43 つきのしずくは いずこより
つきのしずくは いずこより。
ほしのこたえは だれにあり。
きえるひかりを つなぐとき。
もどらぬものが あらわれる。
すると、その歌詞を聞いたサイラスが意外なことを言ったのだ。
「俺もその歌を知っているぞ。お前の歌は二番だ。俺は一番も知っている」
ロザリオとおりか、莉央は思わず顔を見合わせた。
「それに、俺は歌詞だけじゃなくてちゃんと歌える。んっ。んっ」
そして静かに歌い出した。
ひとふしきいて ねむりはさめる。
ふたふしよめば ひがまたのぼる。
みふしめぐれば かたちはきえる。
おもいのさきに みちはかすむ。
サイラスの心地よいアルトの歌声が、午後の柔らかな陽ざしが注ぎ込むダイニングに静かに流れる。
おりかは、サイラスの歌の歌詞もスケッチブックに書き留める。
「……サイラスの歌声を初めて聞いたわ。意外とうまいのね。……よかったわ」
ロザリオがめずらしくサイラスを褒めた。
「そうか! そうか! うまかったか。もう一度歌おうか?」
「それは結構」
「あの、サイラスさま。サイラスさまは、おばあさまや誰からか、この歌をむやみに歌ってはいけないとは言われなかったのですか?」
おりかがおそるおそるといった感じで質問する。
「どういうことだ?」
「オルビスさまは、おばあさまからこの歌を宮殿の中や王族の階段の下では歌ってはいけないと言われていたそうなんです」
「うーん。そういえば言われたような。あー乳母が言ってたな。でも『歌うな』ではなく、もし闇の中に閉じ込められたら、そっと歌えと言われた記憶がある」
その時、ダイニングの扉が激しくたたく音がした。
「サイラスさま。中に入ってもよろしいでしょうか」
サイラスは扉の横に立つ衛兵に扉を開けるよう指示を出した。
「お食事のところ失礼します。ただ今、鏡の間で地震のような揺れを感じたと報告があったのですが、こちらのお部屋は大丈夫でしょうか」
「地震? なにも揺れなど感じなかったぞ。なあオルビス」
「はい。この部屋では揺れは感じませんでした」
「それならば安心しました。では失礼しますっ」
衛兵はそう言って足早に出ていった。
「何事だったんでしょうね。鏡の間にあまりに人が大勢入ったので、押された者が揺れたと思ってしまったのでしょうか」
オルビスが不思議そうな顔でサイラスを見る。
「きっとそうだわ。気のせいね。それよりオルビス、デザートもあるのでしょう。それを」
ロザリオが話題を切り替え、デザートを出してくれるようオルビスを促す。
でも、心はまったく穏やかではなかった。
(これは……もしかしてあの歌が……)
ロザリオははやる気持ちを抑えるために、窓に近づきばっと開けて風を入れた。
開け放たれた窓からは、木々の緑が薫る風が部屋に流れ込んできた。
おりかと莉央の顔を見ると、二人の表情がこわばっている。
そしてサイラスとオルビスに気づかれないように、二人の目を見てうなずいたのだった。
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今、ロザリオ、おりか、花音、セイラは、王族専用の階段の前に立っている。
デザートを食べ終えたあとは、画が描く時間が減ってしまうのが惜しいという理由で、そそくさとこちらに戻ってきた。
花音は、今日のパスタについて意見交換会を行うということで、その場に残った。
その時にサイラスに
「サイラスさまもどうか意見交換会に参加していただけませんか。味の感想や、こういうものが食べたいなど、パスタを初めて召し上がった感想をじっくりお聞きしたのです。もちろんオルビスさまも。お願いします」
そう言って、ロザリオに小さくウインクを投げたのだった。
花音は理由は分からないが、先ほどの歌でなにか事件が起こっていることを感じ、サイラスたちをこの場にとどめてくれようとしていたのだった。
ロザリオから地震の話を聞いたセイラも、やはりあの歌が関係しているのでは言った。
「絶対にそうよ。あの歌に秘密があるんだわ。おりか、書き留めた歌詞を見せて」
いつも冷静なロザリオだが、今は少し焦りの表情が見えていた。
おりかから歌詞のメモを受け取ると、大きな深呼吸をひとつ。
「いい。わたくしがこの歌詞を読むわ。階段のあの部分がどうなるか確認しましょう」
ロザリオがゆっくりと歌詞を口にする。
つきのしずくは いずこより。
ほしのこたえは だれにあり。
きえるひかりを つなぐとき。
もどらぬものが あらわれる。
すると、目の前で三段目と四段目の間が、微動し始めた。
「セイラ」
ロザリオに呼ばれたセイラは、動いている部分の板を触る。
動きは止まらない。
「特に熱を持ったりはしていません。押してみます」
セイラが押しても板はびくともしない。
その時だった。
ロザリオの左の手のひらがうっすらと光を帯びた。
一瞬たじろいだロザリオだが、すぐに思い立ったようにその手のひらを板に当てる。すると、少しだが板がすっと左横にスライドした。
「これは……」
四人は顔を見合わせた。




