鬼人達の宴朱 第六章善鬼と人間
今回はちょっと餓鬼と言う妖怪について、書きながら分かった事があるのでお話したいなと思います。
餓鬼って何種類いると思いますか?一種類?ブー!不正解。
基本的には二種類いるらしいんですが、さらに複雑になると39タイプ以上あるらしい。
そのうち3タイプは食べ物が火に変わって食べられないタイプ。
他は罪でなるのが36タイプ位だとか。
見たら有名な人やニュースで見た人はあれね、みたいになります。
以上。
今回はあの世の手前の話です。
誤字、脱字があったらすみません。
翼が大学に出掛ける準備をしているとグループチャットにメールが来た。
護から結花が交通事故で救急車で運ばれており、たぶん鬼の力を結花に使って回復させようとしているが意識が戻らないという内容だろう。
勇吹からすぐに電話が来た。
「翼か!護からのメール見ただろ!結花の運ばれる病院に行くだろ!今何処だ!?」
「家にいる。家の外で待ってる。」
翼が外に出ると勇吹は鬼の姿でいた。
「翼!行くぞ!…何処にだ…!」
かなり慌てているみたいで勇吹は混乱していた。
「…護の気配。これかな?護の家のもっと先に気配を感じる。」
「南西か。俺の親父が働いている病院かな?とりあえず行こう!」
(え?勇吹のお父さん、お医者さん?)
翼は気になったが、黙って頷いて勇吹の背に乗った。
結花の家の近くに行くと壊れた車が目に入る。
「勇吹。ちょっと。…あいつ?警官にヘラヘラして話してる人。結花を車で轢いた人?」
「…なんかムカつく顔してるな。」
「…ちょっと寄っていこう。勇吹。姿は消したままね。」
二人が降りると警官が男と話をしていた。
「先程、女性が車に轢かれた事故があったのですが、心当たりはありますか?」
「分かりませんね?車ってカメラのメモリーカードもありませんから。」
近くにいた警官は機嫌が悪い表情をしていた。見ると半分に割れたメモリーカードを持っていた。
「あっ!あいつ!メモリーカード壊して証拠隠滅しただろ!」
「…氷の術って空間操るんだよね。直せるかも?」
翼が氷の石を出して念じるとメモリーカードが凍って、パリンと割れると元に戻った。
「…っ!」
メモリーカードを持っていた警官が移動して中身を見ていた。翼と勇吹も一緒に見ると緑の歩行者用の道を結花が歩いて、そこに車が寄せてわざとぶつかる映像が映し出された。
「…馬鹿なの?あいつ?」
「…っ!ふざけやがって!」
男と話す警官にもその話が伝わる。
「…あなたの車のメモリーカードが見つかったそうですよ。女性を轢いた映像が映っていますよ。」
「知らねえよ!そんなの!」
「おい!何で結花を轢いたか答えろ!」
勇吹が目を赤くして言う。護と同じ洗脳の術だろう。
「俺が何でも優先だろ!俺が来たらさっさと退けばいいんだよ!轢かれたこの女が悪い!」
内容が屑過ぎる。
「…勇吹。この男、人間の道を外れている。洗脳で罪を償って、二度と車に乗らないようにして。」
「…翼。ぶっ飛ばしていいか?コイツ?」
勇吹はぶち切れる寸前だった。
「…こういう人間は、暴力を振ってもやめないと思う。頭に常識が無いからさ。人をむやみに傷つけるなって教育しないとダメ。」
「…分かった。お前、結花に謝って、二度と人を傷つけるな!」
「…分かった。すみませんでした。」
男はそのまま警官に連れていかれた。
「…翼、結花が心配だから行こう。」
「うん。」
また勇吹が翼を背負って病院に行った。
「うん。南西の総合病院で間違いない。」
「…翼。さっきのあいつ。翼は殴りたいと思った?」
「…まあ、あったよ。でも、解決しないからね。今はもういいや。結花が心配。」
「…うん。」
「…勇吹の悔しい思いは、間違ってないよ。でも、人を傷つけるのはダメ。だから、勇吹が人を傷つけるのは止めるの。それと、そんな傷つける人を放置するのもダメ。でも、うまくいかないね?」
