襲撃と冒険の始まり
今回は異世界への出発ですが、襲撃も起こります!
「なるほど……収録途中で消化器が突然噴射されてしまうハプニングが起きてしまい、子供達は具合が悪くて緊急搬送され、その責任を取らされて降板……意外な展開だったとは驚いたけど、いくら何でも酷いな……」
その夜、ヒカリの家で彼女からの話を聞いたトラマツ達は、納得の表情をしつつもヒカリを心配していた。
「うん……まさかのハプニングで降板となるなんて……どうすれば良いのか分からないよ……私が何したって言うのよ……」
ヒカリはまた机に顔を突っ伏しながら泣いてしまい、ミミが彼女の頭を撫でながらよしよしと慰める。
「大丈夫ですよ。歌のお姉さんは首になってしまっても、そこから新たな道を進むのもありだと思います」
「そうそう。例えばモデルやプロレスラーもありだと思うし、芸能界タレントもあるわ。私達がサポートするから!」
「うん……ところでトラマツとノースマンよね。確か異世界から来たって……」
ヒカリは顔を上げながら涙を拭き、トラマツとノースマンに視線を移す。
彼女からの質問に彼等はコクリと頷いた。
「うん。僕達はこの世界の危機を感じ、メンバーを集めに来ていたんだ。それに、君も選ばれしメンバーの一人としてスカウトしに来たからね」
「えっ!?私も選ばれしメンバーの一人なの!?」
トラマツからの事実にヒカリは驚きを隠せずにいて、零夜が彼女に近付く。
「俺も最初に聞いた時は驚きました。メディア様に出会う夢を見た者が選ばれしメンバーだという事を知った以上、戦う覚悟はできています」
「メディア……ああ!あの女神様ね。私も夢の中で彼女に出会ったけど、私なんかで大丈夫なのかな……」
ヒカリが選ばれしメンバーとなった事に不安になる中、倫子が彼女の肩をポンと叩く。
「大丈夫。私達も不安なのは同じなのは分かるよ。だからこそ、皆で一致団結すれば勝てるから!」
更にミミもヒカリの隣に駆け寄り、彼女の手を取る。
「私も不安かも知れないけど、皆で力を合わせれば勝てますよ!」
「藍原さん、ミミちゃん……」
ヒカリは倫子とミミに励まされて涙を再び流してしまうが、すぐに切り替えて涙を払い除ける。
「私、やってみる!これで終わりだなんて言わせないし、クビにしてくれたディレクターをギャフンと言わせる為にも、絶対にやってやるから!」
「その意気だ!じゃ、適性ガンで試してみるか!」
トラマツは懐から再び適性ガンを取り出し、ヒカリに照準を合わせて光線を浴びせる。
「キャッ!」
するとヒカリの足元で爆発が起こって煙が出てしまい、同時に彼女の姿が変わってしまった。
「どうなったん……あ」
倫子がヒカリの方を見ると、彼女の姿は裸オーバーオールで両手首に腕輪が付けられていた。しかも、彼女は胸が大きい為、オーバーオールから胸元と横の胸がはみ出ているのだ。
「何故裸オーバーオール!?まあ、似合うと言えば分かるけど……」
「どうやらこれがヒカリの適性の姿だね……似合うと言えば似合うけど……」
「なんでこうなるの!?裸オーバーオールだから、無茶苦茶恥ずかしいし!私、30歳なのに!」
予想外の姿に零夜は驚きながら納得し、トラマツも同様に納得する。
しかしヒカリは赤面しながら両腕で胸を抑えてしまい、思わず涙目になってしまう。
「でも、その姿こそ最大限の力が発揮できる。すまないかも知れないが、我慢してくれないか?」
「うん……」
トラマツからの頼みにヒカリはコクリと頷き、倫子がよしよしと彼女の頭を撫でる。
「それで、異世界への出発は?」
「一週間後。それまでに準備は怠らずにしておくように」
「一週間後か……上手くやれるかどうかだな……」
ノースマンの説明に零夜は真剣な表情で考える中、この日は解散となったのだった。
※
それから翌日、零夜の会社では彼が異世界に行く事で話題となっていて、皆が彼に注目していた。
「まさか東が異世界に行くとはな」
「ああ。我が社の誇りだな」
「憧れの存在になれるかもな!」
(会社にも知られているなんて……勘弁して欲しいぜ……)
零夜が心からため息を付きながら思う中、一人の男が彼の肩を叩く。
「うおっ!三上!?」
「東!お前、異世界に行くなんて凄いな!」
同僚の三上晴哉が零夜に声を掛け、彼は苦笑いをしていた。
「大した事ないよ。まさかまさかで選ばれたのは驚いたけど、俺なりに頑張って必ず帰るから」
「けど、あまり無理するなよ。社長から期待の星だと言われた以上、プレッシャーもあるからな」
「大丈夫。この事については慣れているし、諦めの悪さは無限大だからさ」
晴哉からのアドバイスに零夜は笑顔で応え、すぐに作業を再開する。
「そうそう。今日から5日間特別研修に二人来るってさ」
「特別研修か?一体誰が来るのか気になるな……」
零夜が後ろを振り向くと、そこには何故か倫子とヒカリがいたのだ。しかもズボンスタイルのスーツ姿を着ている。
(って、ええっ!?なんで二人がここに!?どういう事だよ!この話は事前に聞いていないし、いくら何でもおかしいだろ!)
