38 鏡の間からつながる場所が
ロザリオの部屋では、今後についての作戦会議が行われた。
「鏡の間にいる全員の時間を凍らせることは不可能だと思うわ。だって鏡の間は、閉め切っていないから次から次へと人がやってくる。それはどうするの?」
ロザリオが莉央に質問を投げる。
「とりあえず、その時に広間にいる人だけの時間を凍らします。そして、その凍って止まっている時間の空間に、フィルターみたいなものをかけようと思っています」
「フィルター?」
「後から入ってきた人には、フィルターを通して映像のようなものを見せようと思うんです。人がいっぱいいて、鏡の間の奥には入ってこれないような映像を見せる」
「そんなことできるの?」
「はい。訓練でやったことがあります。魔法で幕のようなものを張って、時間が凍っていない人たちは幕の中には入ってこれない。入ろうとしてもそこには人がいるように見えていて、押し戻される感じになると思います」
「ではその間、確か魔法がもつのは十分だったかしら、その間に花音と莉央は壁の中に入ってギャロファーを格納してくる。それで、おりかは見張り役。花音が戻ってきたら、すぐに自分たちの部屋にもどって、花音が莉央の持ち物から莉央の存在を視て意識を莉央に送る。莉央はその意識に飛び込んで部屋に戻ってくる、ってことでいいのかしら。ちょっと混乱しそうだわ」
三人の力を掛け合わせ、初めて試す遠隔からの移動。
全員に不安の色が見えていた。
さらに、ギャロファーを格納する箱が壁の中のどこにあるのか定かではない点も不安要素だ。
「わたくしにできることは、なにかあるかしら」
以前、自分はなにも助けることはできないと言ったロザリオから出た言葉。
莉央、花音、おりかはその言葉を聞いて泣きそうになった。
こちらの世界にも、自分たちを思って助けてくれようとしてくれる人がいるのだ。
「では、ロザリオさまにお願いがあります」
おりかがロザリオの手を取り、その手をぎゅっと握って言う。
「もし莉央の移動が失敗してしまったら、なんとか莉央を壁の中から助け出してほしいのです」
ロザリオは少し考えて
「分かったわ」
と返事を返した。
群青の間は、この緊迫した話し合いの場とは思えないほど穏やかな空気が流れていた。
窓からレース越しに柔らかな太陽の光が注ぎ込み、庭からの観光客のざわめきが風にのって聞こえてくる。
「どうすれば鏡の間の壁の中から莉央を救い出せるのか。そもそも壁の中の空間はどこへつながっているのかしら。それが分かれば、鏡の間ではなく別の場所で莉央を救出することができるのに……」
ロザリオが自分の考えをまとめようとひとり言を言う。
すると、花音がはっとなにかを思いついたようで、ロザリオに聞いた。
「そういえば、前に私が板壁を触った時に見えた景色の中に、小さなお姫さまのような女の子がいました。お姫さまがいる場所、いた場所とかって宮殿内にあるんですか?」
「……皇女のお部屋。あるわ。今は使っていないけれど。でもそれは三階なの。鏡の間が直接そこへつながっているとは考えられない」
「じゃあ、一階からそのお姫さまの部屋に行くにはどこを通るんですか?」
「……王族専用の階段が一階に……」
「今もその階段って使っているんですか」
「使っているわ」
「じゃあ、鏡の間の通路はそこにつながっている可能性はありますよね」
花音が目を輝かせて言う。
「明日、その階段周辺に隠し通路のようなものがあるかみんなで見てみましょう。階段周辺にわたくしたちがいても怪しまれない理由……」
ロザリオは少し考えていたが、しばらくしてなにかがひらめいたような表情になった。
「理由は、おりかが宮殿の中の絵を描きたいから。そして、宮殿内に詳しいわたくしが案内することにしたと言うわ。そうすれば、階段周辺もじっくり見ることができるし、怪しまれない」
ロザリオのそのアイデアに三人は大きくうなずいた。
「そして花音。ギャロファーを置くのは、明日の階段周辺の様子を確かめてからにしましょう。急ぐ気持ちは分かるけど、用意は周到に。よろしいかしら?」
花音は自分にも言い聞かせるように、二度ゆっくりとうなずいた。
「ではそろそろ宿までお送りいたしますのでご準備を」
セイラが馬車が玄関に着いたことを告げる。
外はもう真夜中になっていた。
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ラウラレ界。
リフォアナがアルデウス王国でのおりかたちの状況を、グラダナスに報告するためにルームに来ていた。
「思ったより石を置くのに手間取っているのだな」
「はい。箱が置かれている場所が思ったより人目につく場所であったり、格納する際、ギャロファーからなにかしらエネルギーのようなものが発生してしまうようで、軍による警備も厳しくなっているとのことです」
「そうか。まだ時間に猶予はあるが、リフォアナ、お前のエネルギーの消耗が少し早くなっているであろう。大丈夫か」
「はい。こちらで過ごす分には平気なのですが、あちらに姿を飛ばしてやり取りをするとなると、以前より交信できる時間は減ってきています」
グラダナスは、申し訳ないなという表情を浮かべながら言った。
「よろしく頼むぞ。ところで、アルデウス王国でロザリオが面倒見てくれているとは、心強いな」
「はい」
リフォアナはうれしそうに微笑みながら、次の言葉を続ける。
「ただ気がかりなのは、ロザリオさま以外にも誰か協力してくれている者がいるかもしれないということなんです……。グラダナスさま、お心当たりはございますか?」
「うーむ。私はロザリオ以外の者とは接触したことがない。ただ……」
「ただ?」
「いや。おりかたちとは状況は違うが、少し前に人間界から一人アルデウス王国に転生したもの者がいると聞いたことがあるのだ」
「人間界から? 転生? なんのためにですか?」
「詳しい理由は知らぬが、アルデウス王国の国王からのじきじきの命でな。その者はラウラレ界とは通じなかったが、国王からそう連絡がきたことがあった。しかしそれきりだ」
「男性ですか? 女性ですか?」
「それも分からん」
結局、グラダナスからはアルデウス王国の協力者の情報は得ることはできなかった。
(その転生者が協力してくれようとしていることはあり得なくはないけど。協力してくれる理由がないわよね。ギャロファーのエネルギー枯渇のことだって、あの子たちとロザリオさま以外には漏れていないようだし。一体誰がなんのために……)
「まあ考えても仕方ないわ」
グラダナスが去ったルームでそうつぶやき、リフォアナは自分の家へと戻っていった




