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10 皇太子妃クラリス

「今からお話させていただく件は、ラウール王はご存知のこともあります。ただ王との約束で誰にも言ってはならぬと」


「王との約束を破ってでも、わたくしに相談するほどなにかが起こったということかしら」


「……はい。自分だけではどう動いていいのか分からず。かといってラウール王にご相談することでもないような気がして。ギャロファーのことを知っていらっしゃるクラリスさまにご相談するのが一番よいかと思ったのです」


「は? 俺はっ。俺に相談しようと思わなかったのか」

サイラスが話に割って入ってくる。


「サイラス。黙って。約束が守れないなら、出ていって」


サイラスはロザリオの言葉に、不満気にうなずいてイスに深く座り直した。


「数カ月前から、街の墓地に不思議な花が咲き始まったのです。その花が花の下に眠っている人の言葉を伝えると言うのです」


クラリスは、驚きで口を手で覆った。ロザリオは話を続ける。


「死んだ方の姿は見えないのです。ただ花から声のようなものが聞こえてきて、その花に向かって話しかけると、答えてくれるそうなのです。はじめ気のせいだろうとみな半信半疑だったそうなのですが、あまりに花の声を聞く人が多くなり、今ではその花を求めて墓地に通い詰める市民もいるようです。そしてその花が咲くのは……、わたくしがあの石を持ち帰ってきた数日後なのです」


「ギャロファーを持ち帰ってきてから数日後……。なんて……。それは確かなの?」


クラリスは少し青ざめた表情でロザリオに聞いた。


「はい。調べてみたところ持ち帰ってきてから三日~五日後ぐらいの間に咲くようなのです。ただ、今の段階では石と花との間に確かな関係があるかどうかは分かりません。これはわたくしの憶測の域です。それにわたくしは、実際に花を見たことはございません」


サイラスは窓の外を見ている。

ロザリオはさらに話を続ける。


「そして先ほどのお茶会で親しくしている令嬢から、その花が昨日の夜からいつもより多く咲き始まったという情報を聞きました。また、令嬢の飼っている魔妖犬がいつになく吠えるとも。それに……」


「それに?」


「夕べからわたくしの体調にも少し異変が……」


その言葉を聞いたサイラスは、ガタっとイスから立ち上がった。それを見たロザリオがため息をつき言う。


「異変といっても、たいしたものでありません。夕べからなにか胸がざわざわとするのです。なんと表現してよいのか難しいのですが、空間で異物が動いている感じ、というか。なにかが変な感じなのです。今までこんなことはなかったのです。


そして、今日宮殿に入ってから急にめまいがして。もしこの胸さわぎや花が増えていることがギャロファーと関係しているなら……。でも今の状況を自分一人ではどう解決したよいのか分からず。さらにこれをラウール王にどうご報告すればよいのかも判断つかず。そこで今の状況をどう思われるかクラリスさまにご意見をいただこう思ったのです。これは、影の任務を行っているわたくしになにかしら関係することだと思われますか?」


クラリスはロザリオをじっと見つめて、答えを探しているようだった。


サイラスも立ち上がったままクラリスを見つめている。


部屋の中に緊張した空気が流れる。


そんな二人を見てロザリオは、こらえきれずくすっと笑う。


「お二人とも、そんな顔なさらないでください。わたくしの体調は大丈夫です。本当に。ただ、このざわざわした感じと頭痛、花が多く咲き始める、魔妖犬が怯えて鳴く、ということが昨日の夜から始まったので、なにかつながりがあるかもしれないかもしれないと思って、ちょっとご意見をうかがえればと思ったのです。どう思われます。クラリスさま」


部屋の中に窓からの風がすっと流れ、部屋の花びんに活けられた大きな白い花を揺らし、その風にクラリスの長い銀色の髪もさらさらと揺れた。


クラリスは考えをまとめようと目を閉じた。

長いまつげの影が儚げなクラリスの美しさを引き立てる。


「そうね。昨日の夜からというのがわたくしも気になるわ。サイラス、昨日なにか街中で事件が起こったか、衛兵たちから報告はありましたか?」


「いや。報告はあがってきていませんが、いまいちど確認してみましょう」


「サイラス、くれぐれもくれぐれも花やわたくしのことは口外しないで」


「分かっている。信用しろ。それと、街に潜ませている者からも街の様子について確認してみよう」


「……サイラスはおまけみたいなものだから、なにもしなくていいんだけど」


ロザリオの小声でのつぶやきは、サイラスには聞こえていないようだった。


クラリスは親指をかみながら、なにかを深く考えているようだった。

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