鬼人達の宴朱 第四章 愛情と無情
今回のテーマは愛情と無情への考察。愛情の反対はいくつかあるんですが、無関心であると言うのを目にしたので無情で。
憎悪ともあるのですが、思いやりがない無情が一番かと思いました。
これはね、現在の人間の環境に当てはまりますね。
いろいろ考えながらとりあえず第四章をどうぞ。
また誤字脱字があったらすみません。
翼はいつも通り着替えて大学に向かう。駅まで歩いて、電車に乗り、大学の前で降りる。
「おはよう!翼!」
「翼。おはよう。」
いつも通り結花と護に逢う。
「おはよう。結花、護。」
「昨日の夢は鬼と人間の話だよね。鬼は淋しいと枯れちゃうんだよね!護!淋しかったら、言うんだよ!…勇吹もなんか我慢しそう。後でちょっとメールしなきゃ!」
「…結花。たぶん、結花も鬼の石を使えそうだからさ。もし、私に何かあったら、護と勇吹をお願い。」
「えっ!何!いきなり!」
結花がビックリしていたが、護も驚いていた。
「…だって、事故にあったりしたら分からないからさ。あっ、でもさ、もしかしたら結花に怪我とか治して貰えるかも。少し治癒力上がるみたい。」
「…翼。何となく、そうなるって予感があるんでしょ。…分かった。」
今日の結花はすぐに答えた。逆に護は機嫌が悪くなる。
「…俺がそんな事させない!翼を守る!」
「…護。でも、」
翼が護の顔を見ると半泣きになっていた。
「翼。おしまいにしよう。護が枯れちゃう。…私は分かったからさ。何かあったら、翼を助けるね。」
その日の午前中は護と同じ授業は一緒にいたが、ずっと引きずっているのか、元気がなかった。
昼御飯を食べた後、護に呼ばれた。護に近づくと周囲の人の気配が無くなった。
「…っ!どうしたの!護!」
護が周囲の空間から二人を離したんだと分かった。ただ、二人きりなのに護は泣いていた。
「…泣き顔を周りに見られたくないから、二人きりにしたんだ。さっき、結花が淋しかったら言って良いって。…俺さ、翼がいなくなったら、ダメかも。淋しいよ。やっと、毎日逢えるようになったのに…。」
「…うん。分かるよ。でも、今の時代はどうなるか分からないから。」
翼は護を抱き寄せて、背中を撫でた。周りを気にする必要はない。10分位は護と抱き合っていた。
「…翼、ありがとう。少し落ち着いた。…でも、また辛くなったら、また背中撫でてくれる?」
「…うん。いいよ。」
周りの雑音が戻る。翼は護を連れて教室に向かった。教室には結花がいて、護が落ち着いたのだとすぐに分かった。
「…翼。護に何かした?」
「…オキシトシンマッサージ。護にした。10分位、空間から離して貰って、やった。…ごめん。思い出したらちょっと恥ずかしくなった。」
「効果大じゃん。覚えとく。」
護はかなり集中力が上がっていた。逆に翼は顔が少し赤くなっていた。
大学での授業が終わり、翼は護と結花がバスに乗るのを見送った。暫くして勇吹が来た。
「…翼。ごめん。待たせた?」
「いや。…っていうか、鬼の力でここまで来たでしょ。最近気配の感知が分かるようになったからさ。」
「バレた?電車やバス代節約に使ってる。」
勇吹は苦笑いしながら言った。
「…今日さ。結花に私の身に何かあったらお願いねって言ったらさ。護がショック受けちゃってさ。鬼の力が強いのか、メンタル少し弱いみたい。勇吹は、大丈夫?」
「俺は…。また翼がいなくなったら辛いけど、今は生きてるから大丈夫だよ。」
勇吹は少し真剣な顔をしたが、明るく振る舞った。
「…勇吹、ちょっと空間から離して私達だけにして。」
「…え?いや、大丈夫だって?…ま、まあ一応、やってやるよ。」
勇吹の力で周りの人の気配が無くなったのが分かると翼が勇吹を抱き寄せた。二人の身長はあまり変わらない。抱き寄せるのには丁度良かった。
「…っ!翼っ!俺は大丈夫だって!」
「…うん。あんまり鬼になってないから勇吹は大丈夫って思うけど、フェアじゃないでしょ。護とは大学に行く時はいつも逢うけど、不安になってた。…いつ何があるか分からないからさ。今の私は結花も護も、勇吹も大切。」
「…お…おぅ。」
勇吹と10分位抱き合った。勇吹の顔が赤いのが分かる。
「…っ!悪くないけど、こういう事、日頃からしないから恥ずかしいな。」
「…うん。私も。…仕事、頑張ってね。」
「おうよっ!」
勇吹が手を振りながら飛び去って行くと周りの人の気配を感じてきた。
その夜は珍しく護から電話があった。まあ、今日は翼がいなくなった事を考えて不安になったのだ。
「…もしもし?翼?今大丈夫?」
