29 おりか+莉央
二十分ぐらいたっただろうか。
四人の目の前には、宮殿にあるような豪華な彫刻が施された巨大な棚が置かれていた。
「すごい……。宮殿にあった棚だ……。本物みたい」
花音があっけにとられて言った。
「ただし、これを小さくするにはどうすればいいか……」
おりかが自身につぶやく。
「もしかしたら、ライフの中に入るかも」
その言葉を発したのは莉央だった。
「どういうこと?」
「ライフの機能の中に、収納っていうボックスがあるんです。そこに今回の旅っていうか、滞在中に必要な洋服とか雑貨とか生活で必要なものを入れているんです。仕組みはよく分からないのですが、リフォアナさんはなんでも入るって言ってました。だから……」
「そうだよね。洋服ライフに入れてるんだよね」
花音がそう言うと、莉央がコクコクとうなずく。
「こんなでっかいものも?」
おりかが、描いた巨大な棚を指さして、無理なんじゃ……とう表情で莉央に返す。
「やってみましょうよ」
莉央がおりかのそばに近づき、ライフの画面をひらく。
「収納のボックスは増やせるので、おりかさんのボックスをつくりますね」
莉央はスマホを操作するように、ライフの中におりかの収納ボックスをつくる。
「洋服とか小物は私が魔法の糸をかけてライフの中にぎゅっと入れると、収納できるんですが。この大きい棚も糸でしばればいけるのかな」
すると、莉央の指先から流れ出る光の糸が巨大な棚にからんでいく。
「二重、いや三重にしてひっぱってみますね」
しかし、巨大な棚は少し宙には浮くが、ライフの中には引っ張りこめない。
「やっぱり無理なのかしら」
ロザリオが棚をそっとなでながら、莉央の顔を見る。
莉央は困ったという表情で光の糸を集め手のひらにのせた。
「これ以上の魔法の糸を出す方法はまだ学んでいないのです。すみません……。魔法の糸で大きな網みたいなものを編めればいいのですが、複雑な網を編む魔法は分からないです。すみません……」
「ん? 待って。莉央、今大きな網って言ったよね」
おりかがなにかひらめいた表情になる。
「そうだ。それなら描けるわ。『ぶるーとす』、この棚を包めるぐらいの網を描くわよ」
そう言うとおりかは青く光る『ぶるーとす』で、するすると空間に大きな網を描きだした。
そしてものの数分で大きな網は棚を包んだ。
「これでなにをしようと?」
ロザリオが不思議そうに聞いてくる。
「ちょっと見ててください。莉央、この網の何カ所に魔法の糸をからめてみて」
莉央は言われるまま魔法の糸を数本からめて太い糸のようにしていくつかの場所にかけていった。
「じゃ、ゆっくり糸を引いてみて。はい!」
莉央が力をこめてゆっくりと魔法の糸を引っ張ると、なんと網をかけられた棚が軽々と宙に浮いた。
「そのまま、ライフの中に入れて! せーの」
「はい!」
おりかの掛け声に合わせて、莉央が棚をライフの上に持ってくると、棚はすっと消えた。
「やった! 成功!」
おりかの声に、ロザリオと花音が拍手をする。
莉央はきょとんとした顔でライフの画面を見ている。
「ボックスに収納されてます」
「おりかすごいわ! あなたのアイデアすごい! よく思いついたわ。すごいわ」
ロザリオが興奮気味におりかを褒める。
「莉央の大きな網っていうのを聞いてひらめいたんです。莉央のアイデアです。ありがとう莉央」
「そう言われても……。でもさっきは持ち上げられなかった魔法の糸と変わらない糸を使ったのに、なぜ網にからめたら持ち上がったんでしょうか?」
「糸だけだとその力だけでしか持ち上げられないでしょ。でも網があったら、数カ所糸をからめれば力が分散して持ち上げられるかもって思って。それで、何カ所だけ強力にしておけば、網は破れずに機能を発揮できるのではないかと考えました。私えらい?」
おりかがにっこりと笑ってみんなを見る。
「なるほど。おりかすごい。えらい」
日頃あまり人を褒めない花音も感心したように両手でおりかの手を握りしめる。
おりかは照れたように笑ってロザリオを見る。
「鏡の間の壁は一日あれば描けると思います。人の目につく真ん中から下のほうはきちんと描くけど、上のほうはざっと描いて。任務の日に、二分で組み立てます。四分割ぐらいかな。ある程度の大きさで描いてあれば、あっちで拡大することができるので。二分かからずにいけると思います」
「分かったわ。任務を遂行する日は、宮殿行事のスケジュールを確認してから連絡します。ではわたくしは、そろそろ帰らせていただくわ」
そう言うとロザリオは、ロングコートをはおり、来た時と同じように頭からフードを深くかぶった。
顔も隠し、少し背を丸めるようにすると、なぜかその姿はロザリオにはまったく見えない。
莉央が興味深そうにコートを着たロザリオを見つめていると
「このコートには、少し魔法が織り込まれていて、着る人の『気』を消してくれるの。それと、顔もぼんやり見えるようになっているの。母の形見の一つよ」
と教えてくれた。
夜も深まりかけた街の石畳の道をロザリオを乗せた馬車が走る。
「わたくし、あの三人の計画を手伝うなんて思いもしなかったわ。なぜこんなに親身になっているのかしら。もう……。手伝う理由が分からないわ」
馬車の中で、ロザリオがセイラに八つ当たり気味に言葉を投げる。
「出会われてしまったのですから仕方ないのでは。これは運命だと思うしかありませんね。それに、あの方たちの使命を知って、知らないふりをすることは、ロザリオさまにはできないかと思います」
冷静な表情でロザリオを見て答えるセイラ。
的を射ている言葉にロザリオはなにも言えず、邸宅に着くまでの間、馬車の中には馬の蹄の音が静かに優しく響いていた。




