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救星の英雄たち 図鑑のスクリプトル  作者: 一木空
第五章 二人と一匹の歓迎会
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レンの自己紹介

「ホワイトドラゴン……!? って、なんだ?」

「さあ……? どこかで聞いた気がするけど……」

「ドラゴンと言うと、あのモンスターが思い浮かぶが……。どう見ても、あの子たちはモンスターじゃないよな?」

 異なる種族であるという真実がレイカの口から発せられ、会場のあちこちからどよめきが発せられる。


 このまま進行させてしまえば、不安が生まれ、恐怖へと至ってしまうだろう。


「早く仲裁しないとまずい……!」

 スラランを床に置いて姉弟に駆け寄ろうとするのだが、後ろから強く引っ張られ、ひっくり返りそうになってしまう。


 転びそうになった原因を作ったのはナナだった。


「どうしたのさ、ナナ! 急がないといけないのに!」

「ダメです……! いまの状態のソラさんが何か言ったところで、何の解決にもなりません……! それどころか、更なる火種になる可能性があります!」

 だとしても、二人のことを放っておくことなどできるわけがない。


 ナナの手から逃れようと体をよじるが、それでも彼女は服を離さない。

 それどころか、彼女は暴れる僕のことを悲しげな瞳で見つめだした。


「信じてあげられないんですか……?」

「え……?」

 ナナの悲しそうな声を聞き、抵抗をやめる。


「ソラさんはあの日、言っていたじゃないですか……。レイカちゃんならきっと、自分のことを話せるって」

「そうだけど……」

 服を握られる力が弱まってきている。


 だが僕はもう、彼女の手から逃れる気は起きなかった。


「あの日、レイカちゃんの手を握っているという約束をしていましたよね? それなのに、あの子の手を握っていないのはなぜですか?」

 レイカが言い出したと答えることはできたが、答えられなかった。


 なぜかそれを、口に出してはいけない気がしたからだ。


「あの子が言い出したんでしょう? 自分の力でやりたいって」

「それは……」

 ナナの考えは当たっていたが、肯定も否定も僕にはできなかった。


「いま、レイカちゃんは、戦おうとしているんです。なのに、あの子が一番信頼している人であるあなたが、その想いを邪魔するのですか……?」

「邪魔なんて、そんな訳……! 僕は二人を守りたいだけで――」

「じゃあ、信じてあげてくださいよ!」

 ナナの怒声に体を跳ね上げる。


 彼女は息を大きく荒げ、瞳が涙で潤んでいた。


「思い出してください! あの日、レイカちゃんは何と言っていました!? いまさっきあなたたちがすれ違った時に、あなたはあの子と何を話していたんですか!?」

 ナナの言葉により、数週間前の記憶が浮かび上がる。


 あの日、レイカは頑張ると言っていた。

 さっきも、もう大丈夫だと言っていた。


 あの子の声を聞いて、心配する必要は無いと思ったというのに。


「……ゴメン、君の言う通りだ。止めてくれてありがとう」

 ナナに謝罪をするのと同時に、彼女は服を握るのを止めてくれる。


 代わりに、にっこりと優しい笑顔を見せてくれた。


「そうだ。僕がするべきことは、さらに次のことだ。レイカたちがこの村に馴染めるように、しなければいけないこと。そのためには……」

 ぶつぶつと呟きながら、レイカとレンがいるステージへと体を向ける。


 遠くからは相変わらずどよめき声が響いてくるが、恐怖の色は感じない。

 まだ、彼女たちの言葉の意味を飲み込んでいるところなのだろう。


「一緒にやりましょう。あの子たちがこれ以上ないほど、この村を好きになってくれるようにするために。村の人たちが、あの子たちを守ってくれるようにするために」

「……そうだね。家族みんなで変えていこう」

 ナナは僕の隣に立ち、大きくうなずいてくれる。


 ステージからは、ホワイトドラゴンについて説明する声が聞こえてきた。


「ホワイトドラゴンは、『アイラル大陸』と呼ばれている大陸に住む、皆さんに近しい見た目を持つ種族です。私たちの目的は見聞の旅。新たな知識を求めて、この村にやってきたのです」