「…うん。大丈夫。」
「…今日はありがとう。でも、またちょっと不安になったから、電話掛けた。」
「護がなんとなく鬼の力が強いかもとは思っていたから。…鬼の力が宿る前もこんな感じだった?」
「…いや、翼とはいつも一緒だから普通だと思っていた。今は、本当は特別なんだって感じている。だから、失いたくない。」
「…うん。護は鬼に変わった。強いけど、心は弱い部分がある。今日はよく分かったから、…ううん、本当は前に私が悩んでいた時に、護が私に『気がつかなくてごめん』って言った時から前と違う気がしていた。嫌われるのを恐れる感じ。」
「…うん。翼に嫌われると、俺から離れていく気がした。それが怖かった。」
「…空回りする事も、あるよね。それって、仕方ないと思う。私の為に周りの人を操って護は私を守ろうとしたけど、怖いってつい言っちゃった。考えが違うのが、普通なんだよね。人間は皆違うからさ。…今は、あれから時間が経ったから。…あの時は、守ってくれてありがとう、護。」
「うん。翼。これからも一緒にいてくれ。」
「…うん。じゃあ、また明日ね?」
「…また明日。翼。」
護からの電話が切れると翼は天井を見つめた。
(たぶん明日は鬼の試練の日。結花の言う通りなら普通の妖怪と悪い妖怪が出るはず。気を付けなくちゃ。)
その日は夢を見た。椿が幼い時に修行をする旭陽を遠目で見た後に山道を見ると遠くでこちらを見る少年を見かけた。椿が近づいて声を掛けた。
「こんにちは。ここで何をしているの?」
「…俺、皆と話すの苦手だからここにいるんだ。」
「…そう?普通に私と話をしているよ?」
「君は特別。…奥に誰も来ない洞窟があるんだ。良かったら、時々お話しよう。」
「うん!」
それが椿と岩愧との出会いだった。椿にとって岩愧は兄のような存在だった。だが、やがて椿の頭の良さを理解した父親が椿に少しずつ仕事を教えていく。その中でやがて武士の中で旭陽は特別に我流でありながら、腕が良い事に気がつき、椿の侍にした。これが椿と旭陽との本格的な出会いだった。
翼は目を覚ました。
(…珍しい。鬼の試練をしてないのに夢を見るなんて。)
大学でいつも通り結花と護に逢う。
「おはよう!翼!」
「おはよう。結花。」
「翼。おはよう。」
「おはよう。護。昨日夢見た?」
「え?見てないよ?」
「え?私だけ?」
不思議そうにしていた護に翼が驚いていた。
「翼だけ見たの!聞きたい!聞きたい!」
「ん。たぶん椿から見た事だからかな。幼い旭陽の修行を遠くから見ていた時に、岩愧を見つけたの。その時が初めての出会い。でも、旭陽とは当時特に話す事がなかったの。父親が椿に才能を感じて自分の領土とか、家来の武士の仕事を見せてくれた時に旭陽がいてね。才能が良かったから、私の一言で侍になったの。そこまでの流れ。」
「…へぇ。勇吹とは長い事付き合いがあった訳じゃないんだ。」
その話に結花が真剣な顔をして考え出す。
「…今と流れは同じなんだ。護が先、勇吹は後。前とは違って護と勇吹は仲良しだよ。気になるのが、翼に何かあるかもって警戒しちゃうよね?まあ妖怪にはあってるけどさ。」
「え!俺、心配になってきた!」
「…流石に、死にたくないからさ。今は電話持っているから即SOS送る。…充電と電話壊されるのは阻止しないと。」
朝から話が盛り上がる。近くの同じ大学の子が白い目で見ている気がするけど、忘れよう。
大学で勇吹に今日は鬼の試練があるかもしれない事と、朝の話をメールで知らせた。『何かあればすぐに行く』と返事が来た。
大学が終わって最上階で周囲を見回す。遠くの方でこちらに咲く大量の大きな薔薇が見える。どれ位大きいかと言うと付近の家の窓と花が同じサイズに見える。明らかに規格外だ。
すぐに勇吹に電話をした。
「勇吹?たぶん鬼の場所が分かった。大学から北西側かな。大きな薔薇が咲いてる。…むちゃくちゃ大きな薔薇。今どこ?」
「今丁度翼達の大学前だよ。翼は?」
「大学の五階。今から下に降りるね。」
大学の入り口に行くと勇吹がいた。
「…結花。もしかして、来るのか?危ないぞ?」
「ん…。いいなら行きたい。半分怖いけどさ、窓位のサイズの薔薇とか見てみたい。」
「…っ!まあ気を付けろよ!妖怪がいるからさ!」
結花は勇吹の背に乗った。
「翼は護とでいいでしょ?帰りは逆だと思うから。」
「うん。」
翼はちょっと驚いていた。
(まあその方が二人と平等に仲良く出来るよね。…っていうか、結花も二人の背中に乗れるし、ちょっと楽しみじゃないの?)
