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鬼人達の宴朱 第七章 善鬼の長

今回は善鬼の長としてね、始めは酒呑童子にしようと思ったんですが、前回で天津善鬼と言う上位の善鬼という形になりました。今の世では難しいですが、男女それぞれの優しさを足した感じですかね。

今回は妖怪の敵は特に無しです。鬼の試練で戦いがあるけど、楽しい部分もある感じにしています。

翼は朝食を食べながら夢の事を考えていた。鬼の男から黒いオーラから守られた時に九本の尻尾を見た。

前世の自分の城に火を付けて、現世も黒いオーラで包んで危険な妖怪と遭遇させる黒幕は九尾の狐だろう。

鬼達が翼達に力貸す理由が良く分かった。


いつも通り着替えて大学へ。バス停ではいつもと違い護だけ寂しそうに降りてきた。

(結花、交通事故で入院してるからかな?)

「…おはよう。護。…もしかして、結花がいないから寂しかった?」

「…うん。いつもと違うから。不思議だよね。結花の家の前まで一人で乗るのにさ。」

なんか悪いと思うけど(クゥン…)みたいな鳴き声を入れたくなる。

「…早く結花、良くなるといいね。」

護の背中を触りながら言った。

「…ぅん。」

あかん。ガチで悲しそうな鳴き声出しているように聞こえる。

強い鬼が。昨日は善鬼化して髪が伸びて、肩や肘から角が出た勇ましい鬼が悲しそうになっている。

…でも、善鬼は心が弱くて、すぐに傷つくという事を思い出す。特に護はおとなしい方だから。

大学へ行くと結花の事故はニュースになっていたらしい。

大学の同級生には素直に「意識は奇跡的に戻ったけど、医者が『昨日の夜が限界かも』と言われて、最悪だった。」と言った。


午後の授業を終わる時に結花から電話があった。

「ヤッホー!翼!元気!?」

「私はいいけど、護がさ、むちゃくちゃ寂しそうにしてた。暫くメンタルダウンね。」

「私はね!ちょっと早めに帰れるかも!朝、紫織さんが来てさ!体の悪そうな部分に掌当てたらほぼ良くなった!リハビリも普通に歩けて担当の先生ギョロ目だった!でもさ、ミラクルパワーで治しているのバレてるよ!あれ!『月詠先生が担当?』って聞かれたから、『違うけど、今日の看護担当は紫織さん』って言ったら『やっぱり!』って言われた。」

