32 でもこの壁には秘密がある
「いや。大金持ちの家の令嬢かもしれないと思って。じゃなきゃ、プレシャスパスでこんなに何度も宮殿に来ないと思って。身なりは普通だけど、実はどこかの国の富豪の令嬢だったりして」
「そ、それはあるかもしれないわね。私ももう少し友好を深めておこうかしら。今後のためにも」
ロザリオがうまく話を合わそうと口にした言葉に、サイラスが思いのほか食いついてきた。
「そうだよ。それはいい考えだ。ロザリオさすがだ。よし。さっそく昼食の席を設けよう」
「え? 今日? 今から?」
「そうだよ。こういうことは即行動だ。隣国との友好とオルビスのために! ロザリオすまないがセイラに頼んで、ほかの二人に昼食の件を伝えてもらってくれ」
サイラスは、あっけにとられとまどっているロザリオを廊下に残し、オルビスを追って鏡の間へといってしまった。
ロザリオは苦笑いを浮かべていたが、サイラスの行動力に感嘆していた。
サイラスは深いことは考えてはいないけれど、自分でよしと思ったことは即行動するし、その行動力と積極性で他国からの評判は上々。
その外交能力の高さは認めざるを得ない。
それに、案外人を見る目はあって、どんなに美辞麗句を並べられてもなにか思惑がある人には、絶対に心を許さない。
(花音やおりか、莉央たちのことは大丈夫な子たちと判断したのね。よし、これで花音たちと会う理由ができたわ)
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鏡の間は、今日は見学者は少なめだった。
花音はあの板壁部分の場所をじっくり偵察するつもりだったので、オルビスの同行は予想外だった。
でも、確認しないわけにはいかない
オルビスからそっと離れて、壁のほうに近づく。
するとオルビスもやってくる。
「鏡の壁に興味があるのですか?」
「ええ、まあ。ここまで鏡が張り巡らされた壁って初めて見るもので。豪華だし、技術的にもすごいですよね」
「でしょう。鏡の壁はほかの国でも見たことはあるけど、ここまで贅沢に鏡を使っている壁は見たことないな」
「でも、この壁には秘密がある」
オルビスの言葉にあとに、誰かの声が続く。
振り返るとそこにはサイラスが笑いながら立っていた。
驚く花音とオルビスを見ながら言葉が続く。
「ここ、この下の一枚だけ鏡じゃないんだ」
「そういえば……」
「そういえばって、お前気づいてなかったのか」
「いや、ここだけ違うなって思ったこともあったのですが、誰かがけとばして鏡が割れたのかと」
花音の心臓は高鳴った。
「なにか秘密があるんですか?」
「秘密ってほどでもないんだが」
そう言って、サイラスはオルビスと花音に顔を近づけ、まわりを見て人がいないことを確認して小声で言った。
「王族の隠し廊下がある」
「…………」
この言葉に二人が言葉を失っていると、サイラスがクスクスと笑った。
「といわれている。おれは使ったことがないが、大昔には実際に使ったとされている。王族の歴史の講義でそう習った。いざとなったらそこを使うって。使い方は忘れたけど。あっはは」
「言い伝えですね。もう脅かさないでくださいよ。それにそんな重要なこと、敵に知られたら大変じゃないですか」
オルビスがまわりを見渡しながら言う。
「この場に敵はいないし」
「……壁の開け方っては魔法とか、呪文かなにかあるんですか?」
極力さりげなさを装って花音が質問する。
「いやーさすがに王族といえども魔法は使えないよ。確か、板の隣か上だったかな、隙間に小さなフックがあってとかなんとか書いてあったかな。呪文じゃないことは確かだ。あっはは」
花音は
「この人、もう少し用心深くしたほうがいいって、ロザリオさまに言っておこう。私はラッキーだったけど」
と心で苦笑いをした。