倫子とヒカリの姿を見た零夜が心の中で慌てながら驚く中、二人は彼の方に視線を移す。
「あっ、零夜!ヤッホー!」
「二人共……まさか来ていたとは想定外ですよ……どうしてこうなった……」
ヒカリの掛け声に零夜はガックリと項垂れてしまい、この光景に晴哉はポカンとしてしまった。
※
同時刻、渋谷にあるダンススタジオでは、ダンス仲間がミミが異世界に行く事を知り、次々と彼女の元に駆け寄っていた。
「ミミ、あなたも異世界に行く事になったのね。しかも、ヒカリさんと共に行くなんて驚いたわ」
「うん。ヒカリさんと共に行くのは久々かもしれないけど、異世界は初めてだからね。まあ、不安な事もあるからその気持ちは分かるけど」
ミミが苦笑いする中、仲間の一人である住吉ココアがある事を思い出す。
「そう言えば……ヒカリさん、なんか収録のハプニングで子供達は病院に送られてしまい、歌のお姉さんを降板させられたって聞いたけど……」
「うん。あれについて調べてみたけど、どうやら何者かによって仕組まれた噂があるみたい。一体誰がこんか事を……」
ミミは深刻な表情をしながらヒカリの事を心配していて、ココア達も心配する。
「私達としても気になるから、この事については調べてみるわ。あなたは異世界であるラリウスに集中して」
「ええ。どんな事があろうとも、必ず生きて帰るわ!」
ココアからの忠告にミミはガッツポーズで応え、そのまま二人は拳を打ち合わせた。
※
その日の夕方、3人は仕事を終わらせ、家に帰る前にコンビニへと向かっていた。
「それにしても倫子さんとヒカリさんが来るとは想定外でしたが、何故俺の会社に研修に?」
零夜は何故自身の会社に研修しに来たのかを、倫子とヒカリに質問する。
「うん。仕事の関係なんだけど、この会社でどんな事を働いているのか学ぶ事になったからね」
「因みにこの事はテレビ中継されるから、あなたも映るかも知れないわ」
「マジですか……こんな事もある物ですね……」
倫子とヒカリの回答に零夜は苦笑いをするしかなかった。
「それよりもヒカリさん、タレントに転身する事を決意したのですか」
「うん。考えてみればこっちの方が似合うし、今後はその方向で行こうと思うの」
「そうですか。それを聞いて安心しました。俺も負けずに頑張るしかないですし、帰ったら筋トレと受け身をします」
「零夜、筋トレと受け身をいつもしているの?」
零夜のこれからの行動にヒカリは疑問に感じ、その事に彼はコクリと頷く。
「ええ。腕立てと腹筋、ヒンズースクワットを各100回しています!」
「零夜はプロレスラーになるのが夢だからね。物凄い努力家で頑張り屋なの。私達の道場にも通っているから人一倍努力をしているわ」
「そうなんだ……私も筋トレしようかな……」
零夜と倫子の説明にヒカリは自らも筋トレしようと考える中、彼等はコンビニに到着して中に入り始めた。
※
ここは闇に覆われた世界のダークゾーンにあるアークスレイヤーの本部。
その中にある会議室ではザルバッグと部下達が緊急会議を開いていた。
「なるほど。トラマツとノースマンが地球へと向かい、メンバー四人を集めたのか。そのメンバーはどうなっている?」
「はい。サラリーマンの東零夜、プロダンサーの春川ミミ、モデルレスラーの藍原倫子、元歌のお姉さんの国重ヒカリです!」
「なるほど。まあ、こんなメンバーを集めてもどうせ返り討ちに遭うのがオチだ。ここはラリウスに向かう前に始末する方が良いみたいだ」
ザルバッグが真剣な表情で考える中、一人の男が手を挙げる。その男はシルクハットを被っていて、タキシードを着用していた。
「それなら私にお任せを。責任を持って始末しましょう」
「マジシャン紳士のベクトルか。よし、この件は頼んだぞ!」
「はっ!」