「…うん。」
勇吹は翼の言葉で泣いているのが分かった。
「…勇吹。泣いても大丈夫だからね。私は分かっているから。」
「…うん。」
総合病院に着いた。勇吹は翼を背負ったまま、病院の二階の手術室に向かう。手術室の待合室には護と結花の両親がいた。
「…っ!翼!」
「ごめん。ちょっといろいろあったから、解決してきた。こっちは?」
「…近所の人が慌てて来て、行ったら結花が倒れていたの。もう起きなかったら、私…」
結花の両親は泣いていた。
「…たまたまバスが結花の家の前に着いた時に見かけてね。回復の術を使ったけど、土の術だけだと止血が限界だった。…そっちは?」
「…結花を傷つけた人間見つけて、翼と解決させた。かなりの悪人だったぞ。」
護から怒りのオーラを感じた。
「勇吹も機嫌悪くなったけど、同じように誰かを傷つけたら、私は悲しいよって話をしていたの。護。」
護の背中を擦りながら翼は言った。
「…うん。」
護は落ち着いて静かに泣いた。
手術室の明かりが消えた。中から医師が出てきた。
「…っ!親父!」
「…!勇吹!どうした!」
「…今、中にいる女の子。俺の友達なんだ。」
「…先生。結花は、大丈夫ですよね!」
医師は顔を下げた。
「…皆さん、頑張りましたが、結花さんの脈が低い。最悪、今日が限界かもしれません。覚悟してください。」
「…嘘。」
翼はショックを受ける。
(…大丈夫。私なら鬼の術で治せるかも。)
手術室から結花が運び出された。翼は鬼の術を使おうとした。
「…やめなさい。無駄だ。」
結花と一緒に髪の長い男の医師が現れた。
「…紫織。中村さんのご家族を頼む。俺は今から一仕事する。」
「はい。月詠先生。中村さんのご家族の方は一緒に来てください。」
結花の両親が泣きながら結花の名前を呼び、たぶんICUに向かった。そして、辺りは静かになった。
「お嬢さんと、お兄さんと、火爪先生の
御子息は別室で話そうか。火爪先生、今日はお疲れ様でした。」
「いや、私は頑張れなかった。勇吹、すまなかったな。」
「親父は悪くない。結花を轢いた男が一番悪いのに、ヘラヘラ笑っていたんだ。許せなかった!」
暫くの沈黙があった。
「…親父は凄ぇよ。俺はすぐにカッとなる。だから医師には向いてない。…親父は結花の治療をしてくれた。ありがとう。」
勇吹は照れながら言った。
「…。すまない。勇吹。」
「…あんまり、無理するなよな?…ちょっと行ってくる。」
四人の後ろで勇吹の父が泣いているように感じた。
「…少し着替えて来る。」
別室に翼、護、勇吹を案内すると月詠は出ていった。
三人は椅子に座った。
「…月詠先生。たぶん、鬼でしょ。看護師さんに一仕事するって。看護師さんも鬼?」
「いや、あの人は普通の人だと思う。」
「…っていうか、俺の親父の職場に鬼がいるのかよ。」
三人が話していると月詠がシャツにズボンだけの質素な姿で戻って来た。
「…大体分かるな。黒鬼、月詠達弥だ。今は人間と暮らして、医師だ。まあ、いい。本題に入る。」
月詠が壁に掌を向けると暗闇の中に座り込む結花が映し出された。
「結花!」
翼が思わず声を出す。
「今、中村結花は三途川手前にいる。魂が大分弱っている。俺はあそこまでお前達を送れるが、人間をこの世に戻す力は無い。中村結花をこの世に戻す事が出来るのは深く関わっているもの、お前達だけだ。」
「…勇吹、護。一緒にあそこまで来てくれる?」
「あぁ!行くよ!」
「俺も!結花を助ける!」
「…この世の妖怪と向こうの妖怪は力が違うからな。覚悟は良いか?」
「…行きます!お願いします!」
翼が言うと月詠から紺色のオーラが出て、二本の角を持つ腰巻きのみの鬼の姿になった。
「…行くぞ!」
周囲が暗くなると離れた所に結花がいた。
「…行って良いの?月詠さん。」