無茶苦茶しているな。あの夫婦は。まあ患者には嬉しいとは思うけど。

「後、紫織さんから伝言。翼は黒いオーラが強いから天津善鬼さんに逢うなら月の結界が必要だって。」

「…分かった。ありがとう。私は今から勇吹に連絡して行っている。」

「翼!頑張ってね!じゃあ結果は夜に連絡して!」

「うん。またね。」

電話を切ると護が少し嬉しそうにしていた。

「結花、体調良いって?」

「紫織さんがこっそり治しているみたいよ

。…ミラクルパワー。病院の人にバレバレみたいよ。勇吹のお父さん、ビックリするよ?」

二人は笑いながら話していた。勇吹に準備が出来たとメールを送るとすぐに来た。

「お待たせ。…って、何かあったのか?嬉しそうだけど。」

「うん。結花、普通に歩けるから早く退院出来るかもって連絡あった。だから、勇吹のお父さん、ビックリするねって話してた。」

「えっ!親父は結花の状態凄く悪かったって言っていたぞ!」

「たぶん、今日帰ったら表情凄いかもね。適当にごまかしておいて。」

「えーっ!…まあ結花が体調良いなら…いいか。」

勇吹の嬉しそうに苦笑いしていた。


勇吹が翼を背負い、三人は南東の方角に向かう。

「そろそろ月の結界を張ろうかな。」

やがて山道になる。護や勇吹は鬼化しているから高い崖を飛んで登れるが、いくつか崖の上の部分が広がっており、人間が近寄るのを拒むようだった。

「人間に襲われたらいけないからこんな地形になっているのかもね。」

「まあ、鬼の秘境なんだろうね。」

「人間だと行きもきついだろうし、帰りもきついだろうな。まあ鬼になれる俺には余裕だな。」


ある程度登ると黄鬼を見かけた。

「久しぶりだな。お嬢さん。」

「久しぶり。黄鬼さん。あっ、三途川近く、行きました。私と勇吹と護と月詠さんの四人で。」

「何っ!?」

以前、黄鬼は護に殴られて三途川を見た話を思い出す。

「えっと、遠くに川があって、奪衣婆と懸衣翁がいたんだったかな。流石に危ないと思って近づかなかったけど。」

「俺は追い回されたんだ!捕まったら終わりだ!ああっ!恐ろしい!」

黄鬼は震えていた。とても怖いのだろう。

「天津善鬼さんに逢いたいんだけど?大丈夫?飴、食べる?」

「…うむ。頂く。天津善鬼様は奥で待っている。」

「…じゃあ、またね?」

翼が手を振ると黄鬼も手を振った。

「…翼、ちょっと結花みたいになったな。」

「え?そう?勇吹も食べる?」

「いらないよー。」

「俺は欲しい。何味がある?」

「イチゴとミカンとブドウ。さっき黄鬼にはイチゴをあげた。」

「じゃあ、ブドウがいいな。」

護は翼からブドウの飴を貰っていた。勇吹はムスッとしていた。

「…ミカン!俺はミカン!」

「…はい。ミカン。」

翼は笑顔で勇吹にミカンの飴を渡した。

「…美味しい?」

「…美味しい。」

挿絵(By みてみん)


奥に行くと護に似た雰囲気の男がいた。夢で見た鬼の男に似ていた。

「良く来た。俺は天津善鬼。陽の光から生まれた鬼だ。」

優しそうな鬼だが、青鬼や桃鬼が悪さをして激怒した事がある。気を付けなければ。

「…友達が鬼が好きなので、写真、いいですか?」

「…えっ!翼、流石に悪いんじゃない!?」

勇吹は少し慌てていた。

「中村結花だね。昨日怪我をした人間。いいよ。彼女が喜ぶなら。」

挿絵(By みてみん)

天津善鬼は結花の事を知っていた。まあ月詠先生が予知能力を持っていて、様付けするのだから力は上だろう。

「これも渡そう。光の石。彼らの善鬼化を早める。」

天津善鬼は輝く石を翼に渡した。

「…私への試練は護と勇吹を善鬼化して戦う事ですか?」

「あぁ。そうだ。私を善鬼化させるまで追い込んだら、君を認めて善鬼の姿で写真を撮らせてあげるよ。今はまだ、完璧な善鬼の姿ではない。鬼の天津といった所か。…少し、話をしたいから、いいかな?」

「…話?」

天津善鬼は目を閉じた後に開いた。先程とは違って、力のこもった目つきだ。

「…九本の狐。君のイメージはどんなものか、教えてくれるかな?」

「…夢では黒いオーラを持つ妖怪のイメージでした。」

「…そうか。では、霊獣だと言うとどうかな?私が陽を浴びた霊が鬼になったのと同じ感じだ。」

「白いオーラ…。まさか…。」

翼は一つの答えが浮かぶ。


「…九尾の狐の話は二つあるんだ。霊獣として、人を守る存在。もう一つは悪事を行う妖怪。

私達鬼が善鬼として人を守り、愛するのに対して、悪鬼として人を襲い、喰う。…君も過去の椿も霊獣の九尾の狐の力を持っている。それを滅ぼす目的を持つのが黒いオーラを持つ九尾の狐だ。…君の中には白いオーラを持つ九尾の狐の力がある。」

「私は、九尾の狐。」

「…以前は完全に失敗だ。君は亡くなり、混沌の時代が始まった。…現世でも、餓鬼に変わってしまう人間で溢れている。私が何故人を助けるのか。その答えは、正しい道に導く人間に生きて欲しいからだ。私は、この暗き世界に必死に生きる人間を愛している。」

「…分かりました。護、勇吹。私も人間じゃないみたい。でも、今まで通りに、仲良くしてね。」

「…翼は俺達の大切な人だよ。どんな姿でも。」

「…翼の為なら、戦うぜ。大切な人だからな。」

護と勇吹は拳を握りしめて戦う姿勢になっはた。

「…戦うのはいろんな意味がある。己の利益の為に争う意味があれば、お互いの技量を競い、障害を乗り越える意味もある。お前達を黒い九尾の狐から救いたい。全力で来るんだ!」

