24 閉じ込められた莉央
今日は大丈夫。小部屋のカギもすぐに開けられた。
あとは、この箱の中にギャロファーをしまうだけ。
莉央は、文様が刻まれた木箱をゆっくりと開け、その中にギャロファーを置いた。
すると、一瞬ギャロファーはまばゆい光を放ち、そのあとうっすらと赤い光に包まれた。
(三日後に取りにくるわね)
そうして莉央が小部屋を出て倉庫内を駆け抜け、おりかが待つ階段の上へあがろうとしたその時、廊下で話声がした。
莉央は慌てて階段の下に身を潜める。
「今、この周辺で高濃度のエネルギーが感知されたと緊急アラートが流れたので、お庭かお部屋のほうに避難してください」
どうやら衛兵がおりかに話しかけているらしい。
さっきギャロファーが光ったあの時?
あの時エネルギーが?
今、ここから上にあがっていくのはまずいかもしれない。
「一緒に来てるいとこと、ここで待ち合わせをしているんです。来たらすぐに移動するのでもう少し待たせてください」
「いやだめです。このあたりはいったん封鎖されます。安全が確認できるまでお庭かお部屋で」
封鎖となると、この倉庫にも衛兵が見回りにくるかもしれない。
(どうしよう。一度倉庫に戻ったほうがいいのか。そこでリフォアナに相談する? でも話している時に衛兵が来たら……)
「とにかく、戻ってください。ここが封鎖になっていれば、いとこの方もお部屋にお戻りになるかと思います」
おりかはなにも言い返せなかった。
そして、衛兵に追われるようにこの場を離れた。
衛兵数人の声が聞こえる。
階段をおりてくるようだ。
莉央は、地下の廊下を足音をたてないように走った。
倉庫の中にいては見つかってしまうかもしれない。
倉庫の前を通り過ぎて走る。
すると、突き当りだと思っていた廊下の奥に、なにか棚のようなものがあった。
するとどこからか声が聞こえた。
(ライフからリフォアナが助けてくれているんだわ)
「莉央、棚を魔法で動かして。その裏に抜け道があるわ」
「魔法って。どんな」
急がないと衛兵たちが近づいてきている。
(魔法。魔法。棚を動かせばいいのよね)
意識を集中させると、莉央の手から光の帯のようなものが出てきて、棚を包む。
そして、それをひっぱるようにして動かすと、棚はすっと動いたかと思ったら、その後ろに洞窟のような細い道が続いていた。
そこに飛び込み、棚を元の位置に戻す。
衛兵たちが棚の前を通り過ぎる気配がし、声が聞こえなくなるのを確認して、ライフに話しかけた。
「リフォアナ、道がありました。今そこに隠れています。リフォアナ?」
息を切らしながら話す莉央に、リフォアナからの返答はない。
もしかして……と、魔法で棚を動かそうとしたが、魔法も使えない。
(これって、ここはロザリオさまの家と同じ、結界がはってあるの?)
魔法が使えないとここから出られない。
(どうしよう。どうしよう)
棚裏の通路は真っ暗で、なにも見えない。
でも、棚が動かないとなると、ここでおりかたちが来るのを待つか、もしくはこの通路を進んでいくかしかない。
(おりかさんたちが、この棚を見つけてくれる確証はない。じゃあ、この道を進むしかない。どこかにはつながっているはずだよね。つながっている予感がする。大丈夫。もし、もし誰かに見つかったとしても、ここから出られれば魔法が使えるし。リフォアナも出てきてくれる。大丈夫)
莉央は自分に言い聞かせて、闇の中を進んでいった。
その頃、おりかは庭に出て、花音を探していた。
花音はなんとお茶会に出席しているのだった。
朝、宮殿に着いた時、なにかソワソワしていると思ったら、オルビスを探していたらしく、彼を見つけると手を振って近づいていった。
「オルビスさん、今日はとても華やかな雰囲気ですね。なにかイベントがあるのですか?」
「花音さん! ちょうどいいところでお会いしました。本日急遽なのですが、ロザリオさま主催のお茶会が開かれるのです。シークレットということなのですが、今日宮殿にいらしているプレシャスパスをお持ちの方は、そのお茶会に参加できるのですよ。ぜひいらしてください。のちほど私がご案内しますので」
オルビスの隣でにっこり微笑む花音。
「花音、初めからそのつもりだったね」
花音の腕をつかみながらおりかが言う。
花音はその腕を払ってくるりと振り返る。
「だって今日は莉央の任務はすぐに終わりそうだったし、私がお茶会に出席したほうが、なにかあった時、ロザリオさまに連絡つきやすいかと思って。本当にそう思って」
確かに、ギャロファーの置き場所は確認済で、今日はギャロファーを置くだけだから、昨日ほど厳戒態勢で臨まなくても大丈夫そうだ。
花音の言う通り、誰かロザリオさまの近くにいたほうがいいのかもしれない。
でも……。
おりかはなにか腑に落ちない感じがしていた。
「大丈夫ですよ。花音さんお茶会に出席してください。おりかさんがいてくれれば、問題ないかと」
莉央も花音に同意する。
そういうことで、花音は今、お茶会に出席しているのだ。
おりかは受付でパスを見せて、お茶会が開かれている庭園に入り花音を探した。
そこではいたるところで美しいドレスで着飾った令嬢たちが談笑していた。
まるで映画のセットの中にいるようだった。
おりかのような一般人は場違いも甚だしい。
なるべく目立たぬようにこそこそとしていると、頭上でオルビスの声がした。
「おりかさま! おりかさまもいらしてくれたんですね。花音さまはあちらにいらっしゃいます」
オルビスが指さすほうを見ると、花音がパティシエと真剣に話をしている。
「花音っ」
おりかが急いで駆け寄ると、花音は「どうしたの?」とのんきに質問してくる。
「ちょっとちょっとこっちへ」と言って、庭の隅に花音をひっぱっていく。
「莉央は?」
「さっき、階段の上で待っていたら衛兵が来て、なんか異常なエネルギーを感知したので、地下と周辺の廊下を封鎖するって言ってきて」
「え? 莉央は封鎖された場所にいるってこと?」
「そう。今は衛兵が数人いるから地下に行くことができない。さっきライフで連絡したんだけど、圏外みたいで。どうしよう」
「うーん。待つしかないでしょう」
「……そうだよね。そうだよね。とりあえず私は部屋で待つ。花音はこの庭園で待機してて。莉央は花音がお茶会に出席しているって知ってるからこっちに来るかもしれないしね」
「分かった。それにいざとなったら、莉央は魔法が使えるから大丈夫かと」
「うん……。で、ところで花音、あなたパティシエとなに話してたの?」
「デザートの提案よ。宮殿のお菓子はおいしいけど、もう少しバリエーションがあったほうがいいって言ったの。そしたら、オルビスさんもパティシエも乗り気で」
「あー。はい。分かりました。私部屋に戻るわ」
あきれ顔で部屋に戻ろうとするおりかと、パティシエと真剣に話す花音を、大勢の人に囲まれたロザリオが遠くから見ていた。