「…あぁ、必ず手を繋げ。離したらあいつらに彼女が連れて行かれるからな。」
遠くの方の明るい場所を指差した。何やら老人の男女が見えるが、鬼のようだった。
「…女の鬼が奪衣婆。三途川に銭を持たずに来た亡者から衣を剥ぎ取る鬼だ。隣にいるのが懸衣翁。亡者の衣を木にぶら下げて罪を計る鬼だ。」
「…っ!結花を早く連れて帰らないとっ!結花!」
翼、護、勇吹の三人は結花の元に向かった。
「…翼?護、勇吹?…来てくれたの?」
「…結花。立てるか?」
「…無理。なんだか立てないの。」
「…結花は現世で怪我をしているんだ。」
結花を触ると冷たかった。
「…勇吹、結花を背負って。結花は私と手を繋いで。護は何かあったら援護して。」
周りでは餓鬼や死霊がこちらを見ていた。
「…良し。戻るぞ。しっかり結界を張ってついて来い。死霊がそのお嬢さんを連れて行こうと狙っているから気を付けろ。」
護が死霊を散らしながら黒鬼の後を追いかけた。その後を勇吹と翼は走った。よくテレビでは現実に戻るのはすぐだったりするが、長く感じた。前から徐々に死霊が多くなり、後ろからも多くの餓鬼がやって来る感じがした。
「…結花。現実でお父さんとお母さんが心配してたよ。…生きよう。」
「…うん。」
気がついた時には四人で病院の別室にいた。翼の手には結花の手は無く、勇吹の背に結花はいなかった。
「…結花は?」
不安になる中、扉をノックする音が聞こえた。
「…そこの鬼二人は元に戻ってくれ。外に看護師が来たんだろう。紫織以外は中村結花の事は何も知らないからな。」
護と勇吹が元に戻ると月詠はドアを開けた。
「…月詠先生。主任から連絡があって、中村結花さん、意識が戻りました。」
「…そうか。分かった。」
翼はそのまま力が抜けて座り込んで泣き出した。
「…良かった。月詠先生。ありがとうございます。」
「…あぁ。気にするな。君達三人が頑張ったからな。…この恩は今日の夕方にでも返してもらおうかな?三人共、予定は大丈夫かな?」
「…?はい。」
「…俺も大丈夫。」
「…じゃあ、18時位に病院の外でまた逢おう。…外に出ようか?」
四人は部屋から出た。
「…中村結花さんはICUに今居て…今から様子見て一般病棟に移るのが午後かな。まあご両親がいるだろうから、少し顔を見せる程度にした方がいいだろう。私は仕事に戻らせてもらう。また後でね。」
月詠先生はそのまま看護師さんを連れて何処かに行った。ひそひそと「月詠先生。また何か非現実な事しましたか?」と看護師の女性に聞かれていた。なんか月詠先生が普通じゃない事がばれていた。
「…恩を返すって何だろ?何かあったっけ?」
「…うーん。分からない。まあ大学には今日休むって言ったから三人でゆっくりしようか。」
「…そうだな。」
結花が一般病棟に行く前に、結花を車で轢いた男が謝罪に来た。結花の両親が激怒していたが、護と勇吹も一緒に目を赤くして激怒していた。
翼は朝からいろいろあって疲れていたので遠くから見守った。まあ、勇吹が洗脳してやっと謝りに来たのだ。話したくない。
一段落したら、翼、護、勇吹の三人で病院の外のお店で昼御飯を食べに行った。結花の両親が軽く食べれるものでも買いに行こうと思っていたのもあった。
買い物が終わった時に結花からメールが着て、一般病棟の部屋の番号が書かれていた。
病室には手術室の時に逢った看護主任の紫織が結花の母親と話していた。よく見たら紫織の名札に月詠と書かれていた。
「…月詠さん。さっきはありがとうごさいます。」
「いいのよ。夫からいろいろ聞いていたから。…中村さんは、一応五日間の入院です。まだ歩行時に転倒の恐れがあるので暫くは車イスでの移動で明日からリハビリになります。」
「…はい。あっ、おばさん。昼御飯持って来たから少し食べて。その間、私達が結花を見ているから。」
「…ありがとう。翼ちゃん。…結花、少しお母さん御飯食べてくるね。」