 『アイラル大陸』とは、ホワイトドラゴンともう一つの種族が住む大陸。


 環境が大陸中央付近で大きく二分されており、北部は雪に覆われた寒冷な気候を、南部は温暖湿潤な気候を持つ。

 その極端な環境により雷雨が発生しやすいため、雷の大陸とも呼ばれている。


「ヒューマンとほとんど力に差はないと言われてます。でも、魔道具とかの製作技術は他の種族に負けないと思っています」

 ホワイトドラゴンが持つ筋力は、ヒューマンと同程度。


 彼らの特筆すべき力は、旅で得た多くの知識と、それを利用して作られる魔道具に集約されると言ってよいだろう。


「私たち、いっぱい知りたいだけなんです……! どうか、この村に住ませていただけませんか……!?」

 説明を終えたレイカは、村人たちに向かって懇願をする。


 その声に、村人たちは顔を見合わせて話し合いを始めるのだが。


「異種族の知識なんて俺たちにはほとんどないし、どうすればいいのか……」

「子どもだから危険はないんでしょうけど……。やっぱり不安ね……」

「良く分からん人物を村に住ませても良いのか……?」

 村人たちの間からは、不安を感じている声が多々上がってくる。


 スラランの時とは異なり、歓迎する声が出てくることはなさそうだった。


「やっぱり、ダメなのかな……。頑張るって言ったのに……」

「姉さん……」

 先ほどまで持っていたはずの強い勇気は、レイカの内から失われていた。


 レンも悲しそうに姉の顔を見続けているだけだ。


「ソラさんたちがここまで準備してくれたのに、私は――」

「はーい、皆さん。ストップですよ~」

 レイカの発言が終わる前に、彼女の肩に手を置きながら村人たちに向かって大きな声を出す。


 僕の声が無事に届いたらしく、村人たちの声は少しずつ静かになっていった。


「あ……。ソラさん……ナナさん……。わたし……」

「よく頑張ったね。知らない人たちに自分の正体を話すのは怖かっただろうに……。すごいぞ」

 レイカはいまにも泣きだしそうな顔で、僕とナナの顔を見上げていた。


 中腰になり、そんな彼女の頭をフード越しに優しく撫でる。

 同様に、レンの頭にも腕を伸ばす。


「レンもありがとうね。レイカのそばにいてくれて」

「ここからは私たちも一緒に。不安な声なんて、全部吹き飛ばしちゃおう」

 ナナがレイカたちを励ますのと同時に、二人の肩を優しく叩く。


 僕とナナは姉弟を間に挟むように立ち、村人たちに向けて声を発する。


「二人の正体を事前にお伝えせず、驚かせてしまったこと、誠に申し訳ありません」

「ですが、どうしても知っていただきたいことがあるのです! それを聞いてから、この子たちを村に置くか判断していただけないでしょうか!」

 事前にレイカたちの事情を村人たちに伝えることは可能だったが、僕たちがそれをしなかったのは、村人たちが二人の容姿も知らずに種族のことだけを知っても、不安を抱いてしまうのではないかと思ったからだ。


