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救星の英雄たち 図鑑のスクリプトル  作者: 一木空
第三章 不思議な姉弟
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二人は姉弟

「こんな時間に子どもが二人……。しかも泊めて欲しいって……?」

 夜中に子どもたちが自宅に訪れたこと、宿泊許可を求めてきたことに思考がついて行かず、混乱してしまう。


 動揺している間に、少年と思われる子どもが不安そうな声で訴えかけてきた。


「どうか、一晩だけお願いしたい」

「村に行けば宿屋もあるよ? ここよりかは――ってそうか、子どもだけじゃ泊めさせてはくれないか……」

 さすがに子どもたちだけでは宿屋も困るだろう。


 しかも、いまの時間から宿屋に行っても、宿泊許可が得られるかどうかはかなり怪しいところだ。


「あまりお金もないのです……。人目にもあまり、触れたくありません……。どうか、お願いします……」

 もう一人の少女とみられる子どもが、悲痛な声を出して懇願してきた。


 何か深い事情があるのかもしれない。


「……分かった、お入り。二人だけでいいんだよね?」

 僕の言葉を聞いた子どもたちは、少しだけ表情を明るくしてくれた。


「……ありがとうございます。この御恩は忘れません」

「まだ何もしてあげてないよ。さあ、入って、入って」

 少女のお礼を聞き流しつつ、笑顔で子どもたちを家の中に迎え入れる。


 家の中に入ると、ナナがリビングから顔だけ出してこちらを見ている姿があった。

 一向に帰ってこない僕を心配し、様子を見に出てきていたようだ。


「ソラさん、その子どもたちは一体? 怯えている様子ですけど……」

「うん、ちょっとね。大丈夫だよ、彼女は僕の家族だから」

 ナナの声に怯えたのか、少女は僕の背に隠れるようにしていた。


 そんな彼女に安心するよう促し、リビングへと進ませておく。

 少女たちが消えていくのを確認しつつナナを呼び寄せ、声を潜めて頼みごとをする。


「念のためになんだけど、あの薬を用意しておいてくれるかい?」

「……なるほど、分かりました。煮だしをするのに時間がかかるので、お湯だけ沸かしておいてください」

 そう言って、ナナは自室へと戻っていった。


 リビングへと入り、子どもたちを椅子に座らせてからキッチンに移動し、彼女に言われた通りの行動を取っていると。


「……ソラさんって、言うんですか?」

 少女が、か細い声で僕の名を口にした。


 そういえば、自己紹介はしていなかったか。


「うん、そうだよ。僕の名前はソラ。さっき僕が話していた女性は、ナナっていうんだ。あとそれと……。お、ちょうど起きてきた。うるさくて目が覚めちゃったかい?」

 寝床から起き出してきたスラランが、子どもたちがいるテーブルに飛び乗る。


 彼が現れたことに子どもたちは当然驚くが、反射的に攻撃を仕掛けることはなかった。

 恐れを抱いている様子はなく、むしろ家の中にスライムがいることに好奇心を抱いているようだ。


「その子も僕たちの家族、スラランっていうんだ。ほら、挨拶して」

 リビングに戻りながらスラランに指示を出すと、彼はプルプルと体を震わせてその場で大きく飛び上がった。


 これがスララン流の挨拶だ。


「スライムに挨拶されたのは初めて。よろしく」

「え、えっと……。よろしく、スララン」

 子どもたちは挨拶を終えると、興味深そうにスラランのことを見つめていた。


 そんな彼らにスラランはゆっくりと近寄り、コロコロと転がりだす。


「その子たちのこと、気に入ったんだね。触ってもいいよって言ってるみたいだよ」

「本当ですか……!?」

 スラランを触る許可が出たことに、子どもたちは目を輝かせる。


 早速彼らはスラランと触れ合いを始め、彼も嬉しそうに子どもたちと交流をしていた。


「お待たせしました、薬草を持ってきましたよ」

「ありがとう。準備はしておいたから頼むね」

 リビングに戻ってきたナナは、何枚かの薬草を手にキッチンへと向かう。


 彼女が煮だしを行っている間に、子どもたちから色々聞きだしておかなければ。


「さて、僕たちから色々聞きたいことがあるんだけど、答えてくれるかな? スラランと遊びながらでも構わないからさ」

「あっ……。はい、わかりました……」

 スラランの頬をもんでいた少女がこちらに顔を向けてくれた。