ベクトルはザルバッグに一礼したと同時に、マントを広げてその場から姿を消した。
「出る杭は早めに打たなければ、侵略行動に今後の影響が走るだろう。上手くやる事を信じているぞ」
ザルバッグはあくどい笑みを浮かべながらも、ベクトルの行動を信じていたのだった。
※
その4日後、居酒屋では零夜がミミ、倫子、ヒカリと共に話をしつつ、それぞれの決意を固めていた。
「いよいよ2日後。社長達からは期待の星だと言われた以上、やるしかないからな」
「こっちもやるからにはやってやるけど……正直言って異世界は怖いと感じているからね……」
「私も……ヒカリは怖くないの?」
「私も怖いです……零夜君は怖くないの?」
ヒカリ達は不安な表情で零夜の方を向き、彼はオレンジジュースを一口飲む。
「俺も正直怖いかも知れません。ですが、ここで頑張らなければ選ばれしメンバーとしては失格ですし、俺達の世界を滅ぼしてしまう可能性もあり得ます。俺はそれが一番怖いです……」
零夜は不安な表情で俯きながら身体を震わせ、ミミが彼の肩を叩く。
「そうね。あなたの気持ちはよく分かるわ。私達も怖いかも知れないけど、皆で力を合わせれば怖くないと思うわ!」
「選ばれたからには責任もあるけど、私達なら絶対にやれる!」
「そうそう!私を降板させたディレクターにギャフンと言わせてやるんだから!私をクビにした事を後悔させないとね!」
ミミ達のやる気の決意に零夜はすぐに彼女達の方を向く。
「そうですね。俺も不安になっていましたが、今こそここでしっかりしないと!必ずアークスレイヤーを倒し、平和を取り戻す為にも!」
「その意気よ!さっ、食べましょう!」
ミミの合図と同時に、焼き鳥などがいつの間にか用意され、それを皆で食べ始めた。
※
「ありがとうございました!」
居酒屋から出た零夜は、後ろにいるヒカリ達に視線を移すと、彼女達はお酒を飲んで酔っ払っていた。
「飲み過ぎですよ。こんな時に敵が出たらどうするんですか」
「別にラリウスじゃないからいいじゃん」
「いや、油断は禁物ですよ。それに……倫子さんは何脱ごうとしているんですか!」
なんと倫子はシャツをたくし上げて脱ごうとしていて、胸まで見せようとしている。
「公共の場で何やっているんですか!そんな事を人に見られたら大事ですよ!」
「ええやん、別に」
「良くないですから!ほら、さっさと……」
「やー!」
零夜が倫子のシャツを下げ始め、彼女が抵抗しだしたその時、突然風が強くなり始める。
「風が……強くなった!?」
「もしかすると……まさか!?」
零夜達が敵の存在に気付いたその時、竜巻が姿を現してベクトルが姿を現す。
それと同時に零夜達の足元に魔法陣が展開され、その場から謎の異空間へと強制転移されてしまった。
「ここは異空間……?俺達は転移させられたのか……」
零夜が状況を確認したその時、ベクトルがコツコツと彼等の元に近付く。
「残念ながら君達はここで終わらせてあげよう」
「お前は何者だ?」
「私の名はベクトル。アークスレイヤーのマジシャン紳士だ」
「アークスレイヤー……トラマツの言っていた事はこの事だったか!」
零夜は冷や汗を流す中、トラマツとノースマンが彼等の元に姿を現す。
「アークスレイヤーの敵が来たと思ったら、まさかこういう事になるとはな!」
「トラマツ!ノースマン!」
「お前達が心配で来た事もあるが、その様子だと酔っ払っている奴等もいるみたいだな」
トラマツは酔っ払っているミミ達を見ながら唖然としていて、彼はマジカルバッグから4つのバングルと3つのタブレットを取り出した。
「まずはこいつだ!」
トラマツはミミ達に接近して、彼女達の口にタブレットを放り込む。すると、ミミ達の酔いが覚めてしまい、体内のアルコールも消えてしまった。
「あれ?酔いが治った!」