四人で大きな薔薇の近くまで行くが、鬼の足だとそんなに時間は掛からなかった。
「…翼。大丈夫?確か前は体がフラフラしたんだよね?」
「…全然ダメ。少しフラフラする。」
結花が普通に歩いて翼を支える。
「…結花。大丈夫なのかよ?凄ぇな…。」
「…俺の動きが荒かったかな?ごめん。翼。」
「…いや、勇吹と同じだったでしょ。結花、タフすぎ。」
「イェーイ!って、もういるんだよね。」
結花がiPhoneを出す。翼もスマートフォンを出した。
「…木霊。妖怪って言うか、精霊だったかな。でも、木を傷つけたら、呪われちゃうから要注意。…あれ?危ないのってこの子?」
結花が戸惑っていると大きな口の蛇のようなものが出てきた。ただ、目が無いので普通の生き物ではないのが分かる。
「野槌。これも野の精霊だね。ただ、動物を食べたり、人間を病気にさせるから妖怪に近い。結花。写真は撮った?ちょっと石にして固めるね。」
護が野槌を固めて端の方に転がした。
大きな薔薇の所に行くと緑の鬼がいた。
「ハッハッハッ!どうだっ!この薔薇っ!美しいだろっ!」
「もう最高っ!観賞にしか向かないけど、有り!」
結花は嬉しそうに話す。逆に翼はおっさんの鬼が花について熱弁しているので少し引いていた。
「ただな、お嬢ちゃん。問題があるんだ。」
「えっ?何?何?」
「人間共が美しい花を踏み潰して笑うんだよっ!ふざけんなっ!」
いきなり緑鬼は激怒した。結花はいきなり驚いていた。さすがに護も勇吹も翼もビクッ!として驚く。
「人間が『ネタ』とか『バズる』とか言って美しい花を踏み潰したりして、動画流したりしてんだよっ!知ってるかっ!あれで美しい花達が断末魔あげているんだよぉ!許せねえよっ!この怒りっ!止まらねぇよっ!」
結花と翼に結界が張られると辺りは橙色の粉が舞った。
「…っ!さぁっ!俺を鎮めてみろっ!」
よく見ると護と勇吹には結界が無く、目は真っ赤に光っていた。
「うぉおおおおっ!」
彷徨を上げると素手で緑鬼に向かっていく。緑鬼が波動のようなものを放つが避けようとしない為吹き飛んだ。
「翼!たぶん花粉だね!これ!まずは護と勇吹に花粉の効果を受けないようにしなきゃ!風だとダメ!水だよ!水の結界!」
「うん!」
護と勇吹に水の結界を張ると目が元に戻っていった。
「護!勇吹!緑鬼が波動を放つから避けて!」
翼が言うと護と勇吹は慌てて緑鬼の攻撃を避けた。
「怒れ!怒れ!鬼神の如し怒れ!」
翼は緑鬼も水の結界で包んだ。
「…後は風で花粉を真上に飛ばして、水で固めたらいいと思う。翼、水の石を貸して。手伝うよ。」
翼が風の力で花粉を真上に飛ばした。そこに結花が水の塊で受け取って弾いた。
ザァアアアッ、と雨のように降った。
「…護、勇吹。終わりよ。拳を降ろして。」
護と勇吹は静かに拳を降ろした。だが、まだ緑鬼の目は赤かった。
「怒れ。怒れ。」
「…おじさん。薔薇が泣いてるよ。おじさんみたいに。おじさんは目は赤いのに、人間みたいに涙が出ているの。折角綺麗な薔薇を泣かせたら、ダメ。」
「…本当は私と結花に結界張ったから。嫌いだけど、傷つけたらダメって、分かっているんでしょ。」
結花と翼の言葉に緑鬼の目がゆっくり戻った。
「…はっ。ははっ。今の世の中はろくな人間がいねぇけど、まだ捨てたもんじゃねぇな。…鬼も人間も大切なもんの為に怒る。だけど、それだけだとダメなんだ。怒りは諸刃の剣。大切なもんも、自分も傷つくんだ。鬼の兄ちゃん達、後ろのお嬢ちゃん二人、心配してたぜ。良い人間に逢えて良かったな。」