 少し明るい表情になったように見えるが、まだ怯えが残っているようだ。


「まず、君たちの名前を教えてほしいんだけど……」

「あ、ごめんなさい、聞いておいて忘れてました……。私の名前はレイカ、こっちは弟のレンです。私たちは双子の――旅人です」

 フードを被った少女――レイカが自己紹介を行ってくれる。


 彼女たちは旅をしているらしく、ここからはるか遠くからやって来たそうだ。


「十二歳になったら村を出て、知識を深めるための旅に出る文化が僕たちの村にある」

 同じくフードを被った少年――レンが旅に出ている理由を教えてくれる。


 知識を深める旅、懐かしい言葉だ。


「二人だけで旅をしていたんだよね? 休む時はどうしていたんだい?」

「集落から離れている家を探し、そこで泊めさせてもらったりしていたけど、大体は野宿をしていた……」

 僕の質問に、レンはうつむきながら答えてくれる。


 どうやら、かなり過酷な旅をして来た様子。

 大人でも負担が大きいだろうに、子どもで、しかも二人だけとなるとまともに休むこともできなかったはずだ。


「これからどうするつもりなんだい?」

「……私たちは、この地域を見て回りたいと思ってます」

 これからの予定をレイカが話してくれる。


 アマロ村や、その周辺にある様々な地形を見て回りたいようだ。


「う~ん……」

 椅子から立ち上がり、キッチンに足を向ける。


 この辺りのモンスターは大人しいので、子どもたちだけで旅をしてもそれほど危険はない。

 だが僕は、あの子たちを放っておきたくないという思いに駆られていた。


 不安なのだろうか。いや、不安にしては僕の心はざわめきすぎている。

 この感覚は、一体何なのだろうか。


「あの子たち、どうにかしてあげられないかな……?」

 キッチンで薬を作っているナナに、小声で相談を持ち掛ける。


 すると彼女はため息を吐き、呆れたような表情を僕へと向けた。


「はあ……。ソラさんは既に決めているんでしょう? 私は構いませんよ」

 どうやら心の内を読まれてしまっていたようだ。


 本当に、ナナには敵わない。


「ごめん、勝手に決めちゃって……。でも、ありがとう」

「いいんです。さあ、お薬ができあがったので持って行ってあげてください。私はお片付けをしてから向かいますので」

 鍋から薬草を取り出し、煮汁を二つのコップへと移してくれる。


 それらを受け取り、姉弟がいるテーブルへと持っていく。


「はい、これでも飲んで。ちょっと苦いかもしれないけど、気分が落ち着くはずだよ」

「ありがとうございます。いただきます」

「……ありがとうございます」

 姉弟の前にコップを置くと、二人は中身を静かに飲みだす。


 弟のレンはコップを口から離すと、顔を苦々しく歪ませていた。


「……苦い」

 どうやら口に合わなかったようだ。


 とりあえず、レンは問題ないと見てよいだろう。


「……美味しいです。……ホッとします」

 姉のレイカは気に入ってくれたらしく、表情が少し柔らかいものに変化していた。


 想像通り、こちらは問題を抱えているようだ。


「落ち着くだけでなく、疲れを和らげる効果もあるんだよ。嫌かもしれないけど、眠りやすくもなるはずだからできる限り飲んでね」

 ナナが薬湯の説明をしながらキッチンから戻ってきた。


 彼女の説明を聞き、レンは嫌々ながらもそれを口にしていく。

 レイカは既に飲み終えたらしく、テーブルの上に置かれたコップは空になっていた。


「さて、ナナも来たことだし、話をしようか。二人に提案があるんだけど、いいかな?」

 レンがある程度薬湯を飲んだのを確認してから声をかけると、彼は嬉々とした様子でコップをテーブルに置いた。


 相当我慢しながら飲んでいたようだ。


「君たちはこれからこの辺りを見て回るって言ってたよね? そこで、しばらくここを拠点としないかい?」

 僕の提案を聞き、二人は大きく驚く。


 一晩だけ休めればと思っていたところに、数日間の宿泊許可が出れば驚くのも無理はないだろう。


「もちろん、その代わりとしてお手伝いはしてもらうけどね。どうかな?」

「嬉しいけど、そこまでして頂くわけにはいかない」

 レンはゆっくりと首を振り、僕の提案を断ろうとする。


 同じことを言われたら僕でも遠慮するはずなので、ごく普通の対応だろう。


「事情があるんでしょ? さっき人目にあまり付きたくないって言っていたし。ここならほとんど人が来ることはないし、二人分の部屋も用意できる。野宿をするよりずっと安全だよ」