護と勇吹の能力を翼が術で上げるが、天津は全てを受け流している。強いのがよく分かる。天津に貰った石が脈打つのを感じると翼は護と勇吹が善鬼化出来ると理解した。

「護!勇吹!善鬼化させるよ!」

「…ッ!オォオオオオッ!」

二人は髪を伸ばしながら筋肉を膨張させ、肩や肘から角を出した。そして、天津に飛び掛かるがそれでも互角である。

(こうなると、天津さんの能力を下げる必要がある。…ちょっと心配だけど、やるしかないかな)

翼は天津に向かって先程貰った石で能力を奪おうとした。天津はそれを感じて防ごうとした。

「…天津さん。光の力、頂きますね。」

天津は結界を張るが、月の力と氷の力で破った。天津の力を奪って護や勇吹に送った。天津は力を奪われてガクッと膝を付いて、そこを護と勇吹が拳を向けた。

「…ッ!オォオオオオッ!」

天津は彷徨を上げて護や勇吹を吹き飛ばした。髪を伸ばして、体を大きくして光輝く鬼になった。天津善鬼はニイッと笑いながら拳を構えた。そこに護と勇吹が飛び込むがまた受け流していた。護と勇吹は天津善鬼の後ろに瞬間移動したが、天津善鬼が拳を振ると吹き飛んだ。

挿絵(By みてみん)

(天津さんの善鬼の姿。強すぎる。護と勇吹が善鬼で力も奪っているのに勝てそうにない。)




「…良し。やめよう。あんまり彼女が落ち込んだらいけないからね。」

「護、勇吹。終わりね。…流石に鬼の長には勝てません。力を奪って二人と互角なんて…。」

「いや、君はセンスがある。力をここまで出せて戦えた事はなかったからね。…さてと、写真。頑張った記念に一緒に撮ろう。ほら、笑って。私の善鬼の写真を撮った人間はいないからね。…桃鬼。そこに隠れてないで出てこい。私達の写真を撮れ。」

茂みから桃鬼が出てきた。お前もいたんかい。

「…あー、はいはい。じゃあ、撮りますよ。」

「1+1は?」

天津善鬼が言う。

「に。」

写真を撮るが、思わず笑ってしまう。

挿絵(By みてみん)

「桃鬼。もっと撮れ。」

「あー、はいはい。撮りますよ。天津様。こういうの好きですからね。」

何度も桃鬼が写真を撮った。

「…こんなに撮って、いいんですか?」

「それは俺も思った。」

翼はスマートフォンを返して貰ってから、翼と桃鬼が言った。

「…護と勇吹の前世は名をつける時に一緒にいて、我が子みたいなものだからな。…飴を貰って良いか?私はミカン。桃鬼はイチゴが良い。」

「あっ。黄鬼に飴あげたの分かってたかな?どうぞ。」

飴をあげると桃鬼は良いが、天津善鬼も満面の笑顔で嬉しそうに飴を食べていた。飴の力、恐るべし。桃太郎さんかよっ。

流石に嬉しくて天津は善鬼から元の姿に戻っていた。

「まあ人間のように、一緒に写真を撮って、写りたかったからな。俺は人間と一緒に写真を撮る機会がない。かと言って、下界に降りるのも危険だからな。護、勇吹。昔は旭日、岩愧だったか。この方を守ってあげなさい。」

