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Paranoia-パラノイア-  作者: 水野スイ
4/4

STAGE3 偽りとほほえみ ー"But I know it's an instinct."


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私は不幸にも知っている。 時には嘘による外には語られぬ真実もあることを。





芥川龍之介


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腹のナカで、ナニかがうごめている。


それは心臓よりもはやく、少年の息よりも遅い。


じわじわと、根が張り巡らされているような気がする。




今日自分は何を見た?


今日自分は何をされた?


大量の血は?あの声の主は?


今日自分は何になった?




薄暗い部屋の中、レンは腹を抱え込んでベットに横になっていた。


聞こえてくる姉のかすかな息と、カチカチとうるさく鳴る時計の規則さに、


また嫌気がさす。


身にふりかかった不規則な事態に、後ろ指をさされているかのようだった。




かんがえてもかんがえてもかんがえても


ありえない事が起こった。


でも自分ではどうしようもできない。


かといって、もう姉に心配をかけたくない。


なにも、できない。


なにか、あるのに。





しばらくすると、階段の下のほうで、声が聞こえた。




”そう..そのまま"


息が荒い。


女の声だった。


聞いたこともない、喘ぎ声のようなそれに、レンは震えあがった。




おそらく、姉も自分も知らない女性が居る。


そして、今そこで何をしているか、はっきりわかる。


気持ち悪い。そう思うたびに、なぜか胸のあたりがジワジワと痛み、うごめく。




レンは部屋から見える向かい側の家の部屋の明かりが消えたら寝ようと、じっと窓を見ていた。


しかしどこか、消えてないでほしい、と思い続けていたまま、朝を迎えた。


なぜか喉のあたりがぐっしょりと濡れていた。








レンは、ふらふらと階段から降り、また散らばった食器や食べかけのものを処理している姉の姿を目撃した。




「おはよう」




レンは、しずかに微笑んだ。




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STAGE3 偽りとほほえみ ー" But I know it's an instinct."


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「情報が入った?」


平凡な街中を一台の白いセダンの車が走っている。


トランシーバー片手に、金髪の男が、頭をかきながらそうつぶやいた。


メガネをかけた若い男が、ハンドルを握りながら、バックミラーで金髪の男をチラリと見た。


「例の件ですか?動きが早い 。伊勢さん、どこですか?」


伊勢と呼ばれる金髪の男は、スマートフォンでトランシーバーから聞こえてくる情報を頼りに、場所を探した。


「...南区三丁目の公園。で、通行人が木陰に倒れている”ヒトのようなもの”を発見。通報したわけだよ」


「”ヒトのようなもの”?」


「...お前は新しく入ってきたからか。...被験体は長らく実験室にいた身だからね。いくら多くの”液”を”奪い返しても”、生き延びるのは不可能だったんだよ」


白いセダンは、歩道橋で赤なのにもかかわらず、渡ろうとする歩行者を見つけた。


運転手のメガネをかけた若い男は、いそいでブレーキをかけた。


「っ...霧島。もっと優しくかけろ。サンプルがここにいたらぐちゃぐちゃだ」


霧島、と呼ばれるその人物はゆっくりと口を開き始めた。


「もしその彼女に”オーシスト”が、無かったとしたら?」


そのオーシスト、という言葉に伊勢は、息をのんだ。


後ろの車が、早く前に進め、とクラクションを鳴らしている。


「ブレーキでもなんでも、アクセルを踏め。急いで向かえ」


その言葉を合図に、霧島は口角を上げ、セダンを飛ばした。






「学校にいない?一緒に登校したはずです」


職員室にまた呼び出され、レンが居ないことを教師から告げられた。


「教師も忙しいんだ。いいかげん君の弟を...」


低学年の生徒たちのクラスの廊下で話していると、イツキの制服のスカートを、背の低い女子生徒が引っ張ってきた。


「...どした?」


「レンくんなら、おとおさんに呼ばれたって言って、おうちにかえったよ」


イツキはその言葉を聞き、教師の止める言葉を無視して、一目散に自分の教室へと向かった。




「日向くん、ごめん、下校する!」」


本を読んでいる(そういえば)学級委員長であった日向に、告げ、学校を出た。


「え、え、え!り、りゆう、ちょ、え!」


日向のけたたましい声が、教室に響いた。








「はぁ.....っ、はあ、はあ、あ....」


 バスから降り、自宅へ向かうと何やら怒号が聞こえた。


すぐに玄関のドアを開けようとするが、ドアノブを回そうとも、回らない。おそらく鍵が閉められている。


 すぐに裏へと回って、塀を飛び越えて窓から入ると、リビングでレンでうずくまっていた。リビングはものが散乱し、テレビにもひびが入っている。机や椅子も倒れて、なにやら奥の方で複数人の男の声がする。