「何をしたの?」
ミミ達は酔いがいきなり治った事に疑問に感じ、トラマツは彼女達に近付いて説明を始める。
「酔いなどを完治するタブレット『サウンドキュア』だ。これはどんな効果も治せる優れ物と言われているからね。」
「そうなんや……お陰でスッキリした分、頑張らないとね」
「その意気だ!更にこいつを使ってくれ!」
トラマツは特殊な4つのバングルを上に向けて投げた途端、バングルは零夜達の元に移動しながら彼等の手首に自動装着される。
「バングルが自動装着された!」
「まだまだこれからだ!」
更に零夜達がバングルから発光される光りに包まれ、適性の姿の衣装と変化する。零夜は忍者、ミミとヒカリはオーバーオールスタイル、倫子はつなぎ服コスだ。
「凄い!あとは武器だな」
「武器についてはこれだ!」
トラマツは武器取り出しバッグを用意し、その中から忍者刀などの忍者セット、リングブレード、剣と盾を取り出す。
「まず、零夜には忍者セットだ。忍者の適性能力が高い君にはこれがお似合いだ」
「貰っておくよ。忍者には必須の武器だから助かるぜ!」
トラマツは零夜に忍者セットを与え、次にミミが前に出る。
「ミミには2つのリングブレードだ。ダンスを活かした技ならこれがオススメと言える」
「なら、受け取っておくわね。この武器の方が上手く扱えるかも知れないわ」
ミミが武器を受け取る中、トラマツは倫子に視線を移す。
「倫子はプロレス技を駆使しているので武器はいらないが、格闘技の取得を覚える必要がある。そこでこれを授けよう」
トラマツは倫子に格闘の巻物を渡す。
「これは?」
「格闘技を覚える巻物だ。これを読んで強くなってくれ」
「うん!やってみるね!」
倫子が納得の表情で応え、トラマツはヒカリに剣と盾を渡す。
「ヒカリは魔法剣士。武器を使っての攻撃と魔力が高いのが特徴だ。初心者にはオススメとなるクラスだが、回復などは頼むぞ」
「分かったわ!この事については私に任せて!」
ヒカリは意気込みを入れて頷き、四人はすぐに戦闘態勢に入る。
「私に逆らうと言うのなら……相手になってあげよう。出て来い、部下達よ!」
ベクトルの合図で黒い戦闘服を着た男達が一斉に姿を現す。しかも、彼等は顔を仮面で隠しているのだ。
「彼等はアークスレイヤー戦闘員!油断は禁物だ!」
「了解!油断せずに気を引き締めないとな!」
零夜達は一斉に駆け出したと同時に、ベクトル達に立ち向かう。
「やれ!」
ベクトルの合図で戦闘員達が襲い掛かるが、零夜は手裏剣を構え始める。
「手裏剣乱れ投げ!」
零夜が投げた手裏剣は次々と戦闘員達に当たり、爆発を起こして消滅した。
「ベクトル以外は全員倒せるが、油断はするなよ!」
「了解!ダンシングブレード!」
ミミは踊りながらリングブレードを構え、次々と戦闘員を切り裂いて倒してしまう。
「私も負けられない!はっ!」
倫子はビンタ、パンチ、蹴りなどを駆使して、次々と襲い掛かる戦闘員を倒しまくる。
「せいっ!はっ!」
ヒカリは剣捌きを駆使して、襲い掛かる戦闘員達を倒しまくった。
「なかなかやるな。だが、私はそう簡単に倒せない」
ベクトルは地面に落ちている剣を手に取り、右手を使って錬成し始める。すると、剣は姿を変え始め、消化器へと姿を変えた。
「剣が消化器に!?」
「私の必殺技はマジカルハンド。どんな物でも錬成する事が可能なのだよ」
ベクトルは消化器を構え、零夜達に向けて噴出を始める。
「躱せ!」
トラマツの合図で全員がバックステップやダッシュなどで回避し、消化器の泡は地面に当たり、そのまま悪臭を放ち始める。
「この匂い……まさか!」
ヒカリは消化器の悪臭から匂いを感知し、すぐにベクトルに視線を移す。
「あなただったのね。消化器を噴出して迷惑をかけた犯人は!」
