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11 グレイシャスパスの観光者

クラリスの部屋から出て、ロザリオとサイラスが執務室へ戻る廊下を歩いていたその時、観光客らしき三人の女性が一階から階段をのぼってくるのが見えた。


「グレイシャスパスの観光者か」


サイラスがそうつぶやくと、警備の衛兵が三人になにかを告げ、上にあがってくるのを止めた。

ロザリオとサイラスはそのまま廊下を進み、奥にある王族専用の階段へと向かう。 


その時、ロザリオの視界が揺れた。


ぐらんと目がまわり、前にいたサイラスの腕をつかもうとして間に合わず、ひざから崩れ落ちてしまった。


「ロザリオっっ」


気づいたサイラスが慌ててロザリオを抱きかかえる。


「大丈夫。それより大声を出さないで。騒がずこのままで。観光者に悟られないようにして。大ごとにしたくないの。それと階段にいる観光者たちの宿泊場所を調べてほしいの。くれぐれも悟られぬように」


早口に言うロザリオに軽くうなずくと、サイラスはロザリオのもとへ駆け寄ろうとしていた衛兵たちを目で制し、そのうちの一人をよび耳打ちする。


観光客の三人はなにも気づかないようで、一階へとおりていった。


立ち上がろうとしたロザリオをサイラスが腕で横に抱きかかえて歩き出す。


「や、やめてよ。歩けるわ。はずかしいからおろして」


「いや。部屋までこのまま連れていく。暴れるな。でなにが起こった?」


「ちょっとめまいがしただけよ。もう大丈夫。だけどめまいの原因って……。まさか……。でも……」

ロザリオはサイラスの腕に中でひとり言のようにつぶやきながら、執務室へと運ばれていった。


そして部屋に入ると「サイラス、人払いを」と言い、誰もいなくなるとソファに倒れこむように座った。


「ロザリオ大丈夫かっっ。めまいの原因が分かったのか」


「はっきりとは分からない。でも、もしかしたらっていうことはあるかも」


「それが先ほどの観光者とかかわりがあるというのか。普通の観光者にしか見えなかったが」


部屋のドアがノックされ、衛兵がサイラスにメモを渡す。


「分からない。でも、そのメモの観光者になにか原因があるかもしれない。サイラス、メモを」


「俺が調べ……」


「大丈夫です。あとでセイラに調べさせます。あなたの手を煩わせるほどのことではないもの。面倒だし。今日は、いろいろありがとう。サイラスあなたがいてくれてよかったわ」


その言葉にサイラスの顔がぱっと明るくなり、ソファに座るロザリオを抱きしめようとすると、笑顔とともに手で軽く押し返されてしまう。


「今日のことはくれぐれも口外なきよう。ではセイラをおよびください。帰ります」


「…………」


(サイラスはわたくしを心配しすぎだわ。調べるといったら大ごとになりそうだし、サイラスが動くとラウール王の耳にも入る恐れがあるし。絶対に余計なお世話をしてくるし)


しばらくすると、セイラがやってきた。


「お帰りの馬車の準備が整いました」


サイラスは馬車までロザリオを送り、別れ際に箱を手渡した。


「なにかしら?」


「ケーキだ。お茶会で王族からふるまった。食べなかっただろう」


ロザリオの顔にぱあっとピンク色の笑顔が広がる。


「サイラス。あなたって最高ね。食べたかったの。ありがとう」


馬車が走り去ったあと、サイラスは衛兵に見られぬよう胸の前で左手のこぶしに力を入れた。


「よしっ」



馬車の中で、ロザリオはセイラに宮殿で見かけた観光客の件を伝えた。


そして、サイラスから受け取ったメモを渡し、「この三人の身元の確認をお願い。観光案内所に登録があると思うから、至急調べて」と指示を出した。


(もしかしたら。でも……まさか……)


「ロザリオさま、もう体調は大丈夫なのですか。もし具合がよろしいようでしたら、このまま案内所に寄って身元を確認するのが一番早いかと思いますが」


「そうよね。さすがセイラだわ。判断が早い。お願いそうして」


馬車は貴族の住居街を抜け、観光案内所がある広場の裏路地に止まった。


「表通りは目立ちますので、こちらでお待ちください。私が一人でいってまいります」


そう言ってセイラは、案内所へ向かい、しばらくすると戻ってきた。


「隣国からの観光者のようです。身元には特に怪しいことはないようですね。詳細な情報は外部には教えられないと言われたのですが、グロスター家の名前を出し、泊まっている宿を教えてもらえました。『スクリュート』だそうです」


「『スクリュート』。老舗の高級な宿ね。でも若い女性が好みそうなホテルではないわ」


「はい。案内所の女性もほかの宿をすすめたそうなのですが、宮殿の近くに泊まりたいとのことで」


「宮殿のそば、ね。ありがとうセイラ。家に戻って今後について考えたいわ」


ロザリオを乗せた馬車は、夕暮れが迫る道を走りグロスター家へと向かった。


寝室の薄いサーモンピンクのソファに腰掛け、難しい顔をしているロザリオに、セイラが温かいお茶を運んできた。


「リオ・デラージュ、カノン、オリカ。ちょっと変わった名前。いとこ同士なのね。デラージュは、隣国では多い家名だわ」


「はい。ただこの三人がグレイシャスパスを購入したことが、私は少しひっかかって」


「なぜ? お金さえ払えば誰でも購入できるパスじゃない」


「二週間分のパスを購入されているのです」


「二週間? 観光に来ているのに、二遊間も宮殿に行くというの? 若い女性が? ちょっと変ね。よほど宮殿に興味があるのかしら」


「四日でも多いと思うのです。一般的には。それにグレイシャスパスには相当のお金もかかります。二週間も通って宮殿にそれほど見る場所があるのでしょうか」


「そうね……。確かに二、三日あれば宮殿中をじっくり見てまわれるわ。観光以外になにか目的があるってこと?」


「それは分かりかねますが……」


「今日、この三人を階段で見かけた時にめまいに襲われたの。それまでなんともなかったのに。彼女たちはすぐに下におりてしまったので、顔はちゃんと見れなかった。これは、一度彼女たちをきちんと確認する必要がありそうよね」


「『スクリュート』に行かれるのですか?」


「いいえ。あの周辺は王族と関係が深い貴族が多く暮らしているから、わたくし、グロスター家の者が動いたら、すぐに関係者に噂がいってしまうわ」


「では明日も宮殿に行かれて、三人の行動を調べますか?」


「そう、ね……。でも、私が宮殿に行くと絶対にサイラスが来るわ。それはそれで面倒だし。どうしようかしら。うーん。明日になってまた考えるわ。今日は疲れたからもう寝る」


「かしこまりました。私にできることがあればいつでもお声がけください」


「ありがとう。セイラ。それとこの件は、お父さまには内緒でお願い」


「心得ております」


ベッドに入ったロザリオの耳に、犬の遠吠えがかすかに聞こえてきた。

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