「うん!」
結花の母親は病室を出ていった。
「…翼。私を助けに来てくれたでしょ。護も勇吹もいた。ありがとう。」
「いいの。月詠先生が結花の所に連れて行ってくれたから。」
紫織がカーテンを閉めた。
「…さて、一人は火爪さんの御子息で。他の二人の名前を聞いてもいいかしら?」
「市村です。」
「五十嵐です。」
翼と護は名前を言った。
「…私以外で鬼と過ごす人間に逢うのは初めて。月詠達弥は私の夫なの。妻の紫織よ。私は人間だけどね。あなたとの接触は月の力で予知していたみたい。中村さんは逃れない事故に逢って、あなた達三人が助ける所までね。」
「えっ!そうなの!」
結花は驚いていた。
「…月詠さんは予知の力を持っているのね。」
翼の心の中は(予知とか護や勇吹が二人でも試練厳しいじゃん!)という思いでいっぱいだった。
「今日の夫の試練、楽しみだわ。私に良い所見せたいのよ。…中村さんも来るか聞いたら、見たいでしょ。達弥はカッコいい鬼よ。」
「行きます!絶対に!」
紫織は鬼の達弥が好きらしい。後、結花が鬼を見るのが好きなのも知っているようだ。まあ夫婦なら当然か。護と勇吹はちょっと不安になっていた。
「…表向きは達弥はカッコいい所を見せたいから試練をするって言うの。でも、本当の目的は五十嵐さんと火爪さんの善鬼化。達弥も鬼の姿から善鬼化出来るの。鬼の力が高まった特別な姿。」
「…善鬼化。」
「…そこまでしないといけないほど、翼から黒いオーラを出している妖怪は強いって事か。」
「…そう。達弥が試練をすれば五十嵐さんと火爪さんは善鬼化すると言っていた。…問題は、市村さんを狙う妖怪に勝てるかどうか、未来が見えないと言っていた。気をつけてね。」
「…分かりました。」
紫織がカーテンを開けた。
「…後30秒で奥の角から中村さんのお母さんが来る。少しの未来は月の石を持つ私にも出来るのよ。」
三人が病室の外を覗くと結花の母親が現れた。
「…すげぇ。」
「まあ邪な相手には石が力を使うのを嫌がるけどね。悪用はダメ。」
「…紫織さん、教えてくれてありがとうございます。」
「…夕方、楽しみにしてるから。頑張ってね。」
「翼!頑張ってね!」
病室に結花の母親が戻ると翼は軽く会話して病室を出た。
一旦三人は家に帰って、17時50分位にまた病院に戻った。病院の外には広場があって、車イスの結花を連れた紫織と達弥がいた。
「…おっ!来たかっ!へへへっ!待ってたぞ!鬼で戦う事はなかなかないからな!久しぶりで楽しみにしていたんだ!…改めて、黒鬼、月詠だ。月の力を持つ鬼。紫織を守る鬼だ。今から黒鬼の試練をする。まあお前達を善鬼化させる試練だが、紫織に良い所を見せたいからな。紫織が止めの笛を吹くまで俺と戦え。ちなみに紫織は市村さんと同じ術者だ。俺を援護する術を掛けるから弱体化は…まあやらないだろうが、無駄だ。…じゃあ、始めるぜ!」
達弥は紺色のオーラを出すと鬼の姿になった。
「…市村さん!五十嵐さんと火爪さんの強化!やっていいからね!私は一通りあるから!」
紫織は茶色の石と桃色の石を出した。
「紫織さん。それ、たぶん土の石と風の石?」
「うん。耐久と素早さは上げる。力は達弥一人でも大丈夫だと思うから無し。」
達弥は刀を軽々と振り、勇吹と護を攻撃を防いだ。二対一で互角だった。
「…そろそろ。善鬼化を加速させるのにいいかしら。市村さん!五十嵐さんと火爪さんに力を送って!」
達弥は刀を横に向けると目つきを鋭くさせた。
「…そろそろやるか。」
刀が紺色のオーラを出すと達弥を覆いだした。筋肉はより膨張し、肩や肘からも角のようなものが飛び出した。
「ウォオオオオッ!」
善鬼化した達弥は彷徨を上げた。
それを見た翼も勇吹や護を善鬼化させれるような感覚がした。
「翼!今なら俺達も善鬼化出来そうだ!」
「俺達を善鬼化させてくれ!翼!」
