1 任務のために
あかあかと燃える炎のような光が消え、三人が目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。
「着いたみたい……、だね」
花音が莉央とおりかに声をかける。
「はい。でも暗くてなにも見えないですね……」
そう莉央がこたえると、おりかが動き出した。
「ここは私の出番だね。今なにか明かりを描くから」
おりかは『ぶるーとす』を取り出し、火の灯ったキャンドルを描いた。
「すごい! おりかさん。こういう時に能力発揮ですね!」
と莉央が興奮気味に言う。おりかは、照れながら『ぶるーとす』をなでた。
「……でも、なんでキャンドル。懐中電灯とかせめてランプとかじゃない? 今どきキャンドルって。ふふ……」
花音がつぶやいた。
「あはは。そうだよね。なんか冒険のイメージってキャンドルだったから、ついつい描いてしまいました」
おりかが照れながらそう返した。
そして、キャンドルの明かりでそれぞれの顔を確かめると、三人はいっせいに笑い出した。
「はは、笑っている場合じゃないけど、なんかちょっと安心したっていうか。みんなのびびり顔がおかしい。ふふ。で、ここって……」
とおりか言うと、
「洞窟みたいですね」と莉央。
人は闇に包まれる洞窟の中にいた。闇の先からかすかに光がさし込んでいる。
「あそこが出口ですね。行きましょう」
莉央が率先して歩き始める。
そのあとをおりか、花音の順に続く。
そして10メートルほど歩くと光が大きくなり出口が見えてきた。
そこは、木々の葉折り重なりカーテンで隠されるようになっていた。
三人は枝をそっとどけて外に出た。
洞窟は小高い丘のふもとにあり、そのまわりには木々が生い茂っており、意図的に隠されているようでもあった。
「秘密の洞窟って感じですね」
莉央がそう言うと
「そうね。ここなら見つからなそうだね。この場所、みんな覚えておかないとね。じゃあ莉央、馬車をライフから出して」
と花音があたりを見回しながら言った。
馬車は強い魔力を持つ莉央のライフに格納されているのである。
「分かりました。私のうしろに下がってください」
莉央が静かに目を閉じて意識を集中させる。
莉央のまわりにもやのようなものがたちこめ、一瞬莉央が見えなったかと思うと、三人の前に小さな馬車が現れた。御者は人形のダミーだ。この馬車は自動で動くようになっていた。
「シンデレラのカボチャの馬車みたい。すてき……」
馬車を見たおりかがうれしそうにつぶやいた。
「そんなことより、早く中へ」
花音がまわりを注意深く見ながら二人に早く乗るようにうながす。三人が馬車に乗りこむと莉央が言った。
「広い道に出るまでは、防御魔法で馬車が見えないようにしますから安心してください」
「すご。莉央いつのまにそんな魔法まで使えるようになったの」
おりかが驚いて言う。
「花音さんと一緒に訓練していた時、こういう魔法が使えると便利なんじゃないかってアドバイスもらって覚えてみたんです」
莉央はそう言いながら花音を見ると、花音は首をすくめた。
「いつのまにか二人仲よくなってるの、なんかずるい」
おりかが口をとがらせながら言うと、ふたりが同時におりかの腕にしがみつく。
一カ月の訓練で、少しずつ絆が深まった三人。
これから重大任務の遂行が始まるのだ。
**********
洞窟から広い道に出るまでの間、林の中の小道が続く。
しばらくして広い通りに出ると馬車の数も増え、人の行き来が多くなってきた。
馬車の小窓から外をのぞいていた莉央が言った。
「この国の服装、中世のヨーロッパみたいです。コスプレみたい」
莉央の言葉で、おりかも窓の外を見る。
「本当だ。映画のセットみたい。すごー」
すると花音がはっとしたように言う。
「今の私たちの服装ってまずいよね。着替えないと……」
「それリフォアナさんから指示もらっています。ライフにこちら用の服は入れているからそれに着替えろって」
莉央のその言葉で、三人はお互いの服装を見る。
「うっ。狭い馬車の中で、コスプレみたいなワンピースに着替えるのって無理がある……」
とおりかが言うと、莉央が右手を上にあげた。
「大丈夫です。私が魔法で…………」
少しの間が空く。
そして
「はい。これで完了です」
あっという間に三人とも、中世風のワンピースに身を包んでいた。
「莉央って、本当に人間? 魔法使いなんじゃないの?」
というおりかの問いに
「人間です。今回の訓練で少し魔法が使えるようになりました。でも、リフォアナさんみたいにいつでも使えるってわけでなくて。大きな魔法を使うとすぐにエネルギー切れになってしまうんです。なので、あまり頼らないでくださいね」
と莉央は真剣な顔で念押しするように返した。
異世界百物語シリーズ第二弾が始まりました。
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