2 アルデウス王国へ踏み入れる
洞窟から宮殿のある市街地までは、一時間ほどかかった。
「そろそろ街が見えてきたね。馬車から降りる?」
小窓から外を見ていたおりかがあくびをしながら言った。
莉央と花音は顔を見合わせてうなずくと、馬車から降りる準備を始めた。
街の入口まではまだ少しあるが、林並木の少し奥に入ればこっそりと馬車を消すことができそうだ。木々の中に少し入り馬車を止めると、三人はあたりを注意深く見渡し、人がいないことを確かめる。
そして誰もいないことを確認すると、莉央がライフを馬車向ける。
すると一瞬光ったかと思うと、馬車は消えていた。
「ライフの中ってどうなってるんだろうね」
おりかが不思議そうに莉央の手の中のライフをのぞき込んでいる。
「ラウラレ界につながっているんでしょうか」
莉央もおりかにつられるように、ライフを見る。
「よく分かんないけど、どこかにはつながっているんでしょうね。リフォアナ、仕組みは単純だけど魔法の編み方は複雑だって言ってたから」
そんな何気ない会話をしながら、三人は街までの道を歩いていった。
ほどなくして街の入口に到着。そこには宿や街の観光管内所のようなものがあった。
「ここで宿を探すようにって、リフォアナが言ってたよね。まずは観光者登録しなくちゃいけないんだよね」
おりかが小声で、花音に確認をする。
「そう。おりかさんが一番年上だから、泊まれる宿があるか聞いてみてください。私や莉央ちゃんだと、若すぎて怪しまれるかもしれないので」
花音が小声で返す。
「分かった」
三人はおりかを先頭に、案内所の建物に入っていった。
「すみません……」
「はい! ようこそアルデウスへ。初めてのご旅行ですか?」
赤くウエーブした髪をうしろでふんわりと束ねて結んだ、明るい笑顔の受付の女性が迎えてくれた。
「あ、はい……。いとこたちと三人で旅行にきたんです。あとから両親たちも合流するんですが、私たちは先に来て、ちょっとゆっくりしようかなと思っているんです。観光者登録と宿を……」
「まあ、親族でご旅行なのね。ぜひゆっくりと楽しんでください。アルデウスは花々や自然が美しい国で、隣国から旅行でいらっしゃる方がとても多いんですよ。宿はどのあたりをご希望ですか。森の近くにもすてきな宿がありますし、公園のそばの宿もおすすめですよ。あとは……」
「宮殿のそばで。宮殿に一番近い宿をお願いします」
早口でしゃべる女性の説明を遮るように、花音が言った。
「宮殿のそば? あのあたりは高級なレストランや洋服のお店は多いけど、ゆっくりするっていう雰囲気ではないかなあ。あなたたちぐらいの年齢の子が好きそうな雑貨屋さんもないし」
「私たち今回は高級な感じを楽しみたくて。アルデウス王国の宮殿はすごくすてきで、少しでも近くに泊まろうと決めていたんです。お、王族の方々のファンなんです。アルデウス王国が憧れです」
莉央がカウンター越しに熱く話し出す。
「まあ、そうなの。憧れだなんてうれしいわ。宮殿内には宿泊場所はないんだけど……。そうね、ここならお部屋から宮殿が見えるかしら。ここどうかしら。部屋の空きもあるわね。ただちょっと古いのね」
受付の女性が見せてくれた宿の絵が描いてあるメモには、『石壁に囲まれ蔦のからまる重厚感ある宿・古い・高級』と書いてあった。地図で確認すると、確かに宮殿からかなり近い場所にある。
「古くても全然いいです。石壁すてきです。ね。ここでいいよね」
花音が二人に目配せをしながら聞いてきた。二人はうんうんとうなずく。
「じゃ、ここでお願いします。とりあえず、三人が泊まれる部屋で。親が到着したらまた考えます」
「そう。よかったわ。気に入ってくれて。宿の名前は『スクリュート』よ。ここからだと少し歩くから、乗り合いの馬車を使うといいわ。馬車はこの案内所の前に泊まるから。あと十五分後ぐらいに来るわ。宿の名前を言えば、そこに連れていってくれるので大丈夫よ」
その後、三人は教えてもらった通りに馬車に乗り、宿へと向かった。
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