30 地下室が見たい
次の日、おりかは宿の部屋で壁づくりに励んでいた。
そんなに広くない部屋の中には、おりかが描く天井近くの高さまでの壁で、かなりの狭さになっている。
部屋は座る場所さえままならないので、莉央はベッドの上にひざを抱えるようにして座り、壁づくりをじっと見ている。
「莉央、いいよ見てなくて。花音と一緒に宮殿か街の散策に行ってくればいいのに」
「いえ。見ていたいんです。『ぶるーとす』がどういう仕組みになっているのか、知りたいんです」
『ぶるーとす』とおりかの動きからじっと目を離さない莉央に、おりかは苦笑いをする。
「仕組みって……。特にないよそんなの。私が手にしてイメージすると描ける魔法みたいな道具」
「でも、魔法ではないんです。魔法の光が見えないから。だから『ぶるーとす』に意思があるとしか思えないです」
「意思ねえ。確かにそれはあるかもしれない。ラウラレ界で訓練していた時、私の精神状態によっては動かないこともあったから。私の力と『ぶるーとす』のなにかが共鳴して描けているのかな。あー、でもよく分かんない」
二人の会話を聞きながら、花音は出かける準備をしていた。
宮殿に行くのだ。
「私は宮殿にいって、情報収集をしてくるわ。ロザリオさまにも会えるかもしれないし」
「情報収集ってなんの情報ですか?」
莉央は、宮殿に行く本当の目的を探るような目で花音を見た。
「今日の夜ごはん、どこかおいしいお店ないかなとか、スイーツの穴場とか……」
「食べ物の情報なんですね」
「そうそう。夜ごはん楽しみにしててね」
そう言うと花音はドアを閉めて出かけていった。
「花音さんって、不思議な人ですよね。先を見て計画的に行動しているようで、そうじゃなかったり。オルビスさんにも考えがあって近づいているのかとも思っていたんですが、ただのスイーツ好きの知り合いなのかなあって」
「ふふ。花音は頭がいいと思うな。いろいろなところに情報網を広げて、そこからその時必要な情報を取ってくるって思ってる。情報を仕入れる人もちゃんと選んでいるし。誰でもいいから知り合いになっているわけじゃないと思うけど」
おりかの言葉を聞いて、莉央は肩をすくめくちびるを尖らせた。
「壁づくり、思ったより大変ですよね。出来上がったらライフに収納しますね」
そう言ってベッドからおり、「念のため」と部屋の結界にエネルギーを注いだ。
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「地下室が見たいってどういうことだ」
「言葉の通り地下室が見たいのです」
「なんのために?」
「この前、衛兵たちが地下に駆け込んでいったと聞いたのです。だから地下になにかあるのかなと思って。異常なエネルギーを感知したとも聞いたわ」
「……その情報、どこから……」
「噂ですわ。市中で」
「……。なにもないぞ。地下室には。俺もこの目で確認したが、備蓄している食料や雑貨しかなかった」
「サイラスは実際の地下室を見たの?」
「もちろん。この国の軍の責任者でもあるからな」
「では、わたくしも見たいです。軍の責任者の婚約者として」
サイラスの瞳を覗き込むロザリオ。
「あのな……」
ロザリオはそう言いかけたサイラスの手を取り、さらに目を見つめてにっこりと微笑んだ。
「うっ。この瞳には勝てない……」
サイラスは、オルビスを呼ぶ。
「今から地下室へ視察に行く。特に衛兵はつけなくていいから、お前が一緒に来てくれ」
「かしこまりました」
そう言って頭を下げたオルビスは、笑いをこらえるので必死だった。
「お前、笑っているだろう」
「あ。いえ。ふっふっ。あ、申し訳ございません。ロザリオさまには弱いなと思って」
「…………」
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