 ここに滞在するメリットをレイカたちに伝えると、二人は顔を見合わせて悩みだす。


 提案を受け入れるか受け入れないかは彼女たちが決めなければならないが、他に伝えられることは――


「こっちのことは何も心配しないで。不自由なことにはさせないから」

 二人はうなずき合い、こちらに顔を向けてくれる。


 どうするか決まったようだ。


「……ありがとうございます。すみませんが、しばらくご厄介になってもよろしいでしょうか」

 レイカが小さくも、はっきりとした口調で意思を伝える。


 その言葉にうなずき、僕は彼女たちの前に両手を出す。


「うん、大丈夫だよ。よろしくね、二人とも」

「よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

 レンはしっかりと僕の手を握り返してくれたが、レイカはすぐに握ろうとはしなかった。


 だが、弱々しくはあったものの、彼女はゆっくりと手を伸ばして僕の手を握ってくれる。


「……姉さん?」

 そんな姉の様子を、驚くように見つめるレン。


 レイカは弟に顔を向け、落ち着いた様子で口を開く。


「この人は大丈夫……。そんな気がするんだ……」

 レイカの言葉を聞き、レンの表情が明るくなる。


 一体、彼女は何を抱えているのだろうか。


「時間ももうだいぶ遅いし、疲れているよね。今日はしっかり休んで、明日に備えよう。二人はご飯を食べてあるのかい?」

「大丈夫、もう食べてある」

 レンがコクリとうなずきつつ答えてくれた。


 食事を終えているのであれば一安心だ。

 寝る前の食事は体に良くないとはいえ、お腹を空かせたまま眠るのも褒められたものではない。


 ましてやレイカたちは成長途中の子ども。

 食事をせずに眠ってしまう方が、成長に影響を与えてしまうだろう。


「じゃ、部屋に案内するよ。荷物を持ってついてきてね」

 椅子から立ち上がり、レイカたちが過ごすことになる部屋へ向かおうとすると。


「一つ質問したい。良い?」

 レンが手を挙げて僕に質問の許可を求めてきた。


 こくりとうなずくと、彼は嬉しそうな表情を浮かべ、テーブルの一画に顔を向ける。

 彼の視線を追いかけると、そこにはモンスター図鑑の草案が置かれていた。


「そこに置いてあるモンスター図鑑って資料、何?」

 レンは興味津々な様子で、資料のことを質問してきた。


 どうやら僕は、外部の人物に秘密をばらしてしまったようだ。



「ああ~……やっちゃった……。ちゃんとしまっておくんだった……」

 姉弟を部屋に案内した後、僕はリビングのテーブルに突っ伏して後悔をしていた。


 今日は遅いから明日説明すると言ってその場は乗り越えたが、僕に向けられたレンの瞳の輝き具合を見る限り、誤魔化すことは不可能だろう。


「ナナ……。どうすればいいかな……?」

「いつまでもチェックを続けていたソラさんが悪いんですからね。私は知りません」

 ナナに助けを求めるも、不満げな様子を見せながら断られてしまった。


 僕はあの子たちに、どのように資料のことを説明すればよいだろうか。


「あの子たちは資料に興味を持っただけで、どうこうしようとは考えてはいません。ちゃんと教えた方が納得してくれるはずですよ」

 そっぽを向きながらも、ナナは僕に道を示してくれた。


 知らないと言いつつも、彼女は僕を助けてくれる。

 ナナにお礼を言うと、彼女は照れ臭そうにしながらコップに口を付けていた。


「その話は明日何とかするとして……。今日は大変だったね。エイミーさんが来て、レイカとレンがここに滞在することになって」

「賑やかでいいと思いますよ。ここまで来る人なんて、いままではほとんどいませんでしたから」

 確かに、これからはかなり賑やかなことになるかもしれない。


