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キャリーバックを買わない母親

作者: さとう あか


 それはとある職場の出来事だった。


「あー、どうしようどうしよう!」


 聞こえてはいるが、誰も反応しない。


「子供が修学旅行なのにまだキャリーケースもリュックも何も買ってない!!」


 この職場の、しかも仕事中にそんなことを言うのである。繁忙期ではないだけまだマシなのだろうか?


「どうしよう!!」


 さっさと買えよ、なんて誰もが思ったがそんなことを言う人間はいなかった。


「どうしよう、どうしよう!!」


 私のキャリーケースを貸しましょうか?


 そう言ったのはこの職場で一番若い女の子だった。


「本当!ありがとう!!」


 私たちは驚きました、そして会社が終わってから彼女に言った。


 あの人に物を貸すのはやめた方がいい、貸して帰ってこなかった人もいる、ろくなことにならない、やめた方がいい、と。


 すると、彼女は怒ったように言いった。


「私が貸すのは娘さんにですし、そんな噂話を信じているみなさんはどうかしています!」


 と言っていた。


 噂話などではない、でも彼女にそれを説明するための証拠も私たちは持ち合わせていなかったのだ。



 このときはわからなかったが、あの人の子供は3人いる。しかもキャリーバックが必要だと言ったのは一番上の子の中学校の修学旅行だった。



 

 子供が3人もいるんだからキャリーバックを兄弟兼用にして買ってもいいんじゃないかと思ったがあの人はそうは思わなかったようだった。というよりも貸してくれる人がいる、ラッキーというように思っているようだった。


「今度は真ん中の子の修学旅行なの!またキャリーバック貸してくれない?」

「上の子の部活の合宿なの!」

「一番下の子の修学旅行なの!」


 と、約5年にわたり様々な理由で新人だった女の子からキャリーバックを借り続けた。


 そしてキャリーバックを貸していた女の子は転職した。


 あの人の貸して貸して攻撃のせいだったのかどうかは、わからない。


 ただあの子は最後の勤務日にした話はやけに耳に残った。


「みなさんがやめた方がいいって言ったじゃないですか。でも私、あの人と仕事してそんなことするような人じゃないって思ったんです。だけど実際にバックを貸してあの人がみなさんが言っていたことは本当だったんだってわかったんです。火のないところに煙はたたない、なんて言葉をこんな形で実感するとは思っていませんでした」


 当時を思い出しながら、どこか他人事のように彼女は言った。


「私、この5年間で3回キャリーバックを買い替えました。あの人のお子さんに貸した後、すっごい消耗してるんです。1回目は仕方ないかなって思ったんです。2回目はまたかって思ったんですけどいやになってきたんです。3回目にはもう我慢できなくなってもう貸さないって思ったんです。だから貸しませんって言ったらなんて言われたと思います?ケチ、ですよ。ケチ。」


 当時のことを思い出しているのか、彼女は大きなため息をついた。


「何言ってるんだろうって思いましたよ。ケチはお前だ!って言いたくなったんですけど一応先輩なんで言わないでおいたんです」


 そうしたらどうしたと思います?そう彼女は心底呆れたように続けた。


「入ったばかりの新人の子にキャリーバックを借りようとしていたんですよ。呆れちゃいましたよ」


 その子も私が貸してあまりいい感情を持っていないのを知っていたから貸さなかったんですけど。と付け足した。

 最後の最後に知った衝撃の事実。

 そんなことがあったが彼女は特に何も思っていないようだった。


「どうしよう!次の連休の旅行に行くのに持っていくバックがない!」


 いいかげん買えよ。


 誰もが思ったが、誰も伝えることはなかった。


 

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