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36 無限の間での話し合い

「ちょうどいい理由ができてよかったわ」

宮殿からグロスター家へ向かう馬車の中で、ロザリオがほっとした表情で言った。


「最初にセイラから伝言を受け取った時は、血の気が引いたわ。軍に連れていかれたって……。おりかが疑われてではなく、あの時周辺にいた者全員っていうのなら、まあ仕方ないけど」


「でも、サイラスさまはひどく慌てていましたよ。ちょっと気の毒なぐらい」

おりかが、ふふふ……と笑いながら言った。


「そうね。でもわたくし、おりかが戻ってきた顔を見た時に、思いついてしまったんだもの。三人と怪しまれずに正当に会う理由を。だからサイラスを責め落とすしかなかったのよ」


馬車はグロスター家の門にすべるように入っていった。



ダイニングのテーブルには、宮殿から差し入れられ豪華な料理が並べられた。

サイラスがお詫びと持たせてくれたのだ。


花音は料理を前に目を輝かせている。


「まずは食事をとって、そのあと無限の間でリフォアナを交えて今日の出来事についての報告と、私が知り得た軍からの情報をお伝えするわ」


「私が今日連れていかれた件については、そんなに重要ではないのでここでごはんを食べながら話しちゃいますね」

そう言いながら、大きめのハムをパンにのせ、それを一気にほおばるおりか。


「花音と莉央が部屋を出ていったあとすぐに、衛兵が訪ねてきて、昨日の私の行動について確認したいから軍の聴取室に来てほしいって。最初は、私たちの任務についてなにかバレてしまったのかって焦ったけど、本当に昨日あそこにいて誰か見なかったかとか、異常を感じなかったかなとか、そういう事情聴取だけだった。私のほかにも何人かよばれていたし。それだけでした。以上で報告終わります」


おりかの話を聞いて、四人は安心した表情を見せる。


そしてそのあと、急いで食事を終わらせると、話し合いの場を無限の間へと移した。



無限の間には、前回と同じように数本のろうそくの光がゆれていた。


「無限の間の結界が消せるのは陽の沈む時間までなのです。ただ部屋の一部だけ一時間ほどなら私の力で結界を消すことができるわ。でも、リフォアナさまが見えるのは、この一角だけになってしまう」


ロザリオはそう言って、部屋の真ん中の一メートル四方の場所を指さした。


三人は黙ってうなずく。


そして莉央がライフの画面を触ると、まばゆい光とともにリフォアナの姿がそこに現れた。


「ごきげんよう。ロザリオさま、みんな」


リフォアナの言葉にロザリオが軽くひざを折って挨拶を返す。


「本日はこの狭い範囲の中でしか、リフォアナさまの姿を映し出すことができません。時間は一時間ほどです」


まずは、今日あった出来事について説明を始めるロザリオ。

時おり、おりかや花音が状況の補足の説明を入れる。

莉央は黙って話を聞いていた。


明かりがそうそくの炎だけの部屋は薄暗かった。

しかし、リフォアナの姿が木洩れ日に包まれているように柔らかに光り、四人を優しく照らす。


そして話が終わると、リフォアナがロザリオを見て言った。


「問題は、ギャロファーを箱にしまった時にエネルギーを発してしまうということね」


「ええ。軍のほうに探りを入れてみたのですが、軍も詳しいことは分からないみたい。とにかく昨日、莉央が石を置いた時刻に、異常なエネルギーが感知されたということは確かです。莉央も石を置いた時に光ったって言っていたものね」


「はい。でも、すごい光ではなくて、一瞬ぱあーっと光っただけでした」


「それで今後についてなのですが」

ロザリオの声がワントーン落ちる。


「二つ目のギャロファーを置くことはなんとかできると思うのです。多少警備は厳しくなっているでしょうが、ギャロファーの存在は把握されていないし、まさかこの三人が関わっているなんて考えられていないでしょう。だたもし二つ目のギャロファーを置いた時に、またエネルギーが発生してしまうと……」


「今度は軍が原因究明に乗り出し、宮殿内の警備はさらに厳しくなる、ってことですね」

そう言いながらリフォアナの表情が曇る。


「警備が厳しくなるだけならまだいいのですが、宮殿への人の出入りが制限されてしまう恐れがあります」


「プレシャスパスが使えなくなる、と」


「はい。その可能性も高いですわ」


リフォアナとロザリオの話を聞いている莉央とおりかの表情が険しくなる。


でも花音は……。


「私は明日、私の青いギャロファーをあの場所に置いてきます。今はそれをすることが先決かと」

そう明るい声で言った。


おりかが

「でも……」

と言葉を濁す。


「三つ目の石のことは、明日の結果を見てから考えましょうよ」


少しの間沈黙の時が流れる。


すると

「そうね」

と言いながら、ロザリオが考えても仕方ないわ、というような表情で手のひらを上に向け、肩の位置にあげた。


「リフォアナ、明日は鏡の間という部屋の壁の中にある場所に、私の青いギャロファーを置きます。方法は、莉央の魔法で時間を凍らせてもらい、その間におりかさんに隠し壁を描いてもらう。そして、私が隠し壁の後ろにある壁の中に入って石を置いてくる、という計画です」


「三人の能力を掛け合わせる。訓練が役に立つのね。いいわ。がんばって」


「でも……」

莉央が心細げに花音を見た。


「石を置いたあとは、どうやって花音さんは壁から出てくるんですか?」


おりかがはっとした顔になる。

そこを考えていなかったことに、今さら気づく


「夕方宮殿が閉まるギリギリの時間に、私がまた壁を描くわ。そうすれば花音は出てこれる」


「……もしまた異常なエネルギーが感知されれば、鏡の間は閉鎖されてしまうかも」

ロザリオの言葉にその場の空気がかたまった。


「壁の中でひと晩過ごそうかな……」

そう花音が言うとおりかが聞いた。


「それ本気?」


「本気。食べ物や飲み物とか持っていけば、ひと晩ぐらい過ごせるよ私」


「夜中にこっそり壁から出て、どこかに隠れているとかはどうですか?」

莉央の提案にロザリオが首を横にふってこたえる。


「夜中も定期的に衛兵が見回ってるわ」


誰もが黙り込んでしまった。

妙案は浮かばず、沈黙の時間が流れる。


すると、リフォアナが身にまとう光が一瞬ぱあっと大きくなった。


「そうだ。あの方法なら」


リフォアナのこの言葉に、花音がはっとした表情を見せる。


「でも、どうやってあれをやるんですか?」

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