 二人だけでひっそりと暮らしていた時期を思うと、大きな変化だ。


「それにしても、あの子たちはどこから来たんでしょうね?」

 姉弟に割り当てられた部屋に続く廊下へ、ナナは顔を向ける。


 故郷の情報を確認したものの、教えてはくれなかった。

 いまはまだ、人に知られたくないから、だそうだ。


「遠く、ずっと遠くさ……」

 僕が住んでいた故郷を思い返しながらそっとつぶやく。


 万年白い雪に覆われた村。

 僕の家族は、いま頃何をしているのだろうか。


「もしかして、ソラさんは何か気付いたんですか?」

「ん? いや、自分の故郷を思い出しただけだよ」

 僕の返事を聞き、ナナは呆気にとられたような表情を見せていた。


 なんだろう、その表情は。


「ソラさんの故郷……。そういえば、知りませんね……」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 コクリとうなずいたナナの表情は、好奇心に満ちたものに変化していた。


 家族の故郷に興味を抱かない人など、ほぼほぼいないか。


「君は、僕たち『ヒューマン族』ではない人たち、異種族のことは知ってるかい?」

 ナナは僕の質問を聞き、考え込む仕草を取り出した。


 異種族――

 『ヒューマン族』に限りなく近い姿を持つが、どこか異なる特徴を持つ種族たちのこと。


 頭部に角が生えている種族や、ヒューマンよりも体が小さいというのに、軽々と大きな荷物を運ぶほどの筋力を持つ種族もいる。


「私たちが住む、『アヴァル大陸』以外の大地に住んでいると言われている人々のことですよね? それがどうしたんですか?」

 天井を見上げ、フッと息を吐いてから静かに答える。


「僕は、その異種族の内の一つに育てられてきたんだ」

「え……」

 想像通り、ナナは驚いた様子で声を発した。


 天井から視線を外し、再度彼女へ顔を向ける。


「ヒューマンでありながら、異種族の元で暮らしていた……。なるほど、だから他の人たちと比べて雰囲気とかが少し違ったんですね」

 驚いた声を出したのだから、驚愕の表情を浮かべていると思ったのだが、彼女の表情は得心がいったとでも言いたげな物だった。


 なぜ、納得されたのだろうか。

 雰囲気が違うというのも良く分からないが。


「そのままの意味ですよ。私たちと比べて、興味を抱く物が少しずれてるなーって思ってたんです。ヒューマンらしくないって思ったこともありますし」

 どうやら、見る人が見れば違和感を抱く程度には違う所があったようだ。


 種族が同じでも、住んでいた地の文化や風習の違いは、どうしても出てきてしまうのかもしれない。


「ソラさんがこの話をしだしたということは、レイカちゃんたちはヒューマンではなく、他の種族ってことですね?」

「正解。さすがだね、これだけで気付いちゃうんだから」

 答えにたどり着いたことを褒めると、ナナは嬉しそうに微笑んだ。


「分かってはいると思うけど、深く詮索はしないであげてね。自分たちの正体や悩みを打ち明けてきたら、その時に抱き止めてあげればいいから」

「もちろんです。お薬のおかげで、レイカちゃんが痛みを抱いていることは理解できましたし、無理に歩み寄ってより深く傷つけるわけにはいきません。あなたにやってもらったように、あの子が抱く痛みを和らげられるように努めようと思います」

 僕たちはうなずき合い、レイカたちを守る決意を抱く。


 お互いここまで戻ってこれた。

 きっと、彼女も癒せるはずだ。


「それで、ソラさんはどんなところに住んでたんですか?」

「万年、雪に覆われた村だよ。基本的には狩猟で生活が成り立っている村でさ――」

 僕たちは眠くなるまで、故郷の話題で盛り上がるのだった。

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