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救星の英雄たち 図鑑のスクリプトル  作者: 一木空
第三章 不思議な姉弟
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レイカの心

「まさかいきなり、こんな目に合うとは……」

 湖で転んだことでびしょ濡れになった僕は、炎の魔法を使って服と体を乾かしていた。


 レンは変わらず背をさすってくれていたが、濡れた僕の体を触っているせいか彼も体を震わせているようだ。


「ソラさん。燃えそうな物と、新しい服を持ってきました」

 声に振り返ると、そこには木の枝と僕の服を持つレイカの姿が。


 どうやら、家に戻って僕の服を持ってきてくれたようだ。

 僕に服を渡した後、彼女は拾い集めてきた枝を組んで土台を作ってくれる。


 彼女に感謝しつつ炎を土台に移し、着火するのを静かに待つ。


「悪いね、二人とも。服がある程度乾くまでちょっと休憩。自由にしてていいよ」

 着ている上着を脱ぎ、燃え盛り始めた炎にかざしながら二人に声をかける。


 すると、炎に手を近づけて体を温めていたレンが、僕に視線を向けてこう言った。


「湖のそばに行ってきてもいい?」

「了解、気を付けて行ってきてね。あ、そうそう。もし良かったらスラランを湖に連れて行ってくれないかな? 多分、まだ物足りないはずなんだよね」

 レンは僕の言葉にコクリとうなずくと、スラランと共に湖に向けて歩き出す。


 水から離れた際、スラランは寂しそうな様子で湖を見つめていた。

 きっともう少し、冷たい水に触れていたかったのだろう。


 叱った後、即座に湖から引き離したのは良くなかったかもしれない。

 これで満足してくれると良いのだが。


「レイカも行ってきたらどうだい?」

「……いえ、私は良いです」

 黙りこくっていたレイカに提案をするも、落ち込んだ表情のまま断られてしまう。


 この場にいても面白いことは何もない。

 かと言って、何か話せそうなことはあるだろうか。


「「……」」

 家にいる間や、研究中はいくらでも話せていたというのに、なぜか話題が湧いてこない。


 体が冷えてしまったせいで、頭が回らなくなっているのだろうか。


「こういう時、先輩だったらいくらでも話ができるんだろうなぁ……」

 相手が誰であろうと、どんな状況であろうと、自分のペースに巻き込んで会話を進めていくあの人の姿が脳裏に浮かぶ。


 白い服を纏って女性に話しかけに行く姿を思い出し、懐かしさに包まれた。


「ケガ、良くなったかなぁ……。今度、手紙書いてみようかな」

 思えばこの五年間、魔法剣士ギルドとはほとんど交流を行っていなかった。


 自分たちのことで精いっぱいだったとはいえ、皆をないがしろにしてしまったのは事実。

 今度、ナナを連れてギルド本部に顔を見せに行くとしよう。


 そんなことを考えていると、体の震えが収まったことに気付く。

 レイカとの会話内容を考えることなどすっかり忘れ、次の行動について考え始めたその時。


「……ソラさんたちは、どうして親切にしてくれるんですか?」

「え? どういうこと?」

 レイカの質問によって、ボーッとしていた頭が一気に覚醒する。


 だが、彼女の質問の意図を汲み取り切れずに聞き返してしまった。


「……私たちを二日間も泊めてくれて、こうして案内までしてくれる理由を知りたいんです」

 悲しげなレイカの質問に、紡ぐべき言葉を悩んでしまう。


 最初は痛みを抱える彼女を放っておくことは危険だと判断したから。

 いまの僕が抱いている思いは――


「君が浮かべる顔が気になったから、かな」

「私の……顔……?」

 返事を聞いても、レイカは理解ができなかったようだ。


 僕自身、なぜ彼女たちにここまで入れ込むのか分かっていない。

 胸の奥にもやもやとした霧がかかっているような感覚だ。


「君たちが僕たちの家にやって来たあの時、特に君は暗い顔をしていたよね。せっかく旅をしているのに、勿体ないなって思ったんだよ」

 姉弟たちがやってきたあの日、レイカは特に暗く、怯えた表情をしていた。


 過酷なこともあるが、それらを楽しむことこそが旅の醍醐味。

 だというのに、彼女は旅そのものを楽しめない状態になっていた。


「君が旅をする中で、少しでもそんな顔をしないようにしてあげられたらなって、思っただけさ。これから言うことは僕の考え方みたいなものなんだけど……。聞いてみたい?」

 レイカは僕の顔をじっと見つめ、無言でうなずく。


 コホンと咳払いをし、彼女に僕の考えを伝えることにした。


「せっかく新しい知識、知恵を得る機会があるんだから楽しまなきゃ。悲しい顔をして、知識を付ける人なんていないでしょ? 見聞の旅だからこそ、笑顔でいないと」

「……え?」

 レイカから目をそらし、火種の後処理を開始する。


 水の魔法を使い、焚火の土台ごと水で包めば熱も下がってくれるだろう。


「まあ、いざ知ってみたら面白くなかったり、嫌な思いをすることもあったりするんだけどね……。そういうわけだから、少しでも楽しんでもらえたらなーって思ってるんだけど、ダメかな?」

 炎を消す作業を続けつつ、レイカに振り返る。


 彼女は涙を流しながら、僕のことを見つめていた。

 女の子を泣かせてしまったことに慌てふためき、動揺しながら声をかける。


「え……。あ、ご、ごめんなさい! なんでもないです!」

 レイカは腕で涙をぬぐい、何でもないとアピールをする。


 それでも心配する気持ちが収まらず、謝罪をするのだが。


「だ、大丈夫ですってば! 目にゴミが入っただけですから! それより、十分温まったみたいですし、次に行きましょう!」

 問題ないと言われ、誤魔化されてしまった。


 これ以上追及しても、彼女を苦しめることに繋がってしまうかもしれない。

 少し顔色が良くなっているようにも見えるので、その表情を曇らせるのは違うだろう。


「……分かった。じゃあ、レンたちを呼んで村に行こうか。レンー、スラランー。そろそろ帰ってきてー!」

 湖で遊んでいる組に声をかけると、彼らはすぐに戻ってきてくれた。


 僕たちは再び、アマロ村に向かって歩き出す。


「どうして、その言葉を知ってるの……?」

 か細く聞こえてきたレイカの声に疑問が浮かんだが、質問をすることは止めておいた。


 村に着くまでの間、彼女の心には何が棲みつき、どう癒してあげればよいのか考え続けるのだった。

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