 少しずつ伝えていけば大丈夫。

 ゆっくりやっていけば大丈夫。


 そんな考えが僕たちの中に存在していたのだ。

 きっとそれも、間違いではないのだろう。


 だが、レイカたちは辛い思いをするかもしれないのに、勇気を出して自分たちのことを村人たちに伝えた。

 そんな一生懸命なこの子たちと比べたら、僕たちの考えは逃げでしかないだろう。


 僕たちはこの子たちと共に戦わなければならない。

 この子たちの家族となり、守ると決めたのだから。


「先ほどお話があったように、この子たちはヒューマンではありません。ホワイトドラゴンと呼ばれる種族の子どもです」

 ナナの言葉に、再び村人たちがざわざわと話し出す。


 レイカたちの言葉では信じきれない部分があったのかもしれないが、同じ村人である彼女の言葉を聞いたことで、疑念が確信へと近づいたのだろう。


「ホワイトドラゴンを……。この子たちを恐れる必要はありません。せっかくこうして出会えたわけですし、この子たちのことをもっと知っていただけないでしょうか?」

 村人たちの視線が再度レイカたちへと向く。


 彼らはこの子たちのことを知りたくないとは思っていない。

 チャンスはそこに存在するはずだ。


「というわけで、これからこの子たちの得意技を見ていただきたいと思います! さあ、レイカ、レン。君たちの出番だよ!」

「え、ええ!?」

「ど、どうすればいいの……?」

 突然話を振られ、レイカとレンは慌てふためく。


「大丈夫、私たちの言う通りにしてくれればいいから。自己紹介の場なんだから、得意技くらい見せてあげないと」

 そんな二人に、ナナが優しく声をかけてくれた。


 姉弟が動揺しつつもうなずいたのを見て、僕は村人たちに質問をする。


「じゃあ、まずは……。この中にケガを負っている、もしくは体を動かしにくくなっているという方はおりませんか?」

 僕の脈絡のない質問に、村人たちは困惑する。


 不調に悩まされている人は特にいない様子。

 こうなってくると、僕たちの案が頓挫してしまうのだが。


「あててて……。ケガ……というか、腰痛を患っているのですが……」

 声が聞こえてきた方向に顔を向けると、苦しそうに呻く村長さんの姿があった。


 彼の顔色が先ほどより青くなっているが、まさか腰痛が悪化してしまったのだろうか。


「レン、ついてきてくれるかい?」

「う、うん」

 レンを伴い、ステージ端の椅子に座っている村長さんのそばに歩み寄る。


 彼は辛そうに腰を抑えており、痛みのせいか息も荒れているようだ。


「村長さん。腰の容体はどのような感じでしょうか?」

「治りきっていないのに無理をするものではないですな……。痛みがぶり返してきましたよ……」

 村長さんの表情は、ますます青くなっていく。


 すぐに安静にさせてあげたいところだが。この場には横になれる場所が無い。

 もっと落ち着いたタイミングで治療をしてもらうつもりだったが、四の五の言っていられないか。


「いまからレンがあなたの腰痛を魔法で治療します。彼の力なら、きっとある程度は治せるはずなので」

「そ、それは本当ですか? もちろん、治るのであればありがたいのですが……」

 村長さんだけでなく、村人たちも驚いた様子で会話をしている。


 腰の治療は、本来であれば長い時間をかけて行うもの。

 痛みを抑えるだけでも治癒力を大きく消費しかねないので、急速回復を是とする回復魔法は、あまり良い治療法とは言えないのだ。


「実は数週間前に、僕は複数の骨にダメージが入るほどの大ケガを負いました。でも現在は自由に動けています。この短期間で全快したのは、彼の回復魔法のおかげなんです」

 骨の治療も長い時間をかけて行わなければならないもの。


 だというのに、痛みや動きづらさなどの後遺症は一切発生していない。

 レンの回復魔法の優秀さを示すには、僕自身が何よりの証拠だ。


「私から見ても、レン君の回復魔法は特別優秀です。きっと、いままで以上に動きやすくなると思いますよ」

「……ソラさんもナナさんも、あんまりプレッシャーを掛けないでほしい。嬉しいけど」

 レンは照れるようなそぶりを見せつつも、不安そうな表情を浮かべていた。


 多くの人の前で自身の魔法を見せるのだから、そのような表情になるのは理解できる。


「どうでしょう。この子に治療を任せていただけませんか?」

 問いかけに、村長さんは瞼を閉じる。


 しばらくして瞼を開いた彼は、優しいまなざしを僕たちに見せた。


「そちらのレイカちゃんには、驚かせてしまったこともありましたな……。お詫びにとはとても言えませんが、こんな老体でよろしければいかようにもお使いください」

「……すみません、ありがとうございます。レン、治療をお願い」

 村長さんの許可が出たので、レンに回復魔法を使ってもらうようお願いする。


 彼は大きくうなずいてから村長さんの背に回り、回復魔法をかけ始めた。


「大丈夫そうかい?」

「多分……。痛みを和らげつつ、治癒力を腰に集中させればきっと……」

 レンは自信なさげに返事をしたが、真剣な眼差しを見せていた。


 ただ自身の長所を見せるというだけでなく、村長さんの痛みを少しでも癒してあげたいという想いが強いようだ。


「聞きましたよ。商人の往来を邪魔する人々をソラさん方が捕縛したと。つまり、あなた方のおかげで満月祭を開催できているわけですね」

「いや、それは……。成り行きからそうなったというだけで……」

 治療を受けつつ、村長さんは僕に声をかけてきた。


 あの四人組を捕縛していなければ、満月祭が開催できたかわからない。

 レイカたちを紹介することもできず、窮屈な思いをさせ続けていた可能性はあるのだ。


「成り行きでも構いませんよ。そのおかげでこの場に皆を集めることができたのですから。本当に、ありがとうございます」

「……どういたしまして。この子たちのことをすぐに説明せず、申し訳ありません」

 僕たちが話している間も、レンの治療は続いていく。


 しばらくして彼は村長さんの腰から手を離し、優しく声をかける。


「これで大丈夫だと思う。立てますか……?」

 レンの言葉を聞いた村長さんは、体に力を入れて椅子から立ち上がろうとする。


 その表情は痛みに歪められたものではなく、驚きに満ち溢れていたものだった。


「い、痛くない……。むしろ、この腰の軽さは……!」

 立ち上がった村長さんは、なんとそのままスキップを始めてしまった。


 彼の行動を見て、村人たちだけでなく、僕も驚いてしまうのだが。


「だ、大丈夫なんですか!? おじい様!?」

「ああ、大丈夫だ! いまならなんだって運べそうだぞ!」

 ユールさんの心配を気にも留めず、村長さんはステージ上を動き回る。


 だが、いままで動けなかったところを急に動きだせば、どうしても体は悲鳴をあげてしまうもの。

 彼はある程度動き回ったところでバランスを崩し、ユールさんに支えてもらっていた。


「あくまで痛みの緩和と、動きやすくなるように矯正をしただけだから無理は禁物。ゆっくり休んでください」

 レンの話を聞くに、完全な治療はできなかったようだ。


 彼は杖を持ってきていなかったので、最適な回復魔法を使えなかったのだろう。


「いや! 立ち上がるのも辛かったくらいなんだ。治療してくれてありがとう、レン君」

「ど、どういたしまして……」

 村長さんから感謝の言葉を貰ったレンは、気恥ずかしそうに自分の頬を指でかいていた。


 連続した治療は体に負担がかかるので、彼の回復魔法を見せる機会はこれで終わりにしてよいだろう。


「さて、村長さんはもう大丈夫そうですし、次に行きましょうか!」

 村長さんの治療の様子を、心配そうに見ていた少女へと顔を向ける。


 今度はレイカの出番だ。

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