「えっ!?まさかあの人がヒカリさんをクビにした犯人なの!?」
ヒカリはベクトルを指さしながら説明し、その事にミミは驚きを隠せずにいた。
「そうだ。私は事前にこの世界の選ばれし戦士達を調査し、彼等のやる気を無くして不協和音を起こさせようとしていたのだよ」
「じゃあ、ヒカリさんがクビになったのも!?」
「《《作戦の一部》》にしか過ぎないのだよ……」
ベクトルから発せられた衝撃の真実にヒカリは涙を流してしまい、零夜は怒りで拳を震わせる。
「お前……本当に最低だな……!」
「なんとでも言うがいい。全ては私の策略に過ぎないのだからな」
ベクトルは平然としながら応え、更に落ちている武器を次々と拾い、マジカルハンドでナイフに変化させた。
「君達はここで終わらせてやろう。ナイフキャノン!」
ベクトルはナイフを次々と宙に浮かせ、そのまま零夜達に向けて飛ばし始めた。
「あなただけは絶対に許さない……カウンターバリア!」
するとヒカリが涙を流しながら怒りの表情で盾を突き出し、零夜達の周りに円形のバリアが出現する。
同時にナイフがバリアに直撃して跳ね返り、次々とベクトルに襲い掛かる。
「何!?ガハッ!」
ベクトルは跳ね返ってしまったナイフに次々と刺されてダメージを負ってしまい、その直後に零夜が彼に襲い掛かってくる。
「終わりだ!」
ラストは零夜がベクトルの心臓部分に忍者刀を突き刺し、見事貫通して倒す事に成功する。
「ぐほ……甘く見ていた私が……間違っていたのかも……知れないな……」
零夜が忍者刀をベクトルから引き抜いた途端、ベクトルはそのまま仰向けに倒れてしまい、身体ごと消滅する。
残されていたのは一つのシルクハットだけとなった。
「負けたら消滅か……哀れな男だぜ……」
零夜がシルクハットを拾ってベクトルに憐れみの表情をしたその時、彼等はその場から強制転移され、元の場所に戻った。
更に服は元の服に戻っていて、零夜の手にはシルクハットが残っていた。
「元の姿に戻ったな……この世界となると戦いが終わったと同時に、適性の衣装から元の衣装へと戻るのか」
「その通り。けど、受けたダメージと疲れは残るけどね。今回は奇襲があったけど、皆無事で本当に良かった。今日はゆっくり休んだ方が良いよ。疲れもまだ残っているし、早めに帰った方が得策だ」
「そうだな。飲むどころじゃないし、戦いに備えてゆっくりしないとな」
トラマツからのアドバイスに零夜達は頷き、それぞれの家に帰り始める。
「やれやれ。まさか奇襲を喰らってしまうとはな。だが、全員無事で本当に良かった」
「ああ。今の戦いは序の口。真の戦いはこれからとなる。各自油断はしない方が良い」
「そうだな。俺達も戻るとするか」
トラマツからの忠告にノースマンは頷き、彼等は魔法陣を展開し、自身達の居場所に転移しながら帰り始めた。
※
「ベクトルがやられただと!?」
アークスレイヤーの本部では、ベクトルがやられてしまった事にザルバッグだけでなく、部下達も驚きを隠せずにいた。
「はい!奴等は予想外としか言いようがありません!ベクトル様を倒した強さはまさに本物であります!」
「更に彼等は初戦闘であるにも関わらず、武器や能力を駆使して見事ベクトル様を倒しました!我々戦闘員達も多く蹴散らされています!」
二人の戦闘員からの報告にザルバッグは納得の表情をする。
「そうか……奴等は要注意と言えるだろう。報告ご苦労だった。下がって良い」
「「はっ!」」
二人の戦闘員がその場から移動し、入れ替わりにフードを被った一人の女性が彼の前に出る。
「ザルバッグ様、ここはラリウスにいる部下達にも伝えた方が良いと思われます。零夜達を見つけたら倒せと」
「なるほど。では、それで行くとしよう。ラリウスにいる部下達に連絡を頼むぞ!」
「はっ!」