「…はい。」

天津は護と勇吹の頭を撫でた。

「…市村翼。黒い九尾の狐との戦いは厳しいだろう。だが、お前には生きて欲しい。戦って、生きろ。」

「…はい。」

天津は翼の頭を撫でた。温かい掌をしていた。日が優しく包む感じだった。


周囲も暗くなってきたので、翼、護、勇吹は山の下まで空間移動で送って貰った。

「…後は、黒いオーラの九尾の狐だったかな?どこにいるんだろ?…またいつか出ると思うけど。」

「昔と違って、翼は生きているからね。大丈夫だよ。」

「…さてと。そろそろ帰ろうか。結花も病院で暇だと思うから連絡しないとな。」

帰りは護が翼を背負って帰った。途中で勇吹は家に向かうので手を振って別れた。

「…さてと。じゃあまた明日ね。翼。」

「…またね。…結花、頑張っているから。もう少しの間、寂しいかもしれないけど、我慢しようね。」

「…うん。」

護の背中を擦りながら言った。そして、護は手を振りながら自分の家に向かって飛んだ。



夜、病院にいる結花にメールをした。暫くすると電話が来た。

「お帰り!翼!今日の天津善鬼さんは強かったんだってね!勇吹が言っていたよ!」

「そうなの。力を奪って、護と勇吹の能力上げて、善鬼化した護と勇吹の攻撃を受け流していたの。後ね、結花がおすすめしていた飴がね。黄鬼と天津さんに人気だったよ。黄鬼と桃鬼がイチゴで、天津さんがミカンの飴が好きだって。」

「あっ!じゃあ今度逢えるならグミかキャラメル持っていく!」

「後で天津さんの写真送るね。今度天津さんと写真撮ると良いよ。鬼で写真写りたいって。」

「本当!行く行く!護や勇吹に頼む!じゃあそろそろ消灯なので!明日リハビリ頑張ります!」

「護がいなくて寂しがってたから。頑張ってね。」

「そうなの!護には後で連絡する!ありがとう!またね!」

結花は病院にいるけど、元気だった。良かった。



布団に入って…。

夢の中だろう…。

いつもの大学に出かける服、鬼の護、鬼の勇吹。

「…勇吹?護?今日は勇吹が先に結花に電話した?護に結花から寂しくさせてごめんって連絡、来た?」

「…あぁ。帰って結花にあんまり親父を驚かすなよって電話した。」

「…俺は、結花から翼の話を聞いたって。だから、リハビリ頑張るって言っていた。」

ここは恐らく現実とは違う空間なのだろう。

暗い空間の奥に何かが蠢いていた。今なら光の石で闇を振り払える気がした。

「…護、勇吹。黒い九尾の狐、闇を払っていい?」

「…ああ!いいよ!翼から黒いオーラを払おう!」

「俺も準備出来てる!翼!やってくれ!」

闇をどんどん押しやると怯む人の姿が見えた。

「…っ!…なかなかやるな。ここまでたどり着くとは。やはり、鬼達が力を貸したせいか。」

大体予想はしていた。過去の椿と翼はあまり変わらない姿だった。赤い長髪に赤い目、頭に耳を持つ黒い着物の九尾の狐が現れた。

その顔は椿や翼と一緒だった。

挿絵(By みてみん)

「…あれが、黒い九尾の狐!」

「…っ!翼が二人いるみたいだ!」

護や勇吹は警戒しながら、驚いているのが分かる。

「…昔、混沌の世にする為に椿を襲い、今は私が狙い。そうでしょ。」

「…そうだ。人間達が私利私欲で争い、地上は餓鬼のような下等な人間で溢れる。…よく昔から言うだろう?まるで地獄絵図?世界は混沌で溢れる。」

九尾の狐は嬉しそうにいう。

「そんな世界にして何が嬉しいの!」

「あぁ?嬉しいさ。人の不幸は蜜の味。堕落して廃人になったり、人を不幸にするのを楽しむ人間。お前が知らない所で何人いる?…確かそんな人間がお前の近くにいたな。人間も下等な生き物になったな?あははっ!滑稽であろう!?人間もゴミのようになったなあ!」

九尾の狐は人間を見下し、嘲笑った。

「…ゴミじゃない。ろくでなしは確かにいる。でも、私には大切な友達や支えてくれる人がいる。あなたに…傷つけさせない…。」

「ふっ…。面白い。お前達に妾を倒せるか?…ゆっくり、絶望させてやろう。」

歪んだ黒い九尾の狐と翼と人間を愛する鬼の戦いが始まった。

天津善鬼は以前だといたずらした鬼に激怒する雰囲気があったんですが、今回はフレンドリーな感じになりました。飴も好きなんだと思います。後1+1は?ですか。ユルい位がいいんです。

後は最大の黒幕の登場でしょうか。昔某少年漫画の狐の悪女が出ていたんですが、令和の悪い九尾の狐はこんな感じかもしれないですね。

次回はエンディングDです。どんな結末が待っているんでしょうかね。

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