勇吹や護も刀を横に向けた。やがて二人から脈の音が聞こえる気がした。それは激しくなると炎と岩が二人の体を覆った。
勇吹と護も体の筋肉を膨張させて肩や肘から角のようなものを出した。髪も伸び、角も大きくなった。
「ウォオオオオッ!」
二人も気持ちが高まり、彷徨を上げた。
「来い!善鬼達!」
勇吹、護と達弥は激しくぶつかり合った。勇吹と護は何度も吹き飛び、着地して、立ち向かうのを繰り返した。そして、やがて勇吹と護が同時に達弥に拳を振った。達弥は防いだが、吹き飛んだ時に膝をついた。
「ピーッ!…おしまいよ。良く頑張りました。」
紫織が結花の車イスを押しながら三人に近づいた。
「ハーッ!ハーッ!…っ!紫織!どうだ!良かったかっ!?」
「ええ。満点よ。」
「結花!俺!頑張ったぞ!」
「うん!凄い!凄い!」
「翼!翼もこっちにおいで!」
翼は五人に近づいた。
「凄い髪。長くなってる。」
「善鬼化すると姿がかなり変わるの。負担が少しあるけどね。中村さん、写真撮りたかったんでしょ?善鬼化はレアだから撮りましょうか。私も達弥の善鬼化の写真欲しいから。」
勇吹がしゃがんで結花の横に入り、護と翼、達弥と紫織で並んで六人の写真を撮った。
写真を撮り終わると三人は人間の姿に戻った。
「さてと、月の石だ。受け取ってくれ。これで残りは天津善鬼様だな。普段は普段の鬼だが、善鬼になると金色に光る鬼だ。俺と紫織のように善鬼と人の結びを望んでいる方だ。」
「何年も生きている善鬼よ。南東の山の上にいるから力を貸してもらいなさい。」
「はい。…達弥さん。紫織さん。結花の事、お願いします。」
「病院にいる間は任せなさい。」
「紫織も予知能力があるからな。じゃあ、中村さんを病室に連れて行く。またな。」
「翼。私はついて行けないけど、頑張ってね。護、勇吹も、翼をお願いね。」
「おうっ!任せろっ!」
「またメールするよ。結花。」
月詠夫婦と結花に手を振って見送った。
「…さて、場所、教えて貰ったから明日の昼に天津善鬼さんに逢いに行きたいけど、いいかな?」
「翼がいいなら、俺はいいよ。護は?」
「俺も行ける。ちょっと、結花の件は偶然じゃない気がするんだ。」
「…やっぱり、そう思うよね。…じゃあ、帰ろうか?」
今日は何度も護や勇吹は鬼になって、病院から家まで往復している。疲れが出るのではと思ったが、『心配で体を動かしたくなっていたし、疲れより、結花が助かって安心した。』と言っていた。やはり、体の負担は少ないが、心の負担は大きい。
その日、夢を見た。
今まで顔が分からなかった鬼。太陽の光を浴びて生まれる男がいた。茶色の髪に黄色の角。なんとなく護に似ていた。
彼はきっと、天津善鬼。
沢山の人間の迫害に泣いた。大切な人間も命を奪われて泣いた。
心が傷つき、泣いた鬼。
人に追われて、山に住みながら、鬼と結ばれる人間を探した。
鬼を拒むように黒い塊が現れた。いくつもの黒い尻尾を持ち、そこから火の矢が放たれた。
城が燃えた。町が燃えた。村が燃えた。
やがて、周辺が燃えだす。次は自分が燃やされるのだろうか。火が迫った瞬間、輝く男が優しく抱きしめてきた。
「愛らしい人間よ。お前達を、守りたい。」
その輝きで黒い塊の妖怪の姿が微かに見えた。
翼は目を覚ました。そして、理解した。善鬼の王を悩ませる妖怪の正体が。
「九本の尻尾…狐。」
今回は一回中身が消えました。大体結花を轢いた男の話から月詠先生が出てくる辺りまで。
書き直しながら、「紫織さんと黒鬼のお医者さん」みたいな外伝が浮かびます。書く時間やイラスト化する時間が足りないのが悔しいですね。ぐぬぬ。
今回は翼の敵を出しちゃいました。大物。イラストは出来ている。
次回が鬼の試練が最後。残りはマルチエンディングでD、第八章からC、B、Aの順番に載せる予定です。CからAはあまり変わらないと思う。