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12 連れ去られる三人

アルデウス王国に来て三日目の朝。

莉央、花音、おりかの三人は、宿の近くのカフェで少し遅めの朝食を食べていた。


夕べは宮殿から帰ってきてから、あまりの緊張と歩き疲れで、莉央の魔力も枯渇気味で、リフォアナへの報告もやっという感じで、三人とも早々に眠りについた。


「昨日は、なんか疲れたね。宮殿広いし、なんかスパイをやってるみたいで精神的も疲れた」


おりかがクロワッサンのようなパンを食べながら二人に話しかける。


「宮殿があんなに広いとは思わなかった。一応見れる部屋は確認できたけど、肝心の石を置く場所なんて、どこにもなかった気がする」


「花音、ちゃんと見てくれていたもんね。案内係の人にも鏡の間の壁のこと質問してたし」


「あの一部だけ板になっていた壁、やっぱり気になる。あと廊下とか小部屋とか見逃がしてしまっている場所があるかもしれない。昨日は案内係がいたからできなかったけど、今日は気になる場所に触ってみようと思ってる」


そんなおりかと花音の会話を聞いていた莉央が、ぽつりと「私たち疑われてるかも」と言った。


「え、誰に? 特に案内係の人以外とは話しなんてしなかったでしょう」

おりかが驚いて聞いた。


「帰り際、二階にあがろうとしたら、途中で階段をおりるように言われましたよね。あの時、ちょっと視線を感じたんです。誰かは分からなかったけど、視線というか“気”みたいなものも感じたんです」


「なんか怖いこと言ってるよね。莉央」


「感じただけなんで、別にそのあとつけられたり、どうこうっていうのはないけど……」


「おりかさんも莉央も早く食べちゃって。今日も宮殿に行って昨日見れなかった所も探らなくちゃ。一度部屋に戻って、マップを見ながら計画を練ろう。今日は石を置く場所をだいたいでもいいから目ぼしをつけないと」


花音の言葉に促され、二人は慌てて食事を食べ終えた。


そして、三人が宿へ戻ろうと石畳の小道を歩いていると、後ろに人の気配を感じて振り返ろうとすると、あっという間に馬車の中へ引きこまれた。

「あなたたち、どうしてここへ……」


馬車の中に、女性の驚愕した声が低く響いた。



馬車の中には、金色の髪をなびかせた艶やかに美しい女性と、侍女のような女性がいた。

莉央、花音、おりかの三人は、なにが起こったのか理解できずに、馬車の床に座っていた。


金髪の女性が三人に話しかける。


「あなたたち渡り人ね。なぜここへいるの? 目的はなに?」


莉央が手をあげて移動の魔法を発動しようとしたその時、


「魔法は使えないわ。この馬車には魔法封じの結界がはってあるから。あなた人間じゃないの?」


莉央ははっとした表情であげていた手をゆっくりとさげた。


「私たちをどうしようと?」

おりかが女性を見つめて聞く。


「とりあえずわたくしの邸宅に来ていただくわ。わたくしは侯爵家のロザリオ・グロスターと申します。王族の影の役割を担い、国で起る不可思議な出来事などを監視しております。詳しくは邸宅に着いてからお話しましょう」


三人は無言で顔を見合わせた。

こんな状況になるなんて予想もしていなかった。


莉央は顔面蒼白だった。

まさか魔法が使えない状況になるなんて。

伯爵家の令嬢は三人をどうしようというのか。


するとおりかが小声でささやく。


「大丈夫。この人悪い人じゃないと思う」

ふふ。花音から笑いがもれた。


「さすがおりかさんだわ。私もそう思う。大丈夫よ莉央」


しばらくして馬車が止まった。

外から扉が開かれ執事のような男性が、うやうやしく手を差し出し、馬車からおりる三人をエスコートする。


「極秘のお客さまです。ロザリオさまのお部屋にご案内を」

侍女らしき女性が男性に声をかける。


そして三人に向かって

「この邸宅の敷地全体には結界がはっておりますので」

と言いながら念押しするような視線を投げた。

魔法は使えないことを暗に言っているのだろう。


邸宅の中に入ると二階の一番奥の部屋に案内される。

先ほどの女性がドアの横に立ち、立っている三人を監視している。


しばらくするとロザリオが部屋に入ってきた。

部屋の中には花のような香水のような香りが広がり、ロザリオの迫力ある美しさが三人を圧倒する。


「セイラ、お茶をお願い」


「かしこまりました」


セイラと呼ばれた女性が出ていくと、部屋の中に静寂が広がる。

ロザリオが三人をソファに座るよう促す。


「先ほどは少し手荒な扱いをしてしまい申し訳なかったわ。でも急ぎああするしかなかったのです。あなたたち渡り人が、あのように普通に街中を歩くことがどれだけ危険かお分かりになっていないの?」


「危険、なのですか?」

莉央が聞く。


「危険よ。取り締まりの闇の兵士にみつかれば殺されてもおかしくはないのよ。渡り人は危険だと思っている人も多いわ」


「殺される……。そんなの聞いてなかった」


はぁと小さくため息をつくロザリオ。


「それであなたたちは、なんの目的でこちらへやってきたのですか? どうやってこちらへ? 誰の指示で?」

まくしたてるようにロザリオが質問する。


「まさか……。グラダナスさま?」


「グラダナスさまを知っているのですか?」

花音が声をあげる。


「知っているわ。このアルデウス王国でラウラレ界のグラダナスさまに会えるのはわたくし一人ですから」


「ラウラレ界に行ったことがあるのですかっ」

おりかが立ち上がって聞く。


「あるわ。定期的に行っているわ」


「……ギャロファーと関係がありますか?」

莉央がおそるおそる言った言葉に、ロザリオの動きが止まる。


「あなたたちギャロファーを知っているの? なに、なんなの? こちらへやってきた目的はギャロファーが関係しているというの?」


ロザリオが呆然と立ちすくんでいるところに、セイラがお茶を運んでくる。


「みなさま、まずは温かいお茶でもお飲みになって、少し気持ちを落ち着かせてはいかがでしょうか」


ロザリオははっとした表情を少し和らげながらうなずき、セイラにお茶の準備を進めさせた。


「取り乱してしまってごめんなさい。あまりに予想外の出来事なので、どう理解してよいのか分からなくなってしまったわ。そうね。まずは、わたくしのことから話をさせていただくわ」


三人は神妙な表情でうなずく。。


「最初にお伝えした通り、わたくしはグロスター侯爵家のロザリオと申します。代々グロスター家に生まれた女性は『影の役割』を持ち、隠密で王族や国を守る仕事をしています」


「なぜ『影』といわれるのですか……。『影の役割』とはどういうものなのでしょうか……」

莉央がおそるおそるといった感じでロザリオにたずねる。


「うーん。そうね。これは本来口外できないことなのですが、今回は状況が状況なのでお話しするわ。このことは、絶対に秘密で」


何度もうなずく三人。


ロザリオは三人の向かい側のソファに深く座ると、深いブルーの瞳に力をこめ、口元に微笑みをたたえながら話し出した。

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