「レン、レン!」


 レンの体をゆすると、ゆっくりと目を開けた。レンの眼帯をしている目から血が出ている。


「今替えの包帯持ってくるから、ちょっと待ってね」


「おそいじゃないか!イツキ!」


 義父の声が聞こえ、後ろを振り返った。すると、同僚だと思われる別の男2人が、逃げられないように、とイツキが入ってきた窓の方へと体と寄せ始めた。イツキはいやな予感がし、どいて、と言うが、髪を掴まれ、床に投げられた。


「ッ.......義父さん」


「今日は同僚が泊まりに来るっていってたのに。準備も何もせずにいるなんてよ」


 義父は、脅すように床を足で踏み鳴らした。


「...レンになにしたの」


「はあ?関係ないだろ。誰のおかげで生きていられると思ってるんだ。」


「...レンを傷つけないで!なにしたかって、聞いてるの!」


 イツキはレンの前に立ち、義父をにらんだ。


「ちょっと教育をしてやっただけだ。昨日こいつが何をしたか知ってるか?あ?」


 イツキはレンを見つめ、首をふった。


「昨日俺が連れ込んでるときに、そいつが階段を下りてきて、いきなり吐きやがったんだ。おかげでムードは台無しだよ。だからこの時間に学校に帰ってこいって命令したんだよ」


 レンは目を丸くして、首をふった。しかし、とっさに今朝の首のあたりの違和感を思い出した。そして、じわじわと脳裏が焼けるように熱くなり、昨晩の記憶が鮮明になっていく。頭を抱え、うめきだした。


「レ...ンッ!」


 イツキがレンの名前を呼ぼうとしたとき、後ろの2人に腕を拘束され、口をガムテープで閉ざされた。


「ンンンッ...ン!ン」


 足でけり上げようとも、何をされるか分からない恐怖感に、イツキはただ従うしかないのだと気づいていた。


「次はお前に教育しなきゃな。ここの家の通りは昼間は居ないんだ。誰も来ないぜ」


「う、う、あ、ああ、あ!」


 その時、レンの眼帯から血があふれ出し、それが木の根のように顔をじわじわと浸透していく。首筋にかけ浸食され、レンには夜の記憶がチラチラとフラッシュバックする。




 抱きしめあう男女、卑猥な音、こちらを見る女の瞳。瞳....ひとみ?顔がわからない。


誰、誰。


手を伸ばされ、胸に入ってくる。




あのときみたいに。




僕の、ナカに。植え付けられる。




あなたは、誰?




これは、何?




僕は、?




僕の...








ハイッテクル


ボクノナカニ


ココロノオクフカクマデ








『じんるいのために』






イヤ


イヤ


いや


嫌!!!




ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン......


あの時の声が声がこだました。




「あああああああッ!」


レンは声を張り上げた。





「うるせえな、だまらせておけ」


 男2人が、レンを押さえつけ、口を塞いだ。




 イツキは義父に制服のリボンをとられ、一気にブラウスを剝がされる。下着が丸見えになり、屈辱感が体に突きささった。手足の震えが収まらない。




「ンンン....」


「じっとしてろよ、ハハ、ハハ....ハッ.........!」






 レンのためなら。


 イツキが、そう覚悟を決めていた時だった。






「姉さん」




 


 


 いつものか細い声ではない。


 芯の通った、力強い声がした。


 




 ヒュッ........フッ...パシッ..............フッ...........ガタガタガタ....


「ガッ............あ、あああああ!!!!俺の、おれのう.............で.........」


「ぎゃああああああああああああ!!!!」 


「うっ、、、、あっ、あっあ!!」


 ごきっ.............ヒュウッ....ヒュウ.......




