4 二つの入場パス
次の日、三人は宿の朝食を食べ終わると、街の探索に出かけた。
宿の周辺は高級な雰囲気のブティックや、レストランが並んでいる。
観光客も高級そうな服装の人が多い。
「最初の案内所の人も言ってたけど、このあたりを歩いている人たちはお金持ちが多いみたいです。私はもっと食べ歩きできたり、カジュアルなお土産屋さんがあるような所を歩きたいです」
高校生の莉央にとっては、高級店は興味が湧かない。
「そうだね。宮殿近くを探る前に、街全体を広く見ておくことも、万が一の時必要かも。おりかさん、最初に行った案内所あたりを見にいってみませんか」
花音がそう提案すると、おりかと莉央がうなずき、三人はホテルの前から乗り合い馬車に乗り、案内所へと向かった。
「あら。昨日の! 宿はどうだった? 宮殿が見える部屋にしてもらえた? 今日はどうしたの? なにか知りたいことがあるなら、なんでも聞いてよ」
昨日の受付の女性が笑顔で三人を迎えてくれた。
「宿のまわりは高級店ばかりで、なんか、私たちにはまだ早いというか……。気軽に街歩きをしてみたくて、ここへ来たんです」
花音が少し照れたように答える。
「あーまあそうだね。宮殿に近いあの周辺は、お金がある観光客が多いし、宮殿の関係者や貴族の邸宅が多いからね。じゃあ、この案内所の周辺を歩いてみるといいわ。そこの広場は、屋台も多いしお土産屋さんもたくさんあるし。屋台でいろいろ食べ歩いてみるのが楽しいんじゃない。今はマーケットカーニバルの時期で、いろんなお店が出ているから」
そう教えてもらって、さっそく三人は広場に出てみた。
そこには、街の住人はもちろん、多くの観光客ですごいにぎわいだった。
「わーすごい人だね。なんかわくわくしちゃう」
おりかが目を輝かせて言うと、花音は少し速足になり、いい匂いのする屋台へと向かっていった。
「私おいしいもの大好き。あー朝食食べなければよかった。後悔。あ、これ食べてみようよ」
花音の食への関心に、莉央とおりかは顔を見合わせた。
「花音って淡々としたイメージが強かったけど、くいしん坊だったんだね。莉央知ってた?」
「ううん。知らなかったです。訓練では毎日疲れ果てて、食事を楽しむ余裕なんてなかったから」
花音はそんなとまどい気味の二人をちらりと見てちょっと舌を出しながら、屋台に向かっていってしまった。
花音のお目当ての屋台では、人間界でいうチュロスのようなものに砂糖がたっぷりかけられたものが売っていた。
その隣の屋台では、肉の塊にタレがたっぷりかけられて、皿に並べられている。そのまた隣では……。
三人はお腹がはちきれそうになるほど、屋台を食べ歩いた。
「ああーもう食べられない」
花音が満足そうに言いながら、広場のベンチに座った。
「食べ歩きがメインじゃないんですよ……」
莉央が少しにらみながら花音を見て言う。
「分かってるよ、分かってる。でもちょっとは楽しんでもいいでしょ。それに、莉央だっておいしいおいしいって言って食べてたじゃない。ね。おいしかったでしょう」
「それはそうですけど」
「それに、宮殿の観光について、情報も仕入れてきたの。観光客がたくさんいたから、おすすめはなんですかーとか、宮殿での見どころとか、穴場の場所とかありますかーとか、ちゃんと聞いてきたから、そんな顔しないで」
「花音、すごいじゃん! ただ食べていただけじゃなかったんだね。さすが!」
二人のやり取りをそばで見ていたおりかが、花音の手をとって握りしめる。
「で、宮殿の観光の情報共有をお願い」
「はい。宮殿に入るには、案内所で入場パスを買うそうなんです。パスは二種類。オープンパスとグレイシャスパスっていうのがあるって。ただ、案内所でパスが欲しいって言うと、オープンパスが渡されるんだって。でも……、オープンパスだと入れる場所がかなり限定的。お庭とか代表的な広間とか」
「え。それじゃ困る。グレイなんとかパスも同じ?」
おりかが困ったように花音に聞いた。
「ううん。グレイシャスパスは特別なパスで。その日の枚数が限定されていて、隠語を知っている人しか買えないそうなんです」
「隠語ってなんですか?」
莉央が聞く。
「隠語っていうのは、グレイシャスパスの別名みたいなもの。それを知らないと買えないパスなんですって」
「どうしたら隠語が分かるのよ……」
おりかが手をあごに当てて考えるポーズをとる。すると、花音がにやりと笑って
「大丈夫です。私、隠語教えてもらったから」
と言った。
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