女性は一礼したと同時に、ラリウスにいる部下達へ連絡しに向かい出したのだった。
※
それから2日後、いよいよ零夜達のラリウスへの出発となり、多くの人が見送りに来ていた。
「凄い!こんなにも見送りの人が来ているなんて!私達ってそんなに有名なのかな……」
「私のレスラー仲間だけじゃなく、ファンもいっぱいいる!皆、私達の事を心配していたんだ……」
「しかも、テレビ中継されているみたい……多くの記者もいるし」
「どれだけ人気なんだよ……」
この状況に四人がそれぞれの反応をする中、応援エリアにいる晴哉が零夜に声を掛ける。
「頑張れよ、東!」
「ああ、行ってくるぜ!」
零夜が晴哉に向けて拳を上げながら応える中、ココア達がミミに対して手を振りながら応援する。
「ミミ、頑張ってね!」
「あなたならできるから!」
「ええ!任せて!」
更にドリームレッスルバトラーズのレスラー、スタッフ達も駆けつけていて、倫子にエールを送っていた。
「頼んだぞ、藍原!」
「藍原さん、頑張ってください!」
「しっかりやるんだぞ!」
「はい!行ってきます!」
倫子が仲間達に手を振りながら応える中、子供達がヒカリに対して声援を送っている。
「「「ヒカリお姉さん、頑張ってね!」」
「うん!頑張るからね!」
ヒカリが子供達に対して笑顔を見せた直後、トラマツとノースマンが突如現れたワープゲートから姿を現し、彼女達の元に駆け付ける。
「全員揃っているみたいだな」
「そろそろ行くぞ!ラリウスへ出発だ!」
「よし!行くとするか!」
トラマツの合図で零夜達は駆け出し、そのままワープゲートに入り込む。
「さあ、冒険の始まりだ!」
零夜の合図で彼等はワープゲートの中に入って行き、そのままワープゲートは消えてしまったのだった。
※
零夜達がワープゲートを通ってラリウスに辿り着くと、そこは広大な自然が待ち構えていた。
「凄い……」
「これが……ラリウス……」
零夜達はラリウスの世界観に驚きを隠せないのも無理はない。何故ならモンスターは勿論、ドラゴン、ロック鳥なども存在しているからだ。
更に遠くでは西洋の街並みも見えていて、まさにファンタジー世界その物となっているのだ。
「小説や漫画、アニメ、ゲームなどで知ったけど、こんな世界もあるんだ……」
「ああ。ラリウスは様々な世界感があるし、モンスター達も多くいるからな。それに……お前達の姿も変わっているぞ」
「「「?」」」
零夜達は自分達の服をよく見ると、適性の姿の衣装となっていた。
「いつの間に変わっている……」
「やはりこっちの方が私達らしいかもね」
「うん。すっかり気に入ったし」
「私も裸オーバーオールが気に入ったかも」
ミミ達が納得をする中、トラマツは景色に視線を移して息を吸い込む。
「まずは仲間を集める前にレベルアップから始めよう。ギルドの方へ出発だ!」
「「「おう!」」」
トラマツの宣言にミミ達は拳を上げて応え、彼等の案内でギルドへ向かい始めた。
(実際にここに来るのは驚いたけど、冒険の始まりを感じるな……まずはレベルアップして強くならないと!)
零夜は心の中で強く決意しながら、ミミ達と共にとある街のギルドへと駆け出した。
※
「異世界からのメンバーは全員集めたわね。皆、いい人で良かった」
メディアの屋敷では、彼女達が水晶玉でトラマツ達の様子を見ていて、今の様子に安堵の表情をしていた。
「ですが、残るは3人。彼女達は協力するのか気になりますし、行方がどうなっているのかも不明です」
「トラマツ達の説得に掛かるわね。無事に成功できる事を信じましょう」
「ええ…」
メディアとリリアはトラマツ達が無事に任務を達成する事を信じながら、彼等のこれからを見守る事にしたのだった。
ラリウスへ到着した零夜達。ここから冒険が始まります!