 何かがはちきれる音とともに、イツキの体に液体がかかった。塞がれた目で見ることは出来ないが、何か動くものが頭上をすかした。そして男たちの悲鳴が響き、次第に声がしなくなり、気づけばヒューヒューッ、という”なにか”が息をしている音が残っていた。




「ンンン....ン、ン」


 イツキは倒れこみ、状況を把握しようと拘束を解こうとする。


「ばけもの.....ばけものだ!!!!!なんだこいつ!!腕から......!!あ、あ、あ!!!」


 義父の声が響き、ばたばたと駆け足がする。おそらく逃げようとしているが、しばらくして、カチッ、というナイフを取り出す音がした。イツキはなんとか立ち上がろうとするが、足がすくむのと、その”液体”で、滑ってしまうのだ。


「ああああああああ!!」


 グっ.................っ


 義父が、おそらくレンに刃物を突き刺した。


と同時に、パシッという、何かを切り裂く音がした。


同時に拘束が解け、両手で目を覆っているものをゆっくりと剥がしていく。


靴下にその液体が染みているのが分かり、気持ち悪さと共に、顔を上げた。





「あ.................あ、あ」


 イツキは、絶句し言葉が出なかった。


散らばった成人男性の死体。手足がない胴体。血がとびちった部屋。まるで殺人鬼が惨殺したあとのようだ。


そして、その部屋にたたずむのは、




殺人鬼のような、


背の低い、


見覚えのある、


紺色の髪の


大好きな、





「レ.....................ン」




血で頬を濡らし、


背中から白い突起物を出し、


髪と瞳は半分白く変色し、


指先から、白い木の根のようなものを出し、


それがするするともとへ戻っていく。




「レ................」




そこから声が出ない。




「ねえさん」




これはレンじゃない。


そう信じたい。


違う。


ちがう。


ちがうよね。




「もう大丈夫」




その人物は、そう言って微笑んでいた。


リビングにあった、イツキとレンと背の高い女性が3人で映っている写真に


血しぶきがかかっていた。




 






「...........原型を保つとはね。それが少女の姿だとは」


 夕暮れ。


 大勢の報道陣をかきわけて、伊勢と霧島が”現場”へと向かった。ブルーシートで囲まれたそこに、台にのせられた”ソレ”があった。その様子は、幼い少女が眠りこけたような姿で、白い布がかけられていた。肌は白くなり、血がかよっていないようだ。


「良いニュースはない...霧島、お前が言う通りだよ」


 霧島は数秒黙って、伊勢の方を見た。


「パラノイア種の核ともいえる、オーシストが無い。ただチームによれば、第三者に無理やりはぎとられたも形跡はない」


 伊勢がぼんやりとした目で、横たわる少女を見つめながらそう言った。


「.....」


 霧島は、その言葉にはっとした。


「自ら、オーシストをほかの者に移したと?つまり、宿主が他にいるということですか」


「...チームは、この生物を本部へ運べ。オーシストが無い貴重なサンプルだからな」


 伊勢はチームに指示をし、防護服を着た人物たちが慎重にその体を持ち上げ、運んでいく。その様子を、報道陣たちが一斉に追いかけていく。


「これは一つのチャンスだ。いいか?」


 伊勢は運ばれていくサンプルを見ながら、霧島の肩に手を置いた。


「すべての”計画”のためには、あの女のオーシストが必要だ。そしてそのためには」


 そして、公園にあったブランコに座った。


「...彼女のオーシストを受け継いだ宿主を探し出し、殺し、再び彼女の元へ還せば、大手柄だというわけだ」


 霧島は、目を細めた。


「帰るぞ。さっそく調査開始だ」


 伊勢がブランコから降り、公園から出ていった。




 伊勢が出ていったことを確認し、霧島はただ茫然と立ち尽くした。


 カラスがばさばさと飛び立っていき、公園の周りで自転車をこぐ音がする。


 


 そして、霧島は、揺れているブランコを見つめ、


 手でその揺れをゆっくりと止めた。




「おい、早くしろ。霧島」


 伊勢の声に、霧島は微笑み、振り返って、出口へと歩き出した。




 霧島の手から、白い幹のようなものが、見え隠れしていた。

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