34 緊急事態
「私すごい秘密聞いちゃった」
オルビスに送られ部屋に戻り、ドアの外に誰もいないことを確認すると、花音が興奮気味に言ってきた。
「なに? 秘密って? 気になる」
窓際にいたおりかが、振り返る。
「鏡の間の板の壁。あの秘密」
「え? 誰から聞いたんですか」
莉央が座っていたイスから立ち上がる。
「なんと、サイラスさまから」
花音は鏡の間でサイラスが話していた、「王族の隠し廊下」の件を二人に話した。
「ってことは、板の壁は壊したり取り外さなくても開けられるってこと? 本当に?」
おりかが疑わしそうに聞いてくる。
「それを今から確認しにいこうと思ってる。サイラスさまの話が本当かどうか、言っていたフックがあるかどうかをとりあえず見てくる。もし本当だったとして、任務遂行の時、いきなりフックを触って見学の人がいるところで、板が外れてしまってもまずいから。まずはフックがあるかないかを確認しないと」
「私も行きます。なにかあった時のために」
莉央は今回自分の役割は、花音を守ることだと決めているらしかった。
それは先の自分の任務を一人でやりきれたことで、自身の魔法の力に少し自信が持てたからであろう。
そんな莉央を見て、おりかはなにも言わずに笑顔で、莉央の背中をポンと押した。
そして、花音と莉央が部屋を出ようとしたその時、ドアがノックされた。
「セイラです。急ぎご伝言がございます」
という声とともに、セイラがすっと入ってきた。
「どうしたんですか? 急ぎって?」
そうおりかが訪ねるとセイラが早口に
「緊急事態が発生しました。王宮の軍部からの情報です。アルデウス王国にあるギャロファーのエネルギーに多少ですが減少がみられているようです。このことをロザリオさまが、みなさまに至急お伝えするようにと」
突然の報告に三人はかたまった。
ひと呼吸おいておりかが口を開いた。
「えっと、もしかして、ギャロファーを格納してエネルギーの補充が始まると、アルデウス王国にあるギャロファーのエネルギーが減る、かもしれないってことかな」
「まだそうとは言い切れないとロザリオさまはおっしゃっていました。今、ロザリオさまのほうでも軍に探りを入れているところで、まだ詳細はつかんでいないのですが、エネルギーの減少が見られたのは、昨日だけで今日は減少は見られていない様子だそうです。ただ、どちらにしても……」
「莉央が置いたギャロファーが関係している確率は高い」
おりかの言葉にセイラがうなずく。
「ちょうど今から鏡の間に行こうとしてたんです。今日中にギャロファーの置き場所を確定して、明日にでも任務を遂行するつもりなのですが……。待ったほうがよいでしょうか」
花音がセイラに判断を仰ぐ。
「そうですね……。ロザリオさまと私もよく話はできていないので、すぐのお返事はしかねますが、明日は避けたほうがよいかもしれませんね。本日は夕方までロザリオさまは勉強会が入っております。夜に宿にうかがうか、わたくしどもの邸宅に来ていただくか。このあとロザリオさまと相談してまた連絡させていただきます。それまでは大きな動きはなさらずにお願いします」
セイラはそう言うとドアの外の様子をうかがい、さっと部屋から出ていった。
残された三人はお互い不安そうに顔を見合わせる。
「どういうことだろう。こっちの世界のギャロファーのエネルギーが減ったって」
そう言いながら花音がおりかのほうを振り返る。
おりかは深刻なまなざしで宙を見ながら、親指をかんでいる。
そしてひと呼吸おいてから言った。
「リフォアナに相談してみたほうがいいね」
「今ここでリフォアナさんにライフで連絡をとるのはどうでしょうか」
おりかの言葉を聞いて、莉央が慌てた口調で提案する。
「だめよ。今日は宮殿内の警備も厳しいみたいだし、この部屋にはカギがかからないから誰かが急に入ってくるかもしれない。少しでも危険があることはしないほうがいいと思う」
「……じゃあどうすれば」
「とにかく」
花音が部屋の重い空気を散らすように、わざと靴音を大きくならし大股でドアへと向かう。
「とにかく、鏡の間に行ってみる。これからどう動くかは分からないにしても、ギャロファーを置く場所を確定して、すぐに動けるようにしておくことには変わりないでしょ。莉央行こうー」
「そうだね。私はここでセイラからの連絡を待ってみる。なにかあったら呼びにきて」
三人が部屋で話をしているその時、窓枠に一枚の白い紙のような花びらなようなものが落ちていることには誰も気づいていなかった。
そして花音たちが部屋から出ていくと、それはふわりと風に舞いどこかへと飛ばされていった。




