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31 痕跡を消しに

三人は、見張りの衛兵が立つ、まだ規制のロープが張られている地下室への階段をおりていく。


「異常なエネルギーが感知されたのは、この食糧庫のあたりだ。でも一瞬だったので、軍では装置の故障なのではないかという結論になった。ただ、一応念のため地下への出入りはチェックをしている」


ロザリオはサイラスから離れ、一人食料庫の奥まで足を運んだ。

そして、莉央から聞いたギャロファーの箱が格納されている扉があるあたりの床を、靴でこするように歩いた。


(莉央の足跡を消さないと。これからもしなにかあった時に、莉央たちが疑われないように)


「なにもないわ。つまらない。あっ」


あえて大きな声でそう言うと、わざと転んでドレスで床を掃くようにし、さらに床の足跡が分からないようにした。


「だ、だ、大丈夫かっ」


サイラスが慌ててロザリオに抱きおこす。


「ありがとう。大丈夫。でも、本当になにもないのね。ちょっと期待していたから残念」


ロザリオはサイラス腕から体を起こし、立ち上がるとドレスの裾のほこりを払った。


「まあ、な。でも、異常なエネルギーの感知とは相反するのだが、この国を守っているという石のエネルギーが減っているという情報もあって。なにかひっかかるんだよな」


サイラスがひとり言のようにつぶやく。


その言葉にロザリオの鼓動が早くなる。


「減ってる? なにがですの?」


「あ。いや。なんでもない。そんな心配することではない」


ロザリオはそれ以上追及することは得策ではないと考え、サイラスの言葉に「そう」と軽く相づちをうちその場から離れ、三人で執務室へと戻ろうとしていた。

その時、廊下を歩いていた一人の女性がオルビスを見つけて近づいてきた。


「あ! 花音さま!」

オルビスはぱっと笑顔になりうれしそうに、手を振る。


花音は、サイラスとロザリオに深く礼をし、廊下の端に避けその場に立ち止まった。


それを見たサイラスが、花音とオルビスを交互に見ながら言葉をかける。


「おお。最近よくお目にかかりますね。オルビスのご友人」


「ごきげんよう。サイラスさま、ロザリオさま。花音です」


ロザリオは、貴族としてのフォーマルな笑みをうかべ軽く会釈をする。

ここでは、婚約者ロザリオでいなくてはならないのだ。

でも、本当は話したくて話したくてうずうずしていた。


(花音、この国のギャロファーのエネルギーが減っているみたいよ)


「今日は花音さまに王宮周辺のスイーツのお店や、おいしいお店のご紹介をする約束をしていたんです。花音さま、とっておきの情報を仕入れておきましたよ」


「ふふ。楽しみです。私のほうは、私の国で人気のスイーツのレシピをお持ちしました」


「あぁぁ。宮殿パティシエたちがどれほどよろこぶことか」


「では、私は少し鏡の間を見学してから待ち合わせの場所に行きますね」


「それなら私が鏡の間をご案内いたしましょう。もう仕事は終わったので。よろしいでしょうか。サイラスさま」


「ああ。手間をかけたな」


花音はロザリオをちらりと見て、オルビスが一緒で困ったという表情を見せながら会釈をして、二人で鏡の間に向かっていった。


二人の背中を見送りながら、サイラスがあごに手を当てて言う。


「オルビスのやつ、まさか観光者を好きになったのではないだろうな」


「まさか。花音……、花音さまのこと? あり得ないわ」


「なぜそう言い切る」

サイラスが顔をぐっと近づけ、ロザリオの瞳を覗き込む。


「だって、花音さまはご自身の国に帰るお方。ただの観光者だわ」

ロザリオはまったく興味がないという表情で見つめ返す。


「いや。ただの観光者ではないと思う」


「……どういうことですか」


ロザリオの鼓動が早まる。

まさかサイラスは、あの三人のことでなにかつかんでいるのでは……。

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