緑鬼が翼の方に歩いていく。
「お嬢ちゃん、試練は合格だ。木の石だ。受け取ってくれや。まあ、薄々分かっているだろうが、そっちのお嬢ちゃんも使える。鬼の石を使う条件は鬼との絆だ。さて、あんまり喋り過ぎても悪いからな。そろそろ帰るぜ。」
緑鬼が去ると大きな薔薇も消えた。
「…薔薇無くなっちゃった。でも、残っていたら処分されていたかも。それならいっか。…ちゃんと写真は残したし。」
結花は残した薔薇の写真を見て言った。
「勇吹、護。お疲れ様。今、傷を直すね。木の力なら出来ると思う。」
「待って!私も手伝うよ!」
結花は勇吹を、翼は護の傷を治していた。
「あの緑鬼。良い鬼だったね。…でも、」
「…うん。ちょっと悲しそうだった。本当はお花、大切にして欲しかったんだよ。でも、お花、大切にしている人もいる。あのおじさん、分かっていると思う。」
「結花って思っていたより、考えるタイプだよな。パッと見、翼と逆っぽいけど。」
「私はねー。やる時はやっちゃうんだよ!」
「翼は翼で時々どうしたらいいか迷う時があるからね。もっと頼っていいよ。」
「…そういうのってその時は頭の中、真っ白になる。」
護と勇吹の傷を直した後は、結花と護、翼と勇吹で分かれて帰った。
勇吹は翼を家の近くの電車の駅前まで背負って行った。
「今日はお疲れ様。勇吹。…って、体は大丈夫?」
「あぁ。結花、結構回復してくれているぞ。来た時より調子良い。たぶん護もだぞ。二人いたからかも。」
「…そっか。まあ結花は術強いからね。」
「いや、翼も鬼三人に水の結界張ったし、術の力は強いぞ。」
「…ん。じゃあ、またね。」
翼が手を振ると勇吹は嬉しそうにしていた。
その夜も夢を見た。
一人の鬼が泣いていた。鬼には優しくしてくれた人間が何人かいた。だが、鬼に石を投げつけて忌み嫌うものもいた。人間が好きだ。でも、武器を振り回して殺されかけた事もある。どうしていいか分からない。
鬼が成長すると人間も成長した。やがて、子が出来ていく。子供は大きな鬼を恐れて逃げるものがいた。当然だ。
その中に、鬼を恐れずに親しくなる子供もいた。
鬼は思った。(共に心を許せるものを守ろう)と。
やがて、鬼は人間の心のオーラが分かるようになった。無情な人間は黒く、愛情がある人間は白かった。
(もっと、愛し合いたい)
鬼は白いオーラの人間を見つめていた。
翼は目を覚ます。以前の鬼の言葉が頭に浮かぶ。
「人間の心の闇とか、黄鬼が言っていたかな。」
ふと昨日の緑鬼の怒りに満ちた顔が浮かぶ。
私は人間。でも、非道な人間がいたら緑鬼と同じで許せないだろう。
鬼は愛情を求めていた。今の時代に彼らへ愛情を与える人間は何人いるだろう。
現実は鬼が求める環境にはまだ遠く感じた。
今回の緑鬼はAIイラストの明るい鬼を見て浮かんだのがこのキャラクターです。
タイプは木。愛情を与えるのが好きで、傷つけるものは激怒する。善鬼のイメージが強い感じでした。
テーマはそこから後付けです。今回は護重視にしました。しっかりしているようで、心の弱い部分があって、完璧な強い鬼ではないのが護。そこが出せて良かったですね。
ちなみに今回も本当は翼一人で緑鬼を鎮める予定でしたが、結花も鬼の術を使える設定に変わったのでまきこみました。
まあこれも有りかな。
ちなみに他の人の小説は分かりませんが、エンディングは4パターン用意する予定です。