ莉央。いざとなったらロザリオさまがなんとかしてくれるわ」
花音が向かい側に座る莉央のこぶしにふわっと自分の手をのせる。
宮殿内に夕暮れを知らせる閉門の